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データセンターの脱炭素の行方

経済成長とデジタル化の進展に伴って、近年データセンター市場は急速に成長してきた。しかし、データセンターが電力を大量に消費することから、データセンターが環境問題に及ぼす影響について関心が集まっている。

2022年 01月 18日
急拡大するデータセンター市場

IT需要は、これまでも大きく拡大してきたが、新型コロナウイルス感染症が広がったことでさらに加速した。ビジネスの現場ではオンライン会議やペーパーレス化が浸透し、消費者の間では電子商取引やモバイル決済の普及が加速した。また、ソーシャルメディアやビデオストリーミングなどのクラウドプラットフォームや、人工知能や機械学習のプラットフォーム、また工場・倉庫の自動化などのサービスの成長も著しい。データセンターは、これらのサービスを支えるインフラであることから、今後もデータセンター不動産の市場拡大は確実視されている。

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世界のコロケーション市場は、2019年の520億米ドルから2024年には1,000億米ドル以上へ成長すると予想されており、年平均成長率は14.5%に達する。ハイパースケールデータセンターに限ってみると年平均成長率は24%以上になるとも言われており、アジア太平洋地域は、その中でも最大かつ最速の成長を遂げる地域と言われている。


温室効果ガス削減に向けて動き出す

このようにデータセンター市場が急拡大していることから、データセンターによる二酸化炭素排出量に関心が集まっており、実際にアジア太平洋地域のいくつかの国・都市では、既に対策が始まっている。特に、シンガポール、上海、および北京の当局は、データセンターに関する規制をそれぞれ実施している。EUの欧州委員会は、データセンターは2030年までにクライメイト・ニュートラル(気候中立)にするべきであると表明している。多くの大手データセンター事業者が、欧州気候中立的データセンター事業者協定(EU Climate Neutral Data Centre Operator Pact)に参加している。

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2001年に温室効果ガス(Greenhouse Gas = GHG)排出量の算定・報告に関する基準として「GHGプロトコル」が登場し、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量の考え方が示された。現在では、日本を含む世界各国において、サプライチェーン排出量を算定する際の基準として用いられている。GHGプロトコルによると、サプライチェーン排出量を「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つに分けて定義している。「スコープ1」とは、事業者自らによる温室効果ガスの直接排出である。例えば、ボイラーや車両などからの排出が該当する。「スコープ2」とは、事業者が消費する電力や熱などのエネルギーを作り出す際に排出される温室効果ガスが該当する。つまり、事業者が再生可能エネルギー由来の電力を購入することなどで削減できる。「スコープ3」とは、スコープ1およびスコープ2以外で事業者の活動に伴って間接的に排出される温室効果ガスを指す。例えば購入した材料などを作る際に発生した温室効果ガスや、モノやヒトの移動に伴って発生する温室効果ガスを含んでおり、広範に亘る。

データセンターの環境対策は待ったなし

現在の温室効果ガスへの取り組みは、まだスコープ1やスコープ2が注目されがちであるが、今後はスコープ3へ広がっていくであろう。データセンターを利用する企業にとって、データセンターが排出する温室効果ガスはスコープ3に該当する。データセンターは消費する電力量が大きいことから、利用する企業や社会全体の排出量へ与える影響も大きい。したがって、データセンターが排出する温室効果ガスに対する削減要請は、今後強くなると考えられる。データセンター事業者にとっては、①大量の電力を、②事業継続可能なコストで調達することが、③今後一定のスピード感を持って求められると想定され、実現するための難易度は高いと思われる。そのような中、クラウド事業者を含む大手データセンター事業者は既に様々な形で取り組みを始めている。アマゾンは2030年までに全世界の事業を100%再生可能エネルギーで賄う計画を発表しており、2021年9月にアマゾンと三菱商事は、日本初の再生可能エネルギー購入契約(PPA)を締結したと報道されている。再生可能エネルギーを調達する方法は、「証書取引」「PPA (Power Purchasing Agreement)」「自家発電」の3つに大別できる。現在はグリーン電力証書などの証書取引が先行しているが、今後はより本質的なPPAや自家発電に舵を切る事業者も増えてくると考えられよう。

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※カーボン・ニュートラルが二酸化炭素などの炭素由来の温室効果ガスのみを対象としているのに対し、クライメイト・ニュートラルはすべての温室効果ガスを対象としている。

連絡先 浅木 文規

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 シニアディレクター

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