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環境対応を進めるデータセンターの今

エネルギー使用量削減とグリーン電力への切り替えに向けて新たな対策が進むデータセンター。だが、サステナビリティ目標達成までには、取り組むべき課題はまだ多く残されている。これまで以上に環境配慮対策を求める投資家、行政の厳しい視線にさらされることになる。

2021年 08月 31日
圧力強まるデータセンターへの環境対策

近年、プラットフォームやサービスのデジタル化需要の急増を受け、データセンターセクターの成長基調が続いている。 しかし、世界各国の政府や自治体が意欲的なネット・ゼロカーボン(温室効果ガス排出量実質0)を目標に掲げる中、データセンターにさらなる環境対応を求める圧力は強まる一方だ。

JLL英国 データセンター担当シニアディレクター コルム・ショートンによれば、企業各社がサプライチェーンにおけるサステナビリティ認証の徹底を目指しており、データセンター事業者も投資家も施設利用者も行動の必要性は認識しているとして、次のように指摘する。

「不動産の他のセクターと同様、データセンターのエネルギー効率をさらに改善するには、業界全体で大きな努力が求められている。施設開発と運用の両面でサステナビリティが重点領域になり始めているが、実現までの道のりはまだまだ遠いというのが実態だ」

先ごろS&Pが複数テナントを収容するマルチテナント型データセンターの事業者825社を対象に実施した調査によれば、43%がサステナビリティ対応計画を実施している。Yondrなどのデータセンター事業者は、施設建設時の炭素排出量を2025年までに半減させ、100%再生可能エネルギーに切り替える目標を掲げる。同社は先般、米国で20億ドルを投じる拡張計画を発表しているが、その中核に据えているのがサステナビリティだ。

最近は電力購入契約のあり方も、カーボンフットプリント(CO2換算排出量)削減に寄与する傾向が見られる。データセンター事業者のCyrusOneでは、同社保有の全施設が再生可能エネルギー100%の料金プランで運営されているほか、欧州のクラウド事業者各社も2030年までにカーボンニュートラル化を約束している。

他の取り組みにはソーラーパネル設置もある。また、シンガポールのKeppelやノルウェーのGreen Mountainといった事業者は、水素発電によるクリーンエネルギー化を進めている。

変わる投資家の期待

データセンターに投資している投資家にはさまざまなタイプがあるが、その多くが初めて足並みを揃えてサステナビリティ対応を要求している。

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「データセンターの安定収入に魅力を感じている機関投資家は、それぞれに環境対応への強い想いがある。そうした期待に応えようとしない資産に投資することは…特に長期的な資本投下はありえない。データセンターセクターの成長の動きを見ればわかるように、今、的確に備えておけば、やがて賢明な判断だったとわかるはずだ」(ショートン)

2021年だけで、欧州の主要市場であるフランクフルト、ロンドン、アムステルダム、パリ、ダブリンに新規供給される電力は計438メガワット。この5都市の総電力市場規模は21%増となる。当然、この新規供給分には厳しい視線が向けられる。

「既存投資家や投資家予備軍に、ぜひ目を光らせておいてほしいのは、データセンターの冷房・冷却に消費する電力と水道の使用量の変化だ。そのためには、エネルギー消費を適切、正確にチェックする必要があり、革新的なソリューションも求められる」(ショートン)

シンガポールのテクノロジー企業であるKeppel Data Centres、Ascenix, CoolestDC、New Media Express、Red Dot Analyticsの5社は先ごろ、シンガポール国立大学と南洋理工大学の協力を得て、熱帯気候に合ったデータセンターソリューションを共同開発した。総額2,300万シンガポールドルを投じた同研究プログラムは、サーバー冷却に必要なエネルギー消費量の削減を目的に掲げる。

また、海底データセンターの実現性を評価する実験に乗り出したマイクロソフトは、陸上で使われる従来の空調設備の代わりに海水を冷却剤として利用し、2020年に成功を収めている。その後、中国では独自の海底データセンターが開設されている。

築古施設の省エネ化が課題

データセンターセクターには、大きな課題が横たわっている。10年以上前に建設され、膨大なエネルギーを消費し続けている旧来のデータセンターである。

今後、こうした施設も脱炭素化を迫られる。運用を止めることなく、エネルギー効率を向上させるためには、投資とイノベーションが必要になる。ショートンによれば、この課題を解決する最大の鍵は、エネルギー消費とエネルギー効率の組み合わせにあるという。

「旧式の施設が建設された当時、まだサステナビリティの優先順位ははるかに低く、設備の可用性と稼働時間が設計上の中心的なテーマだった」(ショートン)

一方、新築施設の場合、節水や循環型経済の考え方を含め、サステナブルな設計、開発、素材に重点が移っている。もちろん、仕様面では新築データセンターのほうが総合的に高効率。新たに実施されるスキームでは、省エネ対策もますます重視されることになる。

新規開発のハードルも上がっている

ところが、その新築自体のハードルが上がっている。例えば、アイルランドには、新規開発の禁止を模索する動きがある。シンガポールやフランクフルト、アムステルダムでは、新規データセンター開発を制限・中止する措置がすでに打ち出され、その履行猶予期間も終了している。

ショートンは「これから従来以上に厳格で容赦ない措置が導入される。新規開発を許認可する行政担当者も、サステナビリティの要素を重く見ることになる」と指摘。こうした状況に加え、投資家からの期待の高まりもあって、データセンター業界が環境対応推進に舵を切る。すでに変革の波は押し寄せているのだ。

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