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世界的に注目されるエッジデータセンターとは?

生成AIの台頭、オンライン会議の定着、そして自動運転技術の実現…これまで以上にデータ通信の需要拡大が見込まれる中、レイテンシ(通信遅延)をいかに解消するかが大きな課題となっている。その解決策として、都心部へ「エッジデータセンター」を開発する機運が世界的に高まっている。

2023年 07月 21日
投資額の増加が見込まれるデータセンター市場

2023年は欧州等のデータセンター市場において再び記録的な投資額を積み上げると予測している

デジタル情報の驚異的な増加が世界規模で巻き起こり、その成長ペースはさらに勢いを増している。

IT・通信分野に関する調査等を行っているグローバル企業であるIDC が発表したレポート「Global DataSphere」によると、2023-2037年にかけて世界のデジタルデータ量が2倍に増加し、2025年だけで世界中で192兆ギガバイトのデータが生成され、IoT(モノのインターネット)に接続されたデバイスは地球の総人口の3倍にあたる数に膨れ上がるとも予測している。

JLLでは、こうした急増するデジタルデータの受け皿となるデータセンターは事業用不動産の中でも最も注目されているセクターの1つと位置付けており、2023年は欧州等のデータセンター市場において再び記録的な投資額を積み上げると予測している。

大容量のデータ保存・通信に対する需要が高まるにつれ、広域にアクセスでき、大量のデータ処理を可能にする「ハイパースケール」と呼ばれる大規模データセンターの需要が拡大しているが、そうした中、世界的に普及し始めているのが、データ需要地である都市部に位置する中小規模のデータセンター、いわゆる「エッジデータセンター」にも注目が集まっている。

エッジデータセンターとハイパースケールデータセンターの違い

ハイパースケールデータセンターは通常 80 MW(メガワット)を超える電力容量を持ち、かつ10,000ラック以上を収容できる大規模データセンターと定義されることが多い。広域からの膨大なデータ処理に対応するべく施設規模が巨大化したため、開発用地を確保しにくい都市部での開発事例は少なく、データ需要地に近い都市周辺部に立地するのが一般的だ。

ハイパースケールデータセンターの立地には3つの条件(①6万V以上の受電を可能にする電力供給、②通信品質を確保するために東京・大阪都心部から50㎞圏内、③水害等の災害に強い)が求められている。JLL日本が発表したレポート「注目を浴びる日本のデータセンター市場」では都心周辺部のデータセンター開発地として、東京都三鷹市・府中市・多摩エリアや千葉県印西市、埼玉県さいたま市、神奈川県川崎・横浜市を挙げている。

JLLが支援したさいまた市のデータセンター開発の概要

一方、エッジデータセンターは電力容量が500KWから2MW程度とされ、ハイパースケールデータセンターに比べて相対的に施設規模は小さく、データ処理能力も限定的。そして、その名が示す通り、需要地から物理的距離が近い場所に位置する立地特性が最大の特長となる。

エッジデータセンターが注目される理由

エッジデータセンターが注目される最大の理由は、都心部に近い立地優位性によってデータ通信時のレイテンシを解消することができるため

拡張現実や自動運転、IoTなどのデータ集約型デバイス・アプリケーションが急速に普及する時代にあって、より高速なデータ通信を実現するためには、いかに「レイテンシ(通信遅延)」を解消するかが重要になってくる。

エッジデータセンターが注目される最大の理由は、都心部に近い立地優位性によってデータ通信時のレイテンシ(通信遅延)を解消することができるためだ。

レイテンシを解消するエッジデータセンター

JLLの記事「データセンター投資の基礎知識」でも言及している通り、レイテンシとは「データを送信してから受信されるまでにかかる時間」を指す。レイテンシが発生する理由は多岐にわたるが、最も影響が大きいとされるのがデータセンターと利用者の距離といわれている。

例えば、東京都心部から見ると同じ都心部に位置するデータセンターではレイテンシが1㎜秒程度とされ、都心周辺部のデータセンター集積地からのレイテンシは4㎜秒程度、北海道や九州では20㎜秒のレイテンシが発生するとされる。

東京都心部エリアに対するレイテンシの目安
東京都心部 1㎜秒
東京周辺部 4㎜秒
北海道・九州 20㎜秒
アジア 100㎜秒
欧米 200-300㎜秒

そもそも、1つの電子データを送信する場合、データ破損を考慮して電子データを細分化して送受信を繰り返すことになり、仮に1MB程度の電子データといえども数百、数千回もの送受信が発生する。そのため、データ送信1回につきわずか数㎜秒程度の遅延が発生すると、最終的に数秒単位のレイテンシが発生することになる。

こうした状況下にあって、搭乗者の安全安心が絶対条件の自動運転や株式の高頻度売買システム等はレイテンシを1㎜秒以内に抑える必要があるとされる。さらに現在よりも圧倒的大容量のデータを送受信する5Gの本格稼働を鑑みれば、わずか数㎜秒のレイテンシでも利便性が大幅に損なわれる可能性がある。都心部に位置するエッジデータセンターはレイテンシを解消する存在として、その重要性が高まっているのである。

