アジア太平洋地域のデータセンターパークと集積地 : サステナブルなデータセンター開発の未来
要点
データセンターエコシステム(生態系)に参加するすべてのステークホルダーは多彩なメリットを享受できます
- 投資家:スケールメリットを活かしてコスト削減を推進できます。
- オペレーター:接続拠点として中心的な役割を果たすことで、スムーズな相互接続と効率的な運用を実現できます。
- テナント:カスタマイズされたソリューション、拡張性、高度な災害復旧対策からメリットを得られます。
- 自治体:IT関連投資や雇用創出を通じた地域経済活性化の恩恵を享受できます。
- その他:データセンターが集積すること、それ自体がIT人材を惹きつけ、コラボレーションを促進し、経済成長に貢献します。
データセンターが集積することですべてのステークホルダーに多面的なメリットをもたらします
データセンターの集積は、日本の千葉県印西市から、インドのナビムンバイ、マレーシアのセデナックテックパーク等まで、アジア太平洋全域で見られます。これら集積地においては、戦略的立地の確保、堅牢なインフラ、再生可能エネルギーへの取り組み、用地確保、政府支援等のメリットが得られます。
政府は、税制上の優遇措置、用地利用の許認可、電力等のインフラ整備等さまざまな戦略的イニシアチブを通じて、重要な役割を果たしています。
データセンターが集積することで、リソースの最適化、相互接続性の向上、成長機会の提供、IT系人材の呼び込みに寄与します。効率性の向上、資金の呼び込み、運用優位性、経済的繁栄、活気あるIT人材のエコシステムを通じて、独自のデータセンター経済圏を形成することができるでしょう。
「データセンターパーク」とは
データセンターパークを一言で説明すると「複数のデータセンターを近接して収容・運用するために設計された専用エリア」のことです。
データセンターパークには通常、十分な電力供給、堅牢なセキュリティ、ファイバー接続等、データセンターの運用に必要なインフラが完備されています。
アジア太平洋地域におけるデータセンターは、計画的に設計・区画分けされたデータセンターパークではなく、市場原理に基づいて集積したケースが大半を占めます。しかし、ラック密度が増加し、新しいデータセンターに求められるスペックが変化するにつれ、状況が変わりつつあります。
“データセンターパークと集積地は、リソースの最適化、相互接続性、成長の機会、そしてIT人材の呼び込みに寄与しています。これらは、効率性向上、金銭上の利益、優れた運用、経済的繁栄、活気あるIT人材のエコシステムを通じて、独自のデータセンター経済圏を形成しています”
グレン・ダンカン
アジア太平洋地域 データセンターリサーチ部門長
効率的な運用とコラボレーションの推進
データセンターパークでは、企業がIT負荷を維持・管理するために手間のかからない拡張性の高い環境を備えると同時に、運用のための高速接続と信頼性の高いリソースを提供します。
一方、集積地以外のデータセンターでは、開発・運用に必要なリソースを自ら調達し処理しなくてはなりません。これには開発用地の用途地域の確認、用地調査、土壌検査、電力と水の調達、ファイバー接続の申請・設置等が含まれます。
大規模な電力を新たに確保することが難しくなっている今、既に電力を確保しているデータセンターパークは、投資家やオペレーターにとって魅力的な選択肢となるでしょう。
オーダーメイドによる多面的なソリューション
データセンターパークや集積地内に拠点を置くことは、投資家、オペレーター、そしてテナントにとってリスク軽減につながります。
データセンターパークや集積地は、豊かで広範な技術系エコシステムを求めるIT人材の呼び水となります。
高いスキルを有するIT人材がデータセンターパークに引き寄せられることで、テナントとオペレーター双方にメリットをもたらす協力的な環境が生まれます。
IT人材の流入は地域活性化に寄与し、地域経済全体の成長に貢献します。
政府は、就労ビザの緩和や税制優遇措置等を含む経済特区を創設することで、IT人材におけるエコシステムの発展を支援することができます。
地域経済の活性化
自治体では、データセンターパーク内で最適化されたリソースを利用できるという恩恵を受けられ、土地とインフラの持続可能な利用を促進できます。ところでデータセンターは電力消費の大きな施設です。再生可能エネルギーの新規開発プロジェクトをデータセンターパーク近隣に集中させることで、それらのプロジェクトは最適な効果を得ることができるでしょう。
さらに、データセンターパーク開発から生まれるIT投資と雇用機会が地域に与える経済効果は非常に高いことが明らかになっています。
一般的に、データセンターは開発段階では多くの雇用を生み出すものの、運用開始後の雇用者数はそれほど多くありません。しかし、データセンターの存在なくしてクラウドとデジタルのエコシステムは成り立ちません。データセンターは事実上、クラウドの屋台骨であり、これこそが大規模雇用を創出し、国にとって真の恩恵となります。
