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「ポストコロナ」のリモートワークは定着するか?

多くの企業がコロナ感染防止策としてリモートワークを導入したが、各種調査によるとリモートワークを継続している企業は思いのほか少ないようだ。働き手と企業、双方で「オフィス回帰」に向かう背景を紐解いた。

2021年 07月 05日
リモートワーク実施状況は昨対比で低下

新型コロナウイルス感染拡大局面において自宅やシェアオフィスで働く、いわゆる「リモートワーク」が一般化してまもなく1年半が過ぎようとしている。働き方改革という「錦の御旗」を掲げて一層のリモートワークを進めようとしている企業もあるが、そういう企業が主流かと問われれば、実のところはそうではない、といえよう。また企業で働く人々も、コロナが落ち着けばオフィスに戻りたいという意識が高いようだ。「ポストコロナ」におけるオフィスのあり方はどうなっていくのか、各種調査や最近のテナント動向から推測してみる。

まずは現在のリモートワークの実施状況からみてみたい。日本生産性本部が2021年4月に実施した調査でのリモートワークの実施状況は19%となっている。これは2020年5月の32%から大幅に減少しているといえる。また、国土交通省が2021年3月に行った調査でも、2020年4月-5月と、2021年8月-10月のリモートワーク実施率はおよそ10%程度下落している。同じ国土交通省の調査でリモートワークを中止した主な理由を尋ねたところ、半数は「会社の指示」であり、「コロナ対策の終了」とあわせると、およそ7割は企業の判断で社員をオフィスに復帰させていることが判明した。今回のコロナウイルスがどのようなものか、次第に判明しつつあるなか、リモートワークをやめるという決断をした企業が多数あったことがうかがえる。

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IT等の一部業種と大企業でリモートワークが定着

次にリモートワークをけん引する業界や企業規模について見てみると、IT業界、学術研究、金融などの企業がリモートワークの割合を昨年に比べ上昇させている。また一部社員を含めてリモートワークを2021年3月現在で実施中の会社を社員数の規模で見た場合、従業員1,000人以上のいわゆる「大企業」は40%を超えている。このことからわかるのは、大企業ほど柔軟な働き方を認めており、そのなかでも必ずしも出社を必要としない業種においてはリモートワークが主要な働き方のひとつとして定着し始めていることが挙げられる。

一方でIT業界が国内の全業種に占める割合は0.3%。また社員数1,000人以上の大企業が国内のすべての企業に占める割合も0.3%であり、リモートワークが国内のあらゆる業種・規模の会社に浸透しているとは言い難い。このことからもわかる通り、リモートワークは現時点ではある一定の業種や規模の企業にとどまっているといえよう。

リモートワーク中心の働き方を望むのは10%未満

それでは働く人の側はどう考えているのか。SMBC日興証券が今月発行したレポートで意識調査を行っており、その結果からみるとオフィスや現場を中心とする働き方を望む層が80%近くを占め、在宅などのリモートワークを中心とする働き方を望む層は10%にも満たないことが判明した。理由については様々なものが挙げられているが、先に挙げた日本生産性本部の調査によると、オフィスに戻りたいとする一番の理由は「仕事に対する正当な評価が得られない恐れ」を挙げている。またJLLグローバルリサーチが2021年6月に発行したレポート「Benchmarking Cities and Real Estate」(英語版)においては「同僚との対面での仕事」や「ブレーンストーミングなどをしたいから」という理由も上位に挙げられており、こちらは国内の各種調査においても同様の理由が多く寄せられている。リモートワークが長期化することで組織への帰属意識が希薄になり孤独感が出てくること、また正当な評価が受けられないといった不安などが、オフィスへの帰還を望む最たる理由といえる。

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ポストコロナも「働く場の中心」はオフィスであり続ける

こうした働く人々の意識は会社の意思決定に大きな影響を及ぼすものと考えられよう。一部の大企業においてはオフィス床の一部減床を行ったうえでシェアオフィス利用へとシフトする流れも見られることから、今後特にAグレードビルにおける空室率が上昇する可能性がないとは言い切れない。

一方で、同僚との会話や人対人のコミュニケーションを求めるオフィスワーカーがいる限り、オフィスはどのような形であれ存続させる必要があるのも事実である。より柔軟な働き方が今後進んでいくなかでも「働く場所の中心」には常にオフィスがあるという未来は続いていくものと考えられる。(執筆者:JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター 内藤 康二)

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