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SDGsがもたらす物流業界の変化

物流業界において人員不足や業務の激務化が課題とされてきた。その時代の流れで生まれたSDGsへの取り組みは、従来の課題を解決へと導く大きなきっかけとなるともいわれている。SDGsに配慮した物流業界の変化や取り組みについて解説する。

2021年 12月 02日
需要増す物流業界におけるSDGs(持続可能な開発目標)の重要性
物流需要の拡大

急成長するEコマースやコンビニエンスストア・ドラッグストア等の業態の変化、物流業務のアウトソース、拠点統廃合・老朽化施設からの移転、自動化設備導入による物流への需要が拡大している。JLLが実施した「物流不動産市場における最新マーケット動向」に関するオンラインセミナーでは、物流供給の増加に伴い、先進物流施設のストック面積は上昇傾向にあり、2015年と比較すると2021年では約2.5倍の増加が見られた。

物流業界におけるSDGs

物流需要拡大への対応が急がれる中、昨今トピックとなっているSDGsへの取り組みは、物流業界にさらなる変化をもたらすと考えられる。

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の中で掲げられた世界共通の目標で、17のゴールと169のターゲットに細分化され、「誰一人取り残さない持続可能でよりよい社会の実現」を目指すものである。帝国データバンクの「SDGsに関する企業の意識調査(2022年)」によれば、日本国内の企業におけるSDGsへの理解や取り組みは進んでおり、積極的な企業が全体の52.2%と半数を超える結果となっている。取り組む理由としては「企業イメージの向上(37.2%)」、「従業員のモチベーションの向上(31.4%)」、「経営方針等の明確化(17.8%)」などが挙げられる。

不動産業界や企業における活動へSDGsの考え方を取り入れることが求められているが、物流業界でも早急な対応が必要となっており、この数年での行動が未来の行く末を決めるといっても過言ではないだろう。ヒトの働きがいや環境保護などの課題を解決するために提唱されたSDGsの17の目標のうち、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」や「働きがいも経済成長も」、「気候変動に具体的な対策を」の要素は、物流業界が課題としてきたトピックに関連する内容でもあり、SDGsの取り組みにより、環境問題への配慮だけでなく根本的な問題の解決へと進めていくことができると考えられる。SDGsは物流業界へ新しい転換の風をもたらすのではないだろうか。

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SDGsを軸とした物流戦略

物流施設を取り巻いている施設やヒト、物流をSDGsの軸に置き換えることで、今までの業界の流れを変え、サステナブルな循環を生み出す

戦略のプランニングから実行までを一気通貫で行う物流戦略等、プロセスにSDGs達成のための考え方を取り入れることで、環境・社会への貢献だけではなく、ESG投資の観点からも長期的な視野での効果が得られる可能性が大きい。物流施設を取り巻いている施設やヒト、物流をSDGsの軸に置き換えることで、今までの業界の流れを変え、サステナブルな循環を生み出すSDGsへの取り組みは、長期的な視点で物流戦略の根幹の部分から組み込んでいくことで、得られる包括的な効果は大きいのではないだろうか。

SDGs・ESG物流の関連した調査レポートを見る
 

日本国内のSDGs物流の動向

日本国内の物流業界におけるSDGs関連の動向も活発なものとなっている。ここでは特に注目すべきトピックを紹介する。

物流総合効率化法の改正

2016年、流通業務の総合化および効率化の促進に関する法律「物流総合効率化法(略して物総法ともいう)」の改正法が施行された。流通業務(輸送、保管、荷さばき及び流通加工)を一体的に実施し、輸送網の集約・モーダルシフト・輸配送の共同化などの輸送の合理化により流通業務の効率化を図る事業であると認められた場合、税制優遇や補助金などの支援措置を受けることができる。認定に必要なプロセスは同時に環境への負荷を下げることにもつながるため、SDGs17の目標のうち「気候変動に具体的な対策を」を実現しているという証明になる。

ホワイト物流推進運動

「ホワイト物流」推進運動とは、国土交通省などが主体となって全国の物流業者に呼びかけている運動で、トラック運転者不足が深刻になっている現状に対し、国民生活や産業活動に必要な物流を安定的に確保するとともに、経済の成長に役立つことを目的としたものである。

