データセンターを海外に置くメリットとは?市場動向や国内と海外の比較も解説
データセンターの設置・運用を検討している企業に向けて、データセンターを海外に設置する場合と国内に設置する場合、それぞれのメリット・デメリットやコスト感、市場動向などを詳しく紹介する。
日本とグローバルのデータセンター市場動向
データセンター設置場所を海外にするべきか、国内にするべきかを検討するため、まずはデータセンター市場のグローバル動向やトレンドを確認しておこう。
世界的なデータセンター市場の成長と今後の予測
世界のデータセンター市場は急速に拡大しており、総務省の発表した令和4年版「データセンター市場の動向」によると、2021年の市場規模は23兆7,069億円で前年比24.0%増(出典:Statista)であった。
この成長を牽引する要因としては、
- クラウドコンピューティングの普及
- ビッグデータ分析の需要増加
- 5G技術の展開
- AI・機械学習の発展
などが挙げられる。
一方、日本での2021年の市場規模は約1兆7,341億円(出典:IDC Japan)で、グローバルと比較してやや緩やかな成長率となっていた。しかし、その後の急速な円安の進行で、海外から見るとコストを抑えて運用できる市場として注目が集まっている。米国企業を中心に、日本のデータセンターに向けて4兆円に迫る投資が行われ、今後さらなる伸長が予想されている。
主要な海外データセンター拠点国とエリア
グローバルなデータセンター市場では、いくつかの主要拠点が存在する。
北米や欧州は、気温が低いエリアが確保でき、技術力も高いことからデータセンターの需要が高く、主要拠点となっている。欧州では、フランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリが主要なDC集積地となっており、厳格なデータ保護規制(GDPR)と再生可能エネルギーの活用が進められている。
アジア太平洋地域では、シンガポールと香港が重要なハブ機能を果たしており、急速に成長する市場として注目されている。また、中東・アフリカも新興市場として期待されておりインフラの整備が進んでいる。
グリーンデータセンターは世界のトレンド
データセンターの増加に伴い、その電力消費量と環境への影響が世界的な課題となっている。これを解決すべく、再生可能エネルギーの利用や高効率の冷却システムを採用した「グリーンデータセンター」の開発が進み、世界的なトレンドとなっている。多くの大手テクノロジー企業が2030年までにカーボンニュートラルの達成を目指しており、環境配慮型のデータセンターは今後さらに増えていくだろう。
その他の日本とグローバルにおける詳しい動向の変化を正しく理解することで、自社に最適なデータセンターの設置が可能となるのではないか。
海外データセンターのメリット
海外にデータセンターを設置することで、コスト削減や通信の遅延回避、自然災害のリスクの低減などを実現することができる場合がある
海外にデータセンターを置く場合のメリットは以下の項目が挙げられる。
コスト削減の可能性
電力料金の安い国や再生可能エネルギーが豊富な地域にデータセンターを設置することで、大幅な運用コストの削減が見込める。税制優遇措置を設けている国もあり、初期投資や運用コストで有利になる可能性がある。
グローバル展開の拠点となる
海外データセンターはグローバルビジネス展開の拠点にもなる。現地のユーザーに近い場所にデータを配置することで、レスポンス時間を短縮できる。設置先の各国・地域の法規制に対応したデータ管理を行うことで、ビジネスのローカライズやグローバル展開のスピードアップにもつながる。
多角的なデータバックアップができる
日本国内と海外にデータセンターを分散させることで、より多角的なデータバックアップ体制を構築できる。自然災害や疫病・政治的紛争など、特定の地域で問題が発生した場合でも、別の地域のデータセンターでデータを保存・提供でき、顧客サービスや事業継続性の向上が可能だ。
自然災害のリスクが低い
日本は地震や台風などの自然災害が多い国だが、海外には歴史的にそれらの災害がほとんど起こっていない地域も多数存在する。こういった地域にデータセンターを設置すれば、自然災害によるデータ損失や事業中断のリスクを大幅に低減できる。
