記事

オフィス移転の選択肢が増えるコロナ時代の市場

2020年11月に実施したアンケート調査によって企業のオフィス戦略が曲がり角を迎えていることが判明した。働き方やオフィスの在り方が変化することで、今後のオフィスマーケットには「移転の選択肢が増える」絶好のタイミングが訪れそうだ。

2021年 02月 26日

コロナ禍で企業のオフィス戦略が変化

JLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部は2020年11月、テナント企業向けにオフィスに関するアンケート調査を実施した。同年5月に実施したアンケート調査「Withコロナ - オフィス戦略のニューノーマル」の後続と位置付ける。1度目の緊急事態宣言が解除されてから半年が経過し、オフィスに対する企業の考え方はどのように変化したのだろうか。

コロナ感染拡大後も「オフィスを変えていない」66%

まずは前回(5月時点)と今回(11月時点)の回答者の意識がどのように変化したのか見ていきたい。注目したいのは、今回のアンケートでは「コロナ発生以前からオフィスに変化があったか」の質問に対して「オフィスを変えていない」との回答が66.2%を占めたことだ。

前回調査では「緊急事態宣言解除後にオフィスが変わるか」の質問に対して実に81.9%が「(何らかの形で)変わると思う」と回答しており、多くの企業がコロナ禍対策として早々にオフィス改革に着手することが窺えた。なぜ今回調査では「オフィスを変えていない」との回答が過半数を上回ったのだろうか。企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 シニアマネージャー 柴田 才はその理由について「コロナ禍によって様々な検討課題が浮上し、新たなオフィス戦略を策定するのは容易ではないため」と指摘する。

また、今回調査では「オフィスを変えていない」回答者に対して「現在の課題」について質問したところ「現在のオフィスを改装すべきか、もしくは移転して新たにオフィスを構築すべきかの判断」、「オフィスの中にどのようなアイディアやイノベーションを生むスペースを構築すればいいのかわからない」、「在宅勤務の導入割合を決められない」など、多くの検討課題が存在することがわかった。

その中には「定期借家契約が残っていて解約できない」という回答も少なくなく、「解約できない契約残存期間中はオフィスをそのまま維持する」と考える企業が一定数存在していることも、「オフィスを変えていない」回答者が多い理由ともいえそうだ。

在宅勤務やフリーアドレス、コワーキング導入でオフィスの面積を調整

この「オフィスを変えていない」の回答者に対して「今後新たに導入を決定・検討する項目」について質問したところ、61.5%が「在宅勤務を恒常的な制度として導入する」と回答した他、「フリーアドレス席の導入」、「シェアオフィス・コワーキングスペースの利用」が続く。

ちなみに「コロナ以前と比べてオフィスを変えた(床面積の縮小・拡大、レイアウト変更のみ)」(33.8%)との回答者が新たに導入・廃止した項目では「在宅勤務を恒常的な制度として導入」(51.0%)、「固定席は残しつつ、フリーアドレス席を導入」(46.9%)、「シェアオフィス・コワーキングスペース(月単位の契約)の利用を開始」(46.9%)となっており、「オフィスを変えていない」回答者が今後導入を決定・検討している項目と同様の結果となった。

柴田は「テレワーク制度を拡充することで、これまで全社員出社を前提としたコアオフィスに余剰スペースが生まれる。フリーアドレス席は固定席に比べて座席数を効率化でき、企業の中にはオフィス面積の余剰分を調整する動きが出ている」と説明する。

コロナ禍で打撃、大手企業はオフィス縮小へ

「オフィスを変えていない」の回答者は今後のオフィス戦略をどのように考えているのか。そこで、ワクチン開発後、通常の業務活動が可能になった状況を想定し「オフィス面積をどう変えるか」を質問した。結果は「現状のまま変更しない」が40.6%と最も多く、僅差で「決まっていない」が39.6%、「縮小する(検討中含む)」が18.8%、「拡張する(検討中含む)」が1.0%となった。今後の感染状況次第だが、今回調査を行った11月時点では「現在のオフィス面積を維持する」という企業が多いように感じられる。

柴田は「オフィスを維持する企業が一定数存在することから、オフィスマーケットが一気に軟化することは考えにくい」と予測する。しかし、前述した「今後縮小する・縮小する方向で考えている」という18.8%の回答者を業種別、規模別にすると、従業員1万人以上の大手企業は「縮小する」が50%となった。多くの従業員を収容する大規模なオフィスを有する大手企業は賃料負担も大きい。コロナ禍による経済への影響が大きく、コスト削減意欲の高まりを感じられる結果となった。そして「縮小する」とした回答のうち、現在のオフィス面積に対して「20-40%縮小する」との回答が最も多く41.2%となった。

オフィス戦略を見直す企業が増える可能性

様々なトレンドが変化する今だからこそ、効率的なオフィス移転には専門的なパートナーが肝心

今回の調査結果を振り返ると、2020年11月時点では「オフィスを変えていない」企業が過半数を占め、その中で今後は「現在のオフィス面積を維持する」との回答が多いものの、今後導入を決定・検討する項目として「在宅勤務の恒久的制度化」や「シェアオフィス・コワーキングの活用」が挙げられた。これらを総合的に考えると、今年から3年程度の期間、オフィスを現状維持している企業も何らかの形でオフィス戦略を見直す可能性が高そうだ。

