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持続可能な社会の実現に向けて不動産が果たす役割とは何か?

世界を変えるための17の国際目標SDGs。持続可能で多様性と包摂性のある社会の達成に向けて不動産が果たす役割は大きく、省エネ、利用者の健康増進、レジリエンスなど多岐にわたる。日本の取組をJLL調査のGRETIサステナビリティインデックスを通して概観する。

2021年 05月 11日
日本のサステナビリティ不動産透明度は世界平均を上回るも改善の余地はある

JLLの「グローバル不動産透明度調査(GRETI)」は隔年で世界の不動産市場の透明度を測定しているレポートである。不動産の環境サステナビィリティについては2012年版から調査を開始して定量的な評価を行っているが、調査の過程でサステナビリティは最重要課題の一つであるとの認識は弥増し、環境不動産を追求する官民の取り組みは不動産のライフサイクルである建設、賃貸、投資など各フェーズで進められている。

こうした状況を受けて、2018年版から「サステナビリティ」は不動産透明度インデックスを構成するサブインデックスの1つとして追加され、さらに2020年版からサブインデックスの要素にネット・ゼロカーボンビルの枠組み、健康とウェルネス、建築物のレジリエンス(強靭化)規制、水利用効率基準に関する評価が追加されている。日本のサステナビリティ透明度は、調査が開始された2012年版(調査対象28か国)から最新の2020年版(同99か国)まで、世界の上位に分類されている市場であるものの、改善の余地は認められる。

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持続可能な不動産へ向けた取り組み

GRETIサステナビリティサブインデックスの要素をみてみると、不動産の環境性能評価とエネルギー効率基準については世界的に普及しており、日本も例外ではない。

不動産の環境性能評価については、建築環境総合性能評価システム(CASBEE:Comprehensive Assessment System for Built Environment Efficiency) が整備されている。一般財団法人建築環境・省エネルギー機構(IBEC)が策定した制度であり、新築、既存、改修建築物の環境性能を評価する。IBECの評価員資格を有する一級建築士によるCASBEE認定を受けた建物の数は2020年4月現在で1,000件近くに達している。

エネルギー効率基準について、新築ビルにおいては2016年4月に施行された建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律(建築物省エネ法)が適用され、非住宅の一定規模以上の建築物の省エネ基準への適合義務等が盛り込まれている。2021年4月に施行された改正建築物省エネ法では、省エネ基準への適合を建築確認の要件とする特定建築物の規模が、非住宅部分の延床面積2,000㎡から300㎡に引き下げられており、省エネ基準への適合を建築確認の要件とする建築物の対象に中規模オフィスビル等が追加された格好である。

また、既存ビルにおいては、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(「省エネ法」)が適用され、一定規模以上のエネルギー消費がある建築物についてはエネルギー使用状況の届け出を毎年行いながら、年平均1%以上の削減を目指すこととなっている。さらに電気需要の逼迫から、2013年の改正により電気需要の平準化が法目的に追加されている。

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また、既存ビルにおいては、エネルギーの使用の合理化等に関する法律(「省エネ法」)が適用され、一定規模以上のエネルギー消費がある建築物についてはエネルギー使用状況の届け出を毎年行いながら、年平均1%以上の削減を目指すこととなっている。さらに電気需要の逼迫から、2013年の改正により電気需要の平準化が法目的に追加されている。

エネルギー消費量ベンチマークについては、非住宅建築物を対象とした省エネルギー性能等に関する評価・表示を行う制度として、2014年に建築物省エネルギー性能表示制度(BELS :Building Energy-Efficiency Labelling System)が創設されている。

一方で、環境不動産の財務パフォーマンスのベンチマークについては、国内外の投資家がレジリエントな建築物にはサステナビリティが必要不可欠であるとみなしている中でも、いまだ整備が待たれる状況である。また、グリーンリース条項については、オフィス賃貸市場での採用が増加しており、とりわけJ-REIT所有ビルでこれが顕著であるものの、自主的取組であり、全体に占める割合は比較的低位にとどまっている。

さらに、2020年調査より新たに追加されたサブインデックスであるネット・ゼロカーボンビルの枠組み、建築物のレジリエンス、および健康とウェルネスの枠組みについて、改善の余地が認められる。

ネット・ゼロエネルギービル(ZEB)については、調査時点において、政策目標は「2020年までに新築公共建築物等で、2030年までに新築建築物の平均でZEBの実現を目指す」と掲げられ、ガイドラインや補助金も提供されているが、自主的取組にとどまっている。CASBEEのレジリエンス住宅チェックリストは、健康的な住まいにおける備えやリスクに「気付く」ことで対策を促進させることが目的であり、レジリエンス基準の制定に至っていない。CASBEEウェルネスオフィス評価認証は、建物利用者の健康性、快適性の維持・増進を支援する建物の仕様、性能、取組みを評価するツールであり、建物内で執務するワーカーの健康性、快適性に直接的に影響を与える要素だけでなく、知的生産性の向上に資する要因や、安全・安心に関する性能についても評価する。一般に利用可能な政府主導のプログラムとなっているものの、比較的新しい制度であるため、調査時点において認証を受けた物件数は少なく、今後拡大が期待される(2021年2月現在30件)。

世界を変えるための17の国際目標SDGs。持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するために不動産が果たす役割は大きく、省エネ、利用者のウェルネス(健康増進)、建築物のレジリエンス(強靭化)など多岐にわたる。JLLではサステナビリティプログラム「Building a Better Tomorrow希望あふれる未来をめざして」を通じて、企業活動のあらゆる面においてサステナビリティの考え方を取り入れている。また、JLLのサービス提供先の一つである事業用不動産のサステナビリティパフォーマンスの向上を目指し、その専門部門であるエナジー&サステナビリティサービス事業部により省エネルギー、環境認証取得、サステナビリティデータ管理といったサービスを主体とした多面的な支援を行っている。

世界は新型コロナウイルス感染症の拡大により価値観や行動様式の変容を余儀なくされた。終息へ向けて体勢を立て直す中で、持続可能な社会の実現を目指す方向へ加速している。2020年10月の所信表明演説において菅内閣総理大臣は2050年カーボンニュートラルを宣言。これを受けて、同年12月に日本経済団体連合会は提言を公表し、高く評価するとともに政府とともに不退転の決意で取り組むと表明した。脱炭素社会の実現へ向けて拍車がかかる。官民のガイダンスとアクションにより、不動産のサステナビリティとレジリエンスはライフサイクルの各フェーズにおいてますます促進するだろう。

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連絡先 岩永 直子

JLL日本 リサーチ事業部 チーフアナリスト

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