革新的なデジタル経済の一部として開発されるソフトウェアの一つひとつが多くの雇用を生み出す可能性があり、ソフトウェアは無数に存在します。データセンターパークに備わる合理化された規制の枠組みもコンプライアンスを保証しながら経済成長を牽引します。
投資家やオペレーターは規制を遵守していることに確信が持てるため、この点でもリスクの回避とプロジェクトの迅速な進行につながります。すべてのステークホルダーが環境・社会・ガバナンス(ESG)の義務を果たす上で、規制遵守の重要性は近年特に増しているのです。
IT人材のエコシステムの育成
さらに、こうしたデータセンターパークや集積地はIT人材の呼び水となります。IT人材は、スキルを磨くためのエコシステムを望み、雇用主のインセンティブと政府のイニシアチブによる魅力的な待遇を求めるためです。
高いスキルを有するIT人材がデータセンターパークに引き寄せられることで、テナントとオペレーターの双方にメリットをもたらすコラボレーション環境が生まれます。また、これにより地域に雇用が生まれ、経済全体の成長にも貢献します。
要するに、データセンターパークと集積地は幅広いステークホルダーに多面的なメリットをもたらすことができるのです。
データセンターパークが提供するコラボレーションを促進する環境、リソースの最適化、相互接続性オプション、成長への期待、そしてIT人材へのアピール等が、データセンター市場を構築する上で重要なのです。
このアプローチが勢いを増すにつれ、金銭上の利益のみならず、優れた運用、経済活性化、IT人材のエコシステム活性化等、永続的な恩恵が期待されます。
アジア太平洋地域のデータセンター集積地
閲覧性を重視するため、データセンター集積地を完全に網羅したものではないことにご留意ください。
出典:JLL
恵まれた環境により、世界的なハイパースケーラーをはじめとする主要オペレーターの誘致に成功。
戦略的な立地
日本は地理的に重要な位置にあり、中国、東南アジア、北米等の主要地域を海底ケーブルで中継しています。
画像出典:TeleGeography
首都圏では東部の印西市、西部の三鷹市、多摩市、都心部の大手町、江東区、そして北部のさいたま市がデータセンター開発の集積地となっています。
用地取得の機会
東京と成田空港の間に位置する印西市は、2つの鉄道路線が乗り入れ、都心へのアクセスが良好。東京都心のような人口密集地域とは異なり、まとまった開発用地を確保できたため、データセンターが集積しました。内陸部に位置し、強固な地盤、地下ループ受電システムがあることで、自然災害リスクを最小限に抑えることができます。
2018年に千葉県沿岸部を襲った台風において、その安全性は実証されています。また、強固な地盤を有する下総台地に位置する印西市は地震リスクも低いとされています。
再生可能エネルギーを中心としたデータセンター開発
印西市を含む区域で整備された千葉ニュータウン事業は、同地域の産業とデータセンター開発の成長につながりました。このプロジェクトは、信頼性の高いインフラを確保し、地域内電力の自給率の向上を目指しています。
そのため、印西市では再生可能エネルギーへの取り組みに注力しており、住宅や店舗には太陽光パネルが設置され、最大13kWの発電能力を持つものもあります。全国でメガソーラー事業を展開するスパークス・グリーンエナジー&テクノロジーが開発した太陽光発電所によって、印西市には12.8MWの電力供給量が追加されます。
将来的に増加が予測されるデータセンターの電力需要に対応するため、既存の154/66kV変電所から3km内に新たな変電所(275/66kV)を建設中、2024年までに稼働予定です。さらに印西市は東京湾や茨城県に存在する海底ケーブル陸揚げ局に近いことも特長です。
このような印西市の恵まれた環境は大手プレイヤーのうち5社の誘致に成功しており、その中には世界的な大手ハイパースケーラー3社も含まれます。そして、将来的なデータセンター開発に適した十分な開発用地を有しているのです。
ナビムンバイは用地の取得が容易であることから、データセンター開発・拡張の機会を提供。
地域屈指の拠点
ムンバイ近郊の計画都市であるナビムンバイは、地域屈指のデータセンター拠点として注目されています。戦略的な立地、強固なインフラ、政府の支援、そしてデジタルサービスに対する需要の高まり等により、データセンター開発の有力候補地となっているのです。
優れた接続性
インドでは海底ケーブルの増設数で過去最大の伸びを記録しており、ナビムンバイでも接続性が大きな利点となっています。インドの西海岸という好立地が国内外のファイバーネットワークへのアクセスを容易にしています。そして、インドに存在する海底ケーブル18本のうち9本が隣接するムンバイに陸揚げされています。
画像出典:TeleGeography
海底ケーブルへのアクセスが容易であることから、ナビムンバイはインドで最も高密度のケーブルネットワークを有し、ムンバイの金融街やテクノロジーパークに近接していることで便利な接続オプションを提供しています。
