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コロナ禍で変化するレジデンシャル市場-進展する分散

2021年4月、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化し、1回目の緊急事態宣言が発出して1年が経過した。感染拡大によって、国民の間に生活様式を変化させる兆しが芽生えているようだ。本稿では、人々の生活拠点の変化に注目し、住宅市場にどのように変化する可能性について考察する。

2021年 06月 09日
転入出人口から見える居住エリアの趨勢

2020年、コロナ禍の下、総務省「住民基本台帳人口移動報告(2020年)」による都道府県別の転入・転出状況において、転入超過は8都府県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、大阪府、福岡県、沖縄県、滋賀県)であった。東京都を中心とする東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)は25年連続の転入超過で、引き続き人口の集中が進んでいることが示されている。


一方で、東京圏の2020年の転入超過数は99,243人で、2019年に比べ49,540人縮小した。2020年7月においては、2013年7月以来、7年ぶりの転出超過となった。2020年は東京圏への人口集中が是正とはいえないものの、緩和する動きがみられた。

転入超過数の多い地域を都市別にみると、コロナ禍において、人々がどのような地域を選好しているかがうかがえる。注目ポイントは以下の3点があげられる。

1. 東京都特別区部の縮小

2. 都心周辺部の広がり

3. 地方都市の拡大

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リモートワーク促進により生活拠点が郊外へ

東京都特別区部の縮小

2020年の東京都特別区部の転入超過数は13,034人で対前年増減数は-51,142人と大幅に縮小した。縮小の要因は都心部に集積する企業や学校がコロナ禍によってリモート化が促進され、都心部に生活拠点を構えることのインセンティブが希薄となったことにあると考えられる。

都心周辺部の広がり

東京都特別区部の転入超過数の縮小に関連して、都心周辺部への広がりについても注目したい。八千代市(千葉県)の2020年の転入超過数は全国16位(前年38位)、相模原市(神奈川県)は同19位(同32位)が、転入超過数が上位である都心周辺部の都市に割ってランクインしてきた。八千代市で最も乗降客数の多い「勝田台駅」から「東京駅」までの乗車時間は60-70分。相模原市で最も乗降客数の多い「橋本駅」から「東京駅」までの乗車時間も同様に60-70分程度である。1990年前後のバブル経済崩壊後に進展した都心回帰の流れからは逆行している。こうした動きもコロナ禍によるリモート化の促進によって、都心周辺部から郊外に生活拠点を構える気運が醸成されてきていると考えられる。

転入超過数の多い上位20市町村(2020年)
 

順位

2020年

順位

2019年

市区町村

 

都道府県

 

2020年

 

2019年

対前年増減数

1

2

大阪市

大阪府

16,802

13,762

3,040

2

1

東京都特別区部

東京都

13,034

64,176

-51,142

3

5

横浜市

神奈川県

12,477

10,306

2,171

4

3

さいたま市

埼玉県

10,922

11,252

-330

5

6

札幌市

北海道

10,493

9,812

681

6

7

福岡市

福岡県

7,909

8,191

-282

7

4

川崎市

神奈川県

5,587

10,618

-5,031

8

10

千葉市

千葉県

4,783

3,739

1,044

9

8

流山市

茨城県

4,067

4,353

-286

10

14

つくば市

千葉県

4,052

3,154

898

11

9

柏市

千葉県

3,607

4,000

-393

12

15

藤沢市

神奈川県

3,244

2,966

278

13

12

名古屋市

愛知県

3,075

3,415

-340

14

28

仙台市

宮城県

2,990

1,349

1,641

15

11

船橋市

千葉県

2,808

3,715

-907

16

38

八千代市

千葉県

2,468

1,156

1,312

17

13

川口市

埼玉県

2,383

3,370

-987

18

32

相模原市

神奈川県

2,362

1,230

1,132

19

44

吹田市

大阪府

2,162

1,052

1,110

20

17

大和市

神奈川県

1,872

2,220

-348

 

出所: 総務省統計局 住民基本台帳人口移動報告


地方都市の拡大

地方都市の転入超過数の拡大は顕著に表れている。大阪市の転入超過数は16,802人で対前年増減数は3,042人に拡大した。東京都特別区部(13,034人)や横浜市(12,447人)を上回り、全国第1位の転入超過数となった。この他の都市でも上位20都市に新たにランクインする都市が2都市あるなど、地方分散の動きが表れつつある。札幌市の2020年の転入超過数は全国5位(前年6位)、福岡市は同6位(同7位)、名古屋市は同13位(同12位)、仙台市は同14位(同28位)、吹田市は同19位(同44位)と前年よりも軒並み順位を上げている。

こうした流れは、安倍政権から菅政権に引き継がれた東京一極集中の是正と地方創生の取り組みによって実現してきているというよりは、コロナ禍における人々の生活拠点に対する意識の変化によってもたらされていると考えるのが妥当だろう。

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連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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