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データセンター投資の基礎知識:成否の鍵は電力供給、通信品質、自然災害リスク

これまでもクラウド利用を中心としてデータセンター需要は大きく拡大してきたが、現在では在宅勤務の急速な浸透などを背景としてさらに加速している。また、新しい無線通信規格「5G」を利用したIoTやAI技術といった新用途の登場によってデータセンター市場の成長は今後も一層加速するとみられる。すでに米国REIT市場ではデータセンター・セクターはオフィス・セクターの時価総額を上回った。しかし、日本国内においては需要に比べてまだ供給が少ないのが現状だ。需要があるのに新規供給が追い付いていない理由とは?

2020年 07月 22日
不動産投資家がデータセンターに注目

在宅勤務や電子商取引の急拡大、さらに遠隔診療やオンライン授業など、新型コロナウイルス感染拡大をきっかけとして、インターネットを利用する様々なサービスが急成長している。さらに、2020年3月から段階的に普及し始めた「第5世代移動通信システム(5G)」を利用する「IoT」「AI」「自動運転」などといった新用途も今後見込まれ、それらサービスの提供に不可欠なデータセンターに対する需要はこれからも一層拡大すると考えられる。

需要があれば投資対象となるのが世の常。このためデータセンターを対象とした不動産投資も世界的に熱を帯びている。先行するのは米国だ。米国REIT市場では2012年以降、データセンター銘柄の時価総額は大きく成長し、2015年12月にはデータセンター・セクターとして独立。当時(2015年12月末時点)370億ドルだった時価総額は、2019年12月末時点では約2.4倍の895億ドルに達した。そして新型コロナウイルスが世界的に流行し始めて以降急伸し、2020年6月末時点で時価総額は1,170億ドルを超え、オフィス・セクターの時価総額を上回った。

データセンター投資に詳しいJLL日本 キャピタルマーケット事業部 浅木 文規によると「国内データセンターの市場規模は年率8-9%のペースで拡大している」という。テナントは設備に多額の投資を行うため20年以上の賃貸借契約を希望することが多く、不動産投資家にとっては長期的に安定した収益を見込むことができる。

データセンターの新規供給が限定的である理由

しかし、日本国内に目を向けると、オフィスや物流施設、ホテル等の主要アセットと比べると、データセンターの新規開発自体はまだ少ない。一部の不動産プレーヤーがデータセンター開発に注力し始めている段階だ。

新規供給が少ない要因は、データセンターに適した開発用地を見つけるのが難しいためだろう。浅木によると「データセンターの立地選定にあたっては3つのポイントを念頭に十分検討する必要があり、現在は特に電力供給が課題になっている」と指摘する。

そもそもデータセンターとは、コンピューターやネットワーク通信機器といったIT機器の大規模な安定運用に特化した施設を指す。多くのIT機器を常時稼働させるため、冷却設備も含めて膨大な電力を必要とする。また、利用者は通信ネットワークを通じて利用することが主となるため、高い通信品質を確保することが必要である。さらに24時間365日休むことなくサービスを提供し続けることが求められることから、地盤が強固で、津波・洪水等の危険が少ない自然災害に強い立地であることが重視される。これらの特性を踏まえて、浅木が指摘する「立地選定の3つのポイント」は次のようになる。

1. 電力供給の問題

データセンターでは、オフィス等ほかの施設と比べると大きな電力が必要となる。最先端のデータセンターで必要とされる電力量は、空調機等IT機器以外で消費される電力を含めると1,500~2,000VA/㎡(対延床面積)に達するとされている。仮に延床面積10,000㎡の中規模データセンターを想定すると、必要な電力量は15MVA~20MVAに達する計算である。ところで、電力会社との契約上、受電する電力の大きさによって契約すべき標準電圧が定められている。電力会社によって電圧区分に多少の違いはあるものの、6万~7万Vの特別高圧で受電する必要がある。そもそもこういった大規模な受電環境が最初から整っている立地は限られている。そして、新たに受電する場合には多額の費用負担に加え、申請から3年以上の期間を要することが多い。特に受電までにかかる期間が、現在のデータセンター新設におけるボトルネックとなっている。

2. 通信遅延の問題

データセンターは通信ネットワーク経由で利用することから、高い通信品質を確保する必要がある。中でも特に通信遅延(レイテンシ)を短くすることが求められる。通信遅延とはデータを送信してから受信されるまでにかかる時間のことである。通信遅延が発生する要因にはさまざまあるが、特にデータセンターから利用者までの距離による影響が大きいことから、データセンターの立地は利用者が多い場所に近い方が良いとされる。浅木によると「東京や大阪の中心地から50㎞圏内」が開発適地の目安となるそうだ。

3. 自然災害の問題

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多数の電子機器を扱うデータセンターにとって水害は避けたいところだ。つまり、洪水や高潮のリスクがある河川沿いや湾岸エリアは基本的にデータセンターにとって敬遠すべきエリアとなる。浅木は「河川に近いエリアや湾岸エリアであっても、既に対策が取られていて洪水リスクや高潮リスクが低い土地もある。国土交通省のハザードマップや各自治体の最新情報をもとに、洪水リスクや高潮リスク、さらに地盤など、様々な角度から自然災害リスクを調べておくとよい」と述べている。

建物スペックは床耐荷重・階高が重要

既存建物でデータセンター向けの利用を検討する場合、注目すべきは床耐荷重と階高だ。データセンターは、高性能なコンピューターをより多く運用できた方が効率が良い。多くのコンピューターを設置するためには、その重さに耐えられるだけの十分な床耐荷重と、コンピューターを積み上げ、さらにケーブルや空調を取りまわすための十分な階高が必要だ。床耐荷重は最低1トン、できれば1.5トンー2トン程度が求められる。階高は最低4m、できれば4.5m以上確保することが望ましい。浅木によると「オフィスをデータセンターにコンバージョンすることも可能だが、床耐荷重や階高が不足することが多く、建物スペックを増強するために相応の追加投資が必要となる可能性がある。一方で倉庫からのコンバージョンの場合は床耐荷重や階高の点で利用しやすい」という。

投資を検討する際はデータセンターの専門家に相談するべき

データセンターに適する用地や物件の取得を検討するにあたっては、電力・通信・自然災害リスクの観点などから立地を選定し、加えて既存物件の場合には建物仕様や設備についても様々な点を考慮する必要がある。特に立地選定にあたっては電力確保に時間がかかるという問題があり、設備についても専門知識が求められることから、多くの利害関係者との密接な連携がかかせない。

JLL日本はデータセンターについて投資家の紹介、用地選定、テナント誘致、施設開発・運営管理、最終的な出口戦略まで一気通貫でサポートする専門チームを組成している。データセンター投資を検討する場合、まずは専門家に相談することをお勧めしたい。

連絡先 浅木 文規

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 シニアディレクター

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