JLL EMEA データセンター・トランザクション・リード トム・グローバ―によると「5G時代を迎え、DX(デジタルトランスフォーメーション)も進む中、より緻密なデータの利用環境が求められている。エッジデータセンターはコンピューティングネットワークを構築する上でますます重要になっている」と指摘する。

ハイブリッドワークの定着でエッジデータセンターの需要がさらに拡大

現在エッジデータセンター・エッジコンピューティングで生成・処理されるビジネス関連データは10%未満に過ぎないが、2025年までに75%に達し、エッジデータセンターを含めた分散型のデータインフラの必要性がこれまで以上に高まる

アフターコロナという不確実な時代に対応できるデータドリブンな組織を目指す機運はかつてないほど高まっている。グローバル調査会社であるForresterの調査では、AIやMLによるデータ分析によって企業は平均して年間30%以上の成長が見込める一方、JLLのグローバル調査「Technology and innovation in the hybrid age(英語版)」では、ハイブリッドワークの導入が拡大したことによりテクノロジーとリアルタイムデータへの依存度が大幅に高まっていることが示唆されている。

ITアドバイザーのグローバル企業であるガートナーが2018年に発表したコラムによると、現在(2018年)エッジデータセンター・エッジコンピューティングで生成・処理されるビジネス関連データは10%未満に過ぎないが、2025年までに75%に達し、エッジデータセンターを含めた分散型のデータインフラの必要性がこれまで以上に高まるとしている。

JLLグローバル データセンター ビジネスデベロップメント マネージャ― コーム・ショーテンは「近い将来、ハイパースケールやエンタープライズ、コロケーションデータセンターの10倍に及ぶエッジデータセンターが必要になる可能性がある」と予測する。米国の市場調査会社であるTransparency Market Researchは世界のエッジデータセンター市場が年平均成長率22.1%を記録し、2031年までに578億米ドルに達すると予測している。

世界のエッジデータセンター整備事例

エッジデータセンターは接続性を向上させ、ネット上でより多くのデータを高密度かつ高速に移動させるのに役立つ

今や日常的な光景となったオンライン会議、生成AIブームの立役者「ChatGPT」の世界的普及、ストリーミング動画の視聴習慣の定着等、世界的にデータ送受信が発生する場面で増え続けており、これまで以上に「通信速度」と「接続安定性」を兼備したエッジデータセンターが重要視されるようになっている。

ショーテンは「エッジデータセンターの主な機能はデータを保存することではなく、できるだけデータ送受信を円滑化すること。エッジデータセンターは接続性を向上させ、ネット上でより多くのデータを高密度かつ高速に移動させるのに役立つ」と説明しており、エッジデータセンターを整備する動きは世界的に広がっている。

例えば、イタリアのテレビ放送局RAIがイタリア国内の20地域をカバーするためのエッジデータセンター18拠点を整備し、動画コンテンツの配信に伴うレイテンシを5㎜秒短縮することに成功したという。

また、グローバルなインフラ投資運用会社のI Squared Capitalは、欧州地域内においてデジタルサービスが行き届いていない都市・地域を対象に複数のエッジコンピュータ網を整備するために5億米ドルを投資しており、ドイツにおいて10カ所ものエッジデータセンター開発に着手したという。

さらに、南米ではBtoB向けにデータ転送サービスを提供するブラジルの通信事業者のMegatelecomが企業ユーザーの近くに数十ものエッジデータセンターを展開する計画を打ち出している。

日本におけるエッジデータセンターの行方

では、日本におけるエッジデータセンターの開発状況はどうか。経済産業省が2023年5月に発表した「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合 中間とりまとめ2.0」において「高度なデジタルサービスの実装に向けて、データが発生する場所の近くでデータ処理を行うことが求められる」とし、エッジデータセンターの必要性に言及している。

2023年4月には、シンガポールを本拠地とするデジタルエッジ社が日本のデベロッパーであるヒューリックと協働で、東京・日本橋小舟町にデータセンター「TYO7」の開発が発表され、2025年初頭にサービスを開始する予定だ。日本におけるネットワークの中心地である大手町から1㎞、デジタルエッジ社の既存データセンターと300m未満の距離に位置し、「首都圏の主要データセンターにアクセスするための様々なオプションが提供される予定」としている。

エッジデータセンターにもサステナビリティ対策が求められている

一方、尽きることのない旺盛な需要を抱えているにも関わらず、ネットゼロカーボンという地球規模の目標は、ICT機器の稼働・冷却に必要なエネルギーを必要とするデータセンターに対して社会的・政治的に高度なサステナビリティ対策を実行する圧力となっている。すでに、アイルランド、シンガポール、オランダでは行政による温暖化対策の一環としてデータセンター新規開発の一時停止や制限が課せられる事態に陥っており、日本も例外ではない。

日本のデータセンター市場に対する脱炭素化の行方は?

グローバーは「ハイパースケールデータセンターには広大な開発用地と膨大な電力使用量が必要となり、これらを確保するのは非常に困難だ。そのため、今後データセンターの新規開発が停滞する一方、需要は拡大を続ける」との見解を示す。

より持続可能なデータセンターを構築する革新的な方法を確立することが求められており、エッジデータセンターは解決策の一端を担う可能性もある。

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