さらに具体的な目的としては以下の2つが挙げられる。

  • トラック輸送の生産性の向上・物流の効率化

  • 女性や60代の運転者なども働きやすい、より「ホワイト」な労働環境の実現

これらの目標を実現することも、SDGsにおける「気候変動に具体的な対策を」「働きがいも経済成長も」の目標と一致する。

グリーン物流パートナーシップ

グリーン物流パートナーシップとは、日本ロジスティクスシステム協会・日本物流団体連合会・経済産業省・国土交通省・日本経済団体連合会(オブザーバー)からなる「グリーン物流パートナーシップ会議」が提唱した取り組みである。

運輸部門のCO2排出量を削減するため、複数の荷主・物流事業者による連携・協働(パートナーシップ)を強化し包括的なアウトソーシングやオープン参加型モーダルシフトなど先進性のある産業横断的な取り組みを大きく育てていくことを目的とし、参画することでSDGs17の目標「気候変動に具体的な対策を」の達成に寄与することができる。

物流の共同化

複数の企業の保管・荷役・輸送・配送といった物流業務を共同で行う共同物流は、そのアプローチは大きく3つに分類される。

  • 同業種間の業務集約による共同化
  • サプライチェーン(メーカー・卸・小売)の情報共有によるプロセスの共同化
  • 物流事業者の保有資産やノウハウを活用して各種物流サービスを創出するネットワークの共同化

共同化により、物流のあらゆる場面で無駄をなくすことで、SDGsの1つのゴール「気候変動に具体的な対策を」の達成に貢献できる。
 

物流業界におけるSDGsの課題と取り組み

従業員のウェルビーイングの向上の要素がESGには含まれており、その目標を達成するには人間中心のデザインが欠かせない

物流プロセスにおける二酸化炭素の排出削減

二酸化炭素排出削減という課題について、物流業界が果たせる役割は大きい。物流施設の省エネルギーや輸送プロセスの効率化など、SDGsの観点の最適化の可能性は無限にある。特に輸送関連から排出される二酸化炭素が多いとされており、物流業界は脱炭素に向けての迅速な対応が必要だといわれている。先に述べた、物流に関わる業者同士が共に協力し合い、環境問題に協働する「グリーン物流パートナーシップ」の取り組みも実施されており、業界全体で解決していくという機運が高まっていることが窺える。

テクノロジーや自動化の導入

物流業界におけるSDGsの取り組みの成功の鍵を握るテクノロジーの活用。自動化やロボットソリューションの導入が増えることで、働くヒトの労働状況の緩和に寄与するだけでなく、電気使用量を節約し省エネ対策に繋げることができる。物流へのテクノロジー活用が喫緊の課題とされる一方で、現状の普及が進んでいないともいわれている。費用対効果の観点から、長期的な戦略策定と準備が伴ってくるからだと考える。SDGs達成やESG投資という避けては通れない課題を、効率的かつ戦略的に展開していくことで、今後の命運が分かれてくるのではないだろうか。

働くヒトを中心と考えるホワイト物流の強化

物流業界ではESGの概念が重要になってきている。従業員のウェルビーイングの向上の要素がESGには含まれており、その目標を達成するには人間中心のデザインが欠かせない。国土交通省が発表した「ホワイト物流」では、トラック輸送プロセスでの生産性の向上や、働くヒトの労働環境を改善するという取り組みが提示された。少子高齢化が進む中、ESGやSDGsの考え方を取り入れることで本来の物流業界の課題解決へと推し進めることが可能となる。

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物流業界を支える機械化・自動化技術

他のあらゆる産業と同様、物流分野においても、ロボットを含む機械化・自動化技術はサプライチェーン全体の運用効率化、長期的なコスト管理、迅速化、柔軟性向上など多くのメリットをもたらし、投資家やデベロッパーの動向にも影響をおよぼす一大テーマとなっている。ここでは世界そして日本の物流を取り巻く機械化・自動化技術の状況を検証していきたい。

全世界の倉庫自動化の市場規模

JLLが物流不動産におけるトレンドと未来について分析したレポートでは、全世界の倉庫自動化の市場規模は、2020年の140億米ドルから2025年には262億米ドルへと拡大する見込みであり、年平均成長率(CAGR)では13.4%と、2020年までの5年間には8.7%だったのと比べ大幅な増加となっている。

 

