日本のデータセンター不動産投資市場を紐解く3つのトレンド:アルゴリズム、レジリエンス、脱炭素
日本のデータセンター不動産市場に国内外の投資家が高い関心を示し、投資利回りが低下している。AIを含むDXや技術革新によって今後はデータセンターに求められる計算能力が飛躍的に増加することが予想され、市場の拡大が見込まれるためである。一方、課題として「新たな拠点整備」と「エネルギー効率」が挙げられる。
アジア最大のデータセンター市場規模を誇る日本
⽇本のデータセンター市場は、売上ベースで、先進国(MSCIワールド指数構成国23か国のうち⾹港を含まない22か国)のうち、⽶国に次ぐ第2位の市場規模となっている。アジアパシフィック地域では最⼤の市場であり、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポールが続く。
日本のデータセンター市場の成長率は2027年には10.8%へ加速する見通しである(Statista)。成⻑の牽引役には、AIの利活⽤の増⼤を含むデジタルトランスフォーメーション(DX)やクラウドサービスによる需要増加が挙げられる。⽇本のデータセンター産業はこの成⻑機会を活かし、技術⾰新や持続可能性に注⼒しながら、市場シェアを拡⼤していくことが期待される。
データセンターハブとしての日本の優位性
⽇本のデータセンター市場が発展してきた背景には、地理的な条件(北⽶・欧州等、アジアパシフィック地域等との接続)、政治的安定性(WGIパーセンタイル86.7)、世界的に⾃然災害が激甚化・頻発化する中において重要性を増す⾼度な防災・減災対策を含む優位性が挙げられる。
また、世界的に不確実性が⾼まる中で地政学的優位性が⾼まっていることに加えて、豊富な⾼度⼈材(⾼等教育機関への進学率がOECD平均57%に対し74%)、さらに国全体の取り組みやChatGPTの利⽤者数を含むAIへのポジティブな反応も日本のデータセンター市場の魅力を高めている。
東京圏と大阪圏に集中するデータセンターが地方へ
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今後のデータセンター整備にかかる方向性には、東京圏と⼤阪圏を補完・代替する中核拠点の整備によるレジリエンスの強化、地域における分散型データセンタセンターの整備、脱炭素電源の活用が挙げられている
現在、データセンターの立地は東京圏と大阪圏が大半を占めている⼀⽅で、脱炭素電源の供給は地⽅の⽐率が⾼いという状況が存在している。このような状況を踏まえて、今後のデータセンター整備にかかる方向性には、東京圏と⼤阪圏を補完・代替する中核拠点の整備によるレジリエンスの強化、地域における分散型データセンタセンターの整備、脱炭素電源の活用が挙げられている。
補助金の交付も決定済みであり、総務省の「データセンター地方拠点整備事業」の採択事例には、ソフトバンクとIDCフロンティアによる北海道苫小牧市における開発が挙げられる。将来的に、受電容量は300MW超まで拡大する見込みであり、北海道内の再生可能エネルギーを100%利用する地産地消型のグリーンデータセンターである。
データセンター不動産投資に脚光、利回り低下
図表1:東京圏のデータセンター取引利回りの下限(取引には用途の一部がデータセンターである事例も含む)
出所:JLL日本 リサーチ事業部
図表2:データセンターの計算力の試算
出所:経済産業省、Preferred Networks、JLL日本 リサーチ事業部 ※FLOPS(Floating-point Operations Per Second)は、コンピューターの処理速度を表す単位の一つで、1秒間に実行できる演算回数。生成AI利用時の計算では、最大8.5EFLOPSの計算性能が発揮される。
データセンター不動産投資市場では、国内外の投資家の関心の高まりにより、投資利回りが低下している。
また、現在の市場は草創期にあり、投資適格案件の稀少性が高いために直接投資は抑制される傾向にあるものの、直近の事例は1物件あたりの投資規模が大きいことを示しつつある。
今後は、全ての産業におけるAIの利活用の増大を含むDXや技術革新により、データセンターに求められる計算能力が飛躍的に増大することが予想され、2040年までにその単位はエクサ(1018)からゼタ(1021)に進むと試算されている。
こうした状況のもと、データセンター需要は急速に拡大するとみられ、国内のみならず、概して投資意欲が減退している海外の不動産投資家もこの成長分野に注目しているため、直接投資は増加することが予測される。
データセンター開発における2つのトピックス
一方、データセンターにとって避けては通れないトピックスが「エネルギー効率の改善」と「コスト上昇」であろう。
投資機会
トピックス1:エネルギー効率の改善
国連の責任投資原則を受けてESGへの配慮を求める動きが拡大し、グリーン成長戦略ではデータセンターのカーボンニュートラル目標を2040年に設定している。電力消費量の大きいデータセンターにとって、エネルギー効率はE分野にかかわる重要な課題である。
また、耐震性能や自然災害対策はS分野における項目に含まれる。対策としては、最先端の技術や設備の導入が有効である。また、サステナビリティ戦略の計画、実行、管理の外部発信には、テクニカルビルディングアセスメント、パフォーマンスデータ管理を経て、建築物や街区の環境性能を評価する認証の取得が有効である。
米国では、大手プラットフォーマーが地熱発電活用やクリーンエネルギー発電所に直結したデータセンターを取得している。今後、日本でもより持続可能性に配慮した取り組みが求められるであろう。例えば、2024年9月に港区港南に開設予定のEquinix TY15は100%再生可能エネルギーで運用されるAIデータセンターとなっている。
トピックス2:コスト上昇
土地価格、建設価格、労働力需給の逼迫を反映した昨今の開発コストの上昇、また電力価格の上昇は、デベロッパーの計画に影響を与え、場合によっては投資回収計画の見直しや戦略の再評価が必要となっている。
今後は、データセンター事業においては、事業企画立案フェーズにおける外部の専門家との協働が重要になるであろう。外部の知見は、事業の質とスピードを高め、投資家の意思決定を支援する役割を果たす。
日本のデータセンター市場の見通しは、明るいものとなっている。データセンターは、デジタル化と脱炭素に取り組む場を企業に提供し、持続可能で強靭な収益と成長を不動産投資家にもたらす。
※本稿で言及した各データ・詳細情報は下記のレポートをご覧ください。