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国内回帰に舵を切るデータセンター立地場所

従前、海外に置かれることが多かったデータセンターの場所が国内回帰の動きを強めている。世界各国で進むデータプライバシーの規制強化に加え、データ需要の急激な増加が背景にある。変容するデータセンターの立地戦略について考察した。

2023年 01月 06日
アジア太平洋地域のデータセンター:国内回帰する2つの理由

拡大の一途をたどるデータ通信の受け皿として、その重要性を高めてきたデータセンター。これまで利用エリアから遠く離れた海外で開発されることが多かったが、コロナ禍以降、データセンターの立地戦略として国内回帰の動きが顕在化しつつある。

なぜ、データセンターが国内回帰するのか。その理由は大きく2点考えられる。1つは、データプライバシーを遵守するべく各国が規制強化に乗り出したこと。もう1つは、データ需要の急激な増加だ。特にデータセンター新興市場ではその兆候が顕著になっているのだ。

データプライバシーの規制強化

ベトナムでは2022年8月、個人情報、財務記録、デジタルフットプリント、アクセス履歴などのデータを国内で保管することをサービスプロバイダーに義務付ける法律が制定された。また、インドネシアが2022年10月に施行した個人情報保護法は公共データを管理する電子システムオペレーターに対して国内でデータを処理・保存することを求める内容だ。

このようにプライバシーに関する懸念から、機密データを管理するために各国で規制を強化する動きが目立つようになってきた。基本的に企業は事業展開する国・市場でサービスを提供するため、当該地でデータセンターを設置する必要に迫られている。プライバシー保護のために地元住民に関連するデータに対して国内での保管を義務付ける規制はデータセンターを国内へ回帰させる強力な追い風になっている。

データ需要の急激な増加

データセンターの国内回帰を推進する要因はなにも法的規制の強化だけではない。例えば、タイでは動画などのデジタルコンテンツを供給し続けるエコシステムが確立され、保管先としてデータセンターの需要が急拡大しているという。動画配信に影響を与えるデータの通信遅延と品質の問題にも対処することができるため、現地でコンテンツを制作・提供する事業者が増えている。つまり、利用地により近い場所…例えば国内にデータセンターを開設したほうが通信遅延などを抑制しやすくなる

JLLの調査によると、データセンターの国内回帰は東南アジアと北アジアの新興市場ですでに顕在化しており、こうした傾向は今後2-3年で加速すると予想している。

その象徴的な事例の1つが、フィリピンのマニラ南部でYCO Cloud Centersによるデータセンター開発だ。フィリピン国内で急伸するSNSの利用増、NetflixやAmazon Prime Video などの動画ストリーミングサービスが爆発的な人気を博したことで、国内のデータセンター需要が拡大している。

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日本においても国外にデータセンターを開設した場合、データ流出のリスクやサイバー攻撃に対する対応が後手に回る可能性が危惧されており、国内回帰の機運が高まっている。

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データセンターの立地条件:導き出す3つの条件とは?

マクロ的視点では、データセンターが国内に回帰しつつあるが、データセンターを新規開設するにしても、全国すべてのエリアがデータセンター適地になるわけではない。例えば、日本では下記のような3つの条件を備えた立地選定が求められている。

  1. 特別高圧などの電力供給体制が整っている

  2. データセンター需要地から通信遅延の影響が少ない

  3. 水害などの自然災害を避けられる

近年は大量のデータ通信を処理するため、施設規模が大型化したハイバースケールデータセンターの新規開発が急増している。IDC Japanの調査では、2020-2025年のハイパースケールデータセンターの年間平均成長率は延床面積ベースで28.8%増になると予測されるほどだ。施設規模が拡大することで消費電力も増加するため、なかでも「①電力供給体制」は重要だ。

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東京圏と大阪圏に集中するデータセンター立地

データセンターに適した立地特性を有する埼玉県さいたま市、神奈川県川崎市・横浜市でもデータセンター開発・用地取得が活発化

とはいえ、日本のデータセンター適地において上記3つの条件を満たすエリアは意外に少ないというのが実情だ。経済産業省が2021年4月に発表した調査結果によると、日本国内のデータセンターの立地は、東京圏と大阪圏に80%が集中している。インターネットサービスプロバイダーが相互接続を行う拠点が東京の大手町、大阪の堂島に集中しているためだ。

JLL日本の調査によると、東京圏のデータセンター集積地は東京都心部、三鷹・府中・多摩エリア、千葉県印西市が代表的だ。さらに直近ではデータセンターに適した立地特性を有する埼玉県さいたま市、神奈川県川崎市・横浜市でもデータセンター開発・用地取得が活発化しており、新たなデータセンター集積地として注目されている。

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日本ではデータセンターの地方分散も議論にのぼっており、総務省を中心に「デジタル田園都市国家インフラ整備計画」が進められている。災害対策や電力不足対策などの観点から、データセンター需要が大きい東京圏や大阪圏に一極集中するデータセンターを地方へ分散させることが狙いだ。2022年6月にはデータセンターの地方拠点として北海道、福島県、京都府、大阪府、奈良県、島根県、福岡県の7案件が採択され、地方におけるデータセンター市場の実現性などが本格的に議論されていくことになる。

人材獲得もデータセンターの立地戦略に影響?

一方、データセンターの需要は拡大しているものの、施設管理などの熟練した人材はデータセンターの先進市場においても依然として不足しているという。

JLLアジア太平洋地域 マネージングディレクター データセンター・ヘッド クリストファー・ストリートは「アジア太平洋地域の多くの市場では、データセンターに関わる企業が高等教育機関へのリクルート活動を強化している他、地方政府機関と協力して人材育成プログラムを実践し始めている」と指摘。その目的は十分なスキルを備えた即戦力を輩出し、データセンターの人手不足を解消することに他ならない。

人手不足という課題は一朝一夕には解消できないが、国際的なデータセンター集積地を目指す上で、人材育成は避けては通れない。データセンターの立地戦略として施設管理を担う優秀な人材をいかに確保できるか。こうした視点も今後重要になりそうだ。

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連絡先 クリストファー・ストリート

JLLアジア太平洋地域 マネージングディレクター データセンター・ヘッド

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