また、政府は市民への通信接続提供にも積極的で、直近では、すべての村の家庭に対してラストマイルの光ファイバーケーブルを整備するための予算が承認されました。
信頼性が高い電力供給
ナビムンバイは幹線道路沿いに3つの主要変電所があり、さらに東部には再生可能エネルギー発電所が多数存在していることで、安定的かつ再生可能エネルギー由来の電力供給体制を構築しています。ちなみに、インドでは電力供給の50%を再生可能エネルギーで賄うことを目標としています。
また、ナビムンバイは地震帯のゾーン3(5段階中)の地域で、実質的には中程度のリスクに該当するため、自然災害のリスクは比較的低いとされています。
政府によるインセンティブ
政府や自治体は、税制優遇、土地取得手続きの簡素化、電力料金補助等のインセンティブを用意し、データセンター投資家を呼び込んでいます。インセンティブは用途地域の変更費用の補助・負担軽減、電気税免除といった形をとる場合もあります。
こうした支援は、ナビムンバイをデータセンターの集積地として確立する上で重要な役割を果たしています。
拡大の機会
ナビムンバイは大規模なデータセンタープロジェクトに対応できる豊富な土地を有し、データセンターの開発・拡張に絶好の機会を提供しています。
また、ムンバイ、チェンナイ、ベンガルール等に比べ、不動産価格や運用コストの面で競争力があります。
戦略的な立地と接続オプションにより、STePはアジア太平洋地域でも有数のデータセンターパークとなっている。
マレーシア南部にある地域屈指のテックパーク
セデナックテックパーク(STeP)は地域有数のデータセンターパークのひとつです。StePが所在するマレーシア南部のジョホール州はデータセンターとデータセンターパーク開発の主要エリアとして認知されています。
近くには、YTLグリーンデータセンターパークやヌサジャヤテックパーク等のデータセンターパークが存在しています。
堅牢なインフラと大規模複合開発の一部
STePは政府機関であるJcorpによって開発が進められており、その第1期は700エーカーに及びます。
これは総面積7,290エーカーの複合開発の基本計画を先導するもので、STePはその第1期にあたります。
これにより、同地域のインフラを強固にし、複数のハイパースケールデータセンター等のさまざまな開発を支えることができます。
再生可能エネルギーへの注力
マレーシア政府はこの数カ月の間に、再生可能エネルギーの輸出における自主性を認める等、再生可能エネルギー産業において国を飛躍させるための大きな動きを見せています。
最近、国内の大規模な再生可能エネルギーの導入を促進する国家的な取り組みが開始され、2050年までに国のエネルギー供給全体に対する再生可能エネルギー比率70%を目指す10件のプロジェクト概要が示されました。
そのひとつが、マレーシアの政府系ファンドであるカザナ・ナショナル(Khazanah Nasional)が主導する、ジョホール州に建設される1GWのハイブリッド太陽光発電所です。
また、ジョホール州ならびにSTePは国内20本以上の海底ケーブルが敷設されており、今後数年のうちに複数の海底ケーブルが追設される予定です。
加えて、東南アジアのデータセンター集積地に近接することから、接続性はさらに向上します。
STeP内、そして近隣のデータセンターパーク、特にYTLグリーンデータセンターパークやヌサジャヤテックパークでは、アジア太平洋および世界の大手データセンターオペレーターやハイパースケーラーがその事業所数と容量を増やし続けています。
複数のメリットを備えたデータセンターパーク
STePは自然災害のリスクが低く、広大な土地と高度なスキルを持つ人材に恵まれ、大規模な再生可能エネルギーをはじめとする政府による先進的な取り組みがなされています。
STePは国内および近隣諸国との接続性が高い戦略的立地と、多様なサービスを提供することにより、地域でも有数のデータセンターパークとなりました。
STePの第2期は2024年までに完成予定で、その規模は640エーカーに及びます。
この第2期の拡張では、主に太陽光発電所からの再生可能エネルギーを活用します。
三井物産とJCorpの合弁事業では、この太陽光発電所に加えハイパースケールデータセンターの開発を積極的に検討しています。
以上が意味することは?
データセンター企業、通信事業者、OTT、ハイパースケーラー等のテナントにとって、拡張性、製品の迅速な市場投入、持続可能性、低遅延、高性能コンピューティングが重要な優先事項であり、それらの諸条件を満たすにはデータセンターパークや集積地が適しています。
データセンターパークにはテナントが享受できるメリットが多く、その結果、有望な投資先となっている。→その結果、有望な投資先となっています。
さらに、データセンターパークが有する高品質のインフラ機能や政府の優遇措置も、投資家やオペレーターを惹きつける魅力となっている。