特に重要なデータや事業継続性が求められるシステムの運用には、海外データセンターは有力な選択肢となるだろう。
海外データセンターのデメリットや注意点
海外データセンターには利点も多いが、以下のような点には注意が必要だ。
法規制
各国の法規制はデータセンター運用に大きな影響を与える。特に個人情報の保護やデータローカライゼーションに関する法律の範囲は国によって異なり、遵守しない場合は罰則の対象となるおそれがある。
また、法改正によって突然データの国外移転が禁止されるなど、予期せぬリスクも存在する。企業は設置先の国の法規制を十分に理解し、常に最新の情報を把握しておく必要がある。
コンプライアンス
海外でのデータセンター運用には、現地のコンプライアンス要件への対応が不可欠だ。データの取り扱いについては、ISO、HIPAA、FedRAMP、SOCといった国際的かつ業界固有のコンプライアンス標準のほか、オーストラリアのIRAP、EUのG-Cloud、シンガポールのMTCSなど、国やリージョン固有の標準も存在する。
これらの要件を満たすために専門知識や追加のコストがかかったり、定期的な監査や報告義務などの継続的な管理が求められたりする可能性がある。
セキュリティ
海外データセンターでは、日本国内以上に物理的・論理的セキュリティの確保が重要だ。サイバー攻撃のリスクは国によって異なるが、特定の地域ではより高度な対策が必要になるかもしれない。
また、現地スタッフの管理や建物への侵入対策、データの越境移転に関するセキュリティポリシーの策定など、日本国内とは異なる観点でのセキュリティ対策が求められる。
紛争や治安の悪化
政治的な不安定さや紛争リスクは、海外データセンター運用で特に注意すべき事項だ。突発的な政変や国際紛争により、データセンターへのアクセスの制限に加えて、最悪の場合はデータの喪失や事業の中断につながる可能性もある。また治安の悪化は施設やスタッフの安全を脅かし、安定的な運用を妨げる要因となりうる。
通信環境やデータ遅延
日本国内向けサービス用に海外のデータセンターを利用する場合、日本から距離が離れるほどレイテンシ(通信遅延)が発生しやすくなり、リアルタイム性が求められる株取引や自動運転などのサービスには適していない。
また、国際回線の品質や安定性は雷やハリケーンなどの気象条件に影響を受けることもある。政治的要因による通信遮断のリスクも存在するため、代替ルートの確保など万全の対策が求められる。
サポート体制
日本国内と海外のデータセンターで大きく異なるのがサポート体制だ。言語や時差により、日常的な運用管理についても、緊急のトラブルの際も、電話などによる即時のサポートが得られない可能性がある。
その他にも技術者の確保や教育・現地スタッフとの連携など、サポート体制の構築には多くの課題が存在し、24時間365日の安定運用を実現するためにはこれらの課題への十分な対策が必要となる。
国内にデータセンターを設置するメリットとデメリット
国内データセンター設置のもっとも大きなメリットは法規制への対応が容易な点だ。国内であれば個人情報保護法などの遵守も容易で、データの国外移転に関する懸念もない。また、言語や文化の壁がないため、運用・従業員の管理やサポートが円滑に行える。地理的な近さによる低遅延、災害時の現状把握と対応しやすさも利点だ。情報漏洩のリスクも低く、安心して使用できる点も大きなメリットとなる。
一方、デメリットとしては電力料金や人件費が海外と比べて高額になりやすいこと、自然災害リスクが比較的高く、特に地震対策には多額の投資が必要となることが挙げられる。さらに電力需給に時間がかかり、大規模な拡張や新規開発の選択肢が限られる点も課題だ。
以上の要素を踏まえ、自社のニーズと優先事項に基づいて国内にデータセンターを置くべきか検討を進めよう。
また、日本のデータ市場の動向も考慮に入れることで、より一層費用対効果の高いデータセンター戦略を立案できる。
国内データセンターと海外データセンターのコスト比較
海外にデータセンターを設置する目的はさまざまだが、「コストの削減」は多くの企業が重視している要素だといえる。そこで、国内データセンターと海外データセンターの一般的なコスト比較について紹介する。
