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不動産投資の新たな潮流:研究開発用不動産(R&D不動産)の魅力

近年、物流施設やデータセンター等の産業用不動産への注目が投資家の中で高まっている。こうした中、投資家は産業用不動産への投資機会を得ようと研究開発用不動産(R&D不動産)への関心を高めている。本稿では、研究開発用不動産の投資対象としての可能性について考察した。

2024年 04月 03日
新たな潮流:データセンターからR&D不動産へ

2024年1月、Amazon Web Services(AWS)は、データセンター(周辺設備含む)を日本で2027年までに2兆円を超える投資をすると発表した。今後のクラウド需要の増加を見据えたものとしている。

投資家においても、今後も成長期待の大きいデータセンターを新たな投資機会として高い関心を示しており、先行するデベロッパーは新規供給に乗り出している。ここ数年で数百億円規模の大型取引が続く物流施設も含めて、産業用不動産に対する投資家の関心は高い。

その産業用不動産における新たな有望市場の一つとして、本稿では研究開発(R&D:Research and Development)不動産に注目したい。

レポート「研究開発拠点の立地戦略:賃貸型R&D不動産の可能性」を読む

R&D不動産が注目される理由
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不動産は研究を行う場所を形成する重要な要素の一つであり、研究開発の用途に特化した不動産への投資や開発に対する注目が高まるのは必然

あらゆる企業において、研究開発活動は重要な活動である。研究開発の目的や手法は企業によって様々であり、求める設備も企業によってそれぞれ異なるとはいえ、「どこで研究を行うのか」ということは「何を研究・開発するのか」ということと同程度に重要だ。さらに近年では「どのように優秀な人材を確保、定着させるか」といった点も無視できない

不動産は研究を行う場所を形成する重要な要素の一つであり、研究開発の用途に特化した不動産への投資や開発に対する注目が高まるのは必然である。

世界のR&D不動産の動向

図1:直近10年間における世界のR&D不動産に対する投資額の推移 出所:2024年2月2日時点におけるReal Capital Analyticsのデータを用いてJLLが作成 ※データはアメリカス(Americas:北米、中南米を含む)、アジア・太平洋(AsiaPac)、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の3地域における、“Office”と“Industrial”に含まれるR&Dの物件を集計したもの

図1は、世界におけるR&D不動産に対する投資額の推移である。2022年以降の世界的な不動産投資市場の停滞の影響を受け、2023年は総額97億米ドル(1ドル=145円換算で約1.4兆円)と低調であったが、過去10年間(2014-2023年)の年平均は172億米ドル、さらに直近5年間(2019-2023年)の年平均は205億米ドル(同約3.0兆円)であり、その直前の5年間(2014-2018年)よりも46.8%増加している。

投資対象となった物件の所在する国別の投資額を見ると(図2)、2023年の投資額のシェアでは米国が最多の70.7%、次いで中国(13.1%)、フランス(3.3%)、シンガポール(2.5%)、韓国(2.4%)と続く。

世界のR&D不動産への投資額のうち米国の占める割合は直近10年間の平均で74.0%と、市場の中心を占めてきた。

ただし、直近5年間(2019-2023年)における米国の占める割合は、その直前5年間(2014-2018年)よりも3.8ポイント低下し72.1%となっている。米国以外での投資に増加、広がりの兆しがみられる。

図2:直近10年間における世界のR&D不動産に対する投資額の推移(主要国別) 出所:2024年2月2日時点におけるReal Capital Analyticsのデータを用いてJLLが作成 ※データはアメリカス(Americas:北米、中南米を含む)、アジア・太平洋(AsiaPac)、欧州・中東・アフリカ(EMEA)の3地域における、“Office”と“Industrial”に含まれるR&Dの物件を集計したもの

 

ライフサイエンス分野から火が付いた米国のR&D不動産市場

米国におけるR&D不動産に対する投資は、ライフサイエンス分野において活発に行われてきた。米国のライフサイエンス分野における研究開発用の不動産への投資が行われてきた背景には、同分野の需要拡大がある。特に、2020年に新型コロナウイルスの世界的な流行がはじまって以後、オフィスに対する需要が急減する一方、ヘルスケア産業の成長に伴いライフサイエンス分野での不動産に対する需要が大幅に増加した。

米国におけるオフィスとラボスペースの稼働床面積の増加率の推移をみると(図3)、2023年9月時点のオフィスの面積は2016年比で1.1倍の増加にとどまる一方、ラボスペースの稼働面積は1.4倍に増加している。

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図3:米国のラボスペースとオフィスにおける稼働床面積の変化率の推移(2016 = 100) 出所:JLL ※オフィスの対象地域は全米、ラボスペースの対象地域はサンディエゴ、ベイエリア、ボストンの3都市。ラボスペースはライフサイエンス分野のみ対象としている。2023年の指数は2023年9月時点の数値に基づく

不動産市場全体の停滞の影響もあり、2023年はラボスペースにおける稼働床面積の増加ペースは鈍化した。しかし、同国でのライフサイエンス分野そのものの需要の拡大は今後も十分期待できる。

米国では少子高齢化という人口動態の変化に加えて、健康の維持に対する意識や関心の向上という社会の潮流の後押しを受けて、ライフサイエンス分野での雇用の増加率は米国の産業全体を上回る値を示している(注:Osifekun, 2023)1

さらに、米国政府はバイオテクノロジーをはじめとする生命科学分野への戦略的投資を継続する姿勢は崩していない。産業全体で中長期的な需要の拡大が見込まれることに加えて、科学実験を伴う研究開発活動は設備等の観点からフルリモートは困難であることや、知識獲得の観点でも対面での交流が重要となるという特性からも、研究開発用の不動産に対する需要は引き続き期待ができる。

賃貸型R&D不動産が不足している日本

日本におけるR&D不動産の多くが事業会社によって自社専用に開発された物件であることも一因だが、受け皿となる賃貸用物件の不足も大きな要因

ラボスペースへの需要の背景となる社会状況は、日本と米国ではそう大きな差はない。それにもかかわらず、日本における研究開発型不動産の現状に目を移すと、市場における不動産取引が未だ少ない。

ライフサイエンス分野に限らず、日本におけるR&D不動産の多くが事業会社によって自社専用に開発された物件であることも一因だが、受け皿となる賃貸用物件の不足も大きな要因とみられる

直近10年間での不動産投資総額におけるR&D不動産に対する投資額は、米国では平均して126億米ドルであり、日本では平均して2億米ドル(円換算で約290億円)と米国のわずか1.5%にとどまる。

こうした背景を踏まえると、R&D不動産が有望な投資対象であるという見方に違和感はなかろう。

注:1 Jide’ Osifekun (2023) Life Sciences: Four Trends Driving Growth, CNA,

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【執筆者:JLL日本 関西支社 リサーチディレクター 山口 武/JLL日本 リサーチ事業部 マネージャー 松本 優希】

連絡先 山口 武

JLL日本 関西支社 リサーチディレクター

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