近年ますます需要が拡大する物流業界で、賃貸型物流施設における課題の1つがトラックドライバーや物流施設の作業員などの人手不足である。

この課題に対し物流業界ではロボットやAIを活用し、倉庫内業務の自動化を進めている。自動化が進むことで、築古施設からの拡張移転需要も増しており、自動化設備を導入するためには電気容量の確保、自動ロボットが走行しやすい床環境などの整備といったコストがかかるため、より巨大な施設で導入したほうが費用対効果を見込める。

テクノロジーを活用した物流不動産ならではの課題解決への取り組みはこれまで以上に加速し、物流不動産に対するテナント需要増が予想されている。

物流業界における機械化・自動化

物流業界における機械化・自動化のテクノロジーは多岐に渡り、サプライチェーン網の各段階で最適化を図るために活用されている、以下にその例を紹介する。

 

  • 物流サプライチェーン網を支える主な機械化技術
自動ストレッチ包装機 電動の回転作業台に載せた商品を回転させながらストレッチフィルムを巻 き付ける装置。
ビジョンピッキング 拡張現実(AR)を使って作業者に視覚的な手がかりや指示を与え、オーダー処理作業を支援する方式。
エクソスケルトン 作業者の体に装着し、重量物を運ぶ際に体の動きをモーターなど機械的 な仕組みで支援する外骨格型のパワーアシストスーツ。
音声ピッキング ヘッドセットとマイクを組み合わせ、音声で指示を与える方式。
光誘導ピッキング オーダーピッキング技術の一種で、ピッキング作業員がラックや棚から ピックアップする商品の位置をライト(LED)の点灯で誘導する方式。
伸縮コンベヤー 伸縮可能なベルトコンベヤーを搬入口から輸送車両の内部にまで渡し、 安全、効率的な積み降ろしを支援する方式。
  • 物流サプライチェーン網を支える主な自動化技術
自律走行型搬送ロボット(AMR) 棚搬送用AMR/トート搬送用AMR/オーダー品搬送用AMRなどのロボットがヒトのピッキング作業をサポート。
自動倉庫システム(AS/RS) ユニットロードAS/RS/ミニロードAS/RS/シャトル台車式AS/RSなどのクレーンや台車で貨物の運搬を自動化。
無人搬送車(AGV) 床の磁気マーカーに沿って物資を載せて自律走行する。
仕分けシステム コンベヤーシステム上の搬送物を識別し、所定の場所に誘導して仕分ける。
レイヤーピッキング パレットからの積み下ろしや積み替えを自動化。またパレットにさまざまな層単位で積み付けできるほか、パレットの自動保管やスペース使用の効率化を実現。
オートストア(自動倉庫型ピッキングシステム) モジュール式の3次元の格子状に組まれたグリッド(支柱・梁)に収納された自立型ビン(専用コンテナ)をロボット(電動台車)がピッキングし、ステーション(ポート)に運ぶ。
回転棚 垂直回転式と水平回転式の回転棚(カルーセル)モジュールが棚を回転させて保管物を入出庫する。
自動アンローディング 箱やバッグなど嵩高貨物の積み下ろしを自動化するシステム。反復性の高い作業の自動化が可能。
SDGs・ESGが生みだす物流不動産への変化

景気変動に強いとされるサステナビリティ対応の建物は、今後の新しいスタンダードになってくる

SDGsやESGの根本となるサステナビリティ対応の建物が投資家にとっての判断基準となっており、物流不動産にも同様のことがいえる。景気変動に強いとされるサステナビリティ対応の建物は、投資家だけでなくテナント企業からの需要も増加し続けており、今後の新しいスタンダードになってくると考えられる。近い未来を予期し、俊敏な転換で時代のニーズに適応していくことが肝心だ。

今後も既存の物流施設において機械化・自動化技術の利用は避けては通れず、人手不足や業務効率化に対応するため、多くの事業者で機械化・自動化ソリューションの導入が広がるだろう。

投資家やデベロッパーにとっても、機械化・自動化の進捗は自らの資産の差別化を図り、テナントのニーズに合った物流資産ポートフォリオの将来性を保つための大きな手がかりとなる。

SDGsへの取り組みは物流業界において様々なインパクトをもたらし、環境・社会だけではなく、業界全体への貢献にも繋がる。この循環を作り出すには、SDGsの概念を物流戦略へ本質的に組み込み、継続的に実行していくことが要となる。

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