海外データセンターの初期費用には、土地取得費、建設費、設備投資費などが含まれる。これらは立地や規模によって大きく変動するが、一般的に日本より安価な場合が多い。また、ランニングコストには、電力費や人件費、メンテナンス費用などがある。特に電力費は、現在の世界的な物価高や円安傾向を加味しても、日本の約3分の1程度の国もあり、大きなコスト削減につながる可能性がある。
このように、海外データセンターは多くの場合、電力費と人件費で優位性を持つ。一方、国内データセンターは、通信コストや管理の容易さで有利な面がある。データの越境移転に関する規制や、災害対策の観点から、国内設置を選択するケースも多い。
海外データセンター運用では、時に想定外のコストも発生するため注意が必要だ。例えば、法制変更への対応費用、治安悪化によるセキュリティ強化費用、現地スタッフの教育費用などがそれにあたる。世界的な物価上昇や円安の局面では、同じ条件の立地や施設でも、円に換算すれば過去の数倍近いコストがかかってしまうケースもあるだろう。
総合的なコスト評価には、これらの要素に加え、自社のビジネス戦略や運用方針を考慮し、長期的な費用対効果を判断しよう。
データセンターの設置場所と国内回帰
従前、海外に置かれることが多かったデータセンターは、現在国内回帰の動きを強めている。主な理由として、世界各国で進むデータプライバシーの規制強化とデータ需要の急激な増加が挙げられる。特に、地元住民に関連するデータを国内で保管することを義務付ける規制は、データセンターを国内へ回帰させる大きな理由となっている。
また、デジタルコンテンツの保管先として、データセンターの需要も増大しており、データの通信速度や品質の問題に対処するために、国内にデータセンターを開設するケースも増えてきている。こうした理由に加えて、海外にデータセンターを設置することによる、データ流出のリスクやサイバー攻撃に対する対応への遅れが危惧されていることも、国内回帰の機運が高まっている要因の一つだ。詳細はデータセンターの立地場所に関する記事で紹介している。
データセンターの設置には海外と国内のどちらを選ぶべきか?
データセンターを国内と海外のどちらに設置するのかを選択する際は、コスト削減や通信速度、災害リスクなど、それぞれのメリット・デメリットを考慮に入れて選択する必要がある
データセンターの設置場所を海外にするか国内にするかの選択は、企業の事業戦略や特性によって異なる。
海外はコスト削減やグローバル展開に有利だが、法規制対応やセキュリティ管理に課題がある。一方、国内設置は、運用の容易さや低レイテンシが魅力だが、コスト面で不利な場合が多い。
選択の際には、
- データの重要度
- アクセス頻度
- 法規制要件
- 災害リスク
- 将来の拡張性
などを総合的に評価する必要がある。
「どちらを選ぶべきか」ではなく、重要データは国内に、それ以外は海外に置くなど、自社のニーズに最適な組み合わせのハイブリッドアプローチも有効だ。
データセンターと集積地について
データセンターの集積は、アジア太平洋全域で見られる。これらの集積地のメリットには、
- 戦略的立地の確保
- 堅牢なインフラ
- 再生可能エネルギーへの取り組み
- 用地確保
などが挙げられる。複数のデータセンターを近接して収容・運用するために設計されたエリアである「データセンターパーク」では、十分な電力供給やセキュリティなど、データセンターの運用に必要なインフラが完備されている。一方で、集積地以外のデータセンターでは、開発や運用に必要なリソースの調達や処理が必要となる。大規模な電力を新しく確保することが難しくなっている今、すでに電力を確保しているデータセンターパークを活用してみることも選択肢の一つに加えてみてはどうだろうか。
自社に最適なデータセンター戦略に迷ったらJLLへ
企業にとって最も価値の高い資産のひとつといえるデータを保護・活用するためには、戦略的なデータセンター設置の計画立案と実施が欠かせません。
JLLでは、データセンター事業者とその利用者のため、
- データセンター市場戦略の策定と実行
- プロジェクトの期限内・予算内での完了
- データセンターの100%稼働
- 効率性と収益性を高めるサステナビリティプログラムの策定
- 経費とTCO(購入から廃棄までの総保有コスト)の最適化
などさまざまなソリューションを提供し、運用と業績を後押ししています。
自社に最適なデータセンター戦略に悩んだら、ぜひJLLまでご相談下さい。