オフィス「20-40%縮小」回答者は40%超

気になるのは、どの程度調整することになるかだが、「オフィスを縮小した」回答者のうち「20-40%縮小」が44.4%で最も多かった。また「オフィスを変えていない」との回答者に対して「今後、通常の生活・業務活動が遅れる状態になった場合、現在のオフィス面積を変更するか?」と質問したところ、18.8%が「縮小」と回答。そのうち「20-40%縮小」としたのは41.2%と、こちらも最も多くの回答を集めた。

調査時点では「オフィス縮小」との回答は総体的に少ないものの、コロナ禍の更なる長期化に伴う経済の悪化や、事業活動におけるDX化が進むことで、柴田は「現在のオフィス面積を縮小する方向にシフトする企業が増えてくる可能性は一定程度考えられる」との見立てだ。

居抜きによるコストメリットでコスト削減を実現したオフィス移転事例

オフィス縮小を検討する企業が増える可能性がある中、コロナ禍でもオフィスの拡張移転により独自の戦略で働く場所の価値を再定義している事例も見られる。効率的にオフィスを縮小するという考えとは異なり、リモートワークを通して再び求められているリアルなコミュニケーションが培えるオフィスを拡張移転により最適化することで、リアルタイムな従業員のニーズに対応することが可能となった。リモートワークとオフィス勤務を組み合わせたハイブリッドな働き方を意識し、自席には遮音ボードとノイズキャンセリング仕様の高性能ヘッドセットを完備する等、オンラインのコミュニケーションを全面的にサポートした機能と工夫が散りばめられている。成果として、仲介業務を担ったJLLの提案による希少な居抜き物件で、オフィス移転コストの大幅な削減に結びついた。オフィス移転先に求める条件として、ワンフロア・十分なキャパシティ・最適な賃料・都心エリアの立地というポイントを挙げており、見合う候補が見つからない可能性も考えられたが、専門的な知見と経験を駆使したサポートにより、大幅なコスト削減を実現。様々なトレンドが変化する今だからこそ、効率的なオフィス移転には専門的なパートナーが重要となる。

コロナ後のオフィス戦略に関する最新動向を見る

 

効率的なオフィス移転の流れやポイントとは?

オフィス移転は企業の今後を担う行事であるからこそ、目的達成へと歩みを共に進めるプロフェッショナルなパートナー選定が欠かせない

オフィス移転の目的を経営戦略に基づき明確化

オフィス移転によって従業員だけでなく企業全体に効率的かつ効果的な成果をもたらすには、まず目的を明確にすることが肝心となる。オフィス移転により、従業員のエンゲージメントを高めたいのか、企業ブランディングのイメージを向上させたいのか、賃料等のコストを削減したのか、経営戦略に基づき、目的を定めることで移転プロセスも大きく変わってくる。目的の明確化は企業独自の特性が現れ、オフィス移転後にも様々な視点で影響するため、移転の成否を分ける過程といっても過言ではないだろう。

 

目的達成のためのオフィス移転の流れ

オフィス移転までの流れは「オフィス移転目的を明確化」「オフィス移転計画立案」「オフィス選び」「オフィスプランニング」「賃貸借契約締結」「オフィス移転」の6つの段階に分けられる。「オフィス選び」の段階ではオフィス市況を理解しておくことや条件に基づいた移転先候補の物件調査、移転先オフィスビルの選定や内覧等、専門的な知識を要するため、プロジェクト立ち上げ時にパートナーを選定する企業が多い。オフィス移転は企業の今後を担う行事であるからこそ、目的達成へと歩みを共に進めるプロフェッショナルなパートナー選定が欠かせない。

 

コロナ後のオフィス戦略に関する最新動向を見る

コロナ前の好調だったオフィス市況から一転

JLL日本 リサーチ事業部の調査「東京オフィス マーケットアップデート2021年1月」によると2020年第4四半期末時点の東京Aグレードオフィスの空室率は1.3%で、前年比0.8ポイント上昇した。空室率が1%を上回るのは7四半期ぶり。また賃料は月額坪当たり38,987円で、前年比2.2%下落。コロナ以前の状況と比べると、オフィス市況は下降局面に入ったことが見て取れる。柴田は「大型床を賃借していた企業がアフターコロナに向けた適正なオフィス床がどの程度必要なのか、いまだ模索中のため、大型移転が起きにくい状況にある」と指摘する。

オフィス移転の選択肢が増える2021年

2020年9月、JLL日本は「2021年はコロナ後のオフィス戦略を実現する絶好のタイミング」と題した記事を発表した。コロナ禍による経済不振に伴う業績悪化、在宅勤務の普及拡大等を背景に空室面積・件数ともに増加。めぼしい移転先が見つからない「空室不足」のオフィスマーケットが一転、テナント企業にとっては移転先の選択肢が増える絶好のタイミングが2021年から始まると予測した。今回の企業アンケートを見ると、その傾向はますます鮮明になっていきそうだ。

とはいえ、このままテレワークを採用する企業が増加しオフィス需要が減退し続けるかといえば、そうとは言い切れない。コロナ以前には米国の大手IT企業を中心にテレワーク制度を取りやめ、再びオフィス中心の働き方へと切り替える動きが顕在化。これは労働生産性の向上やイノベーション創発を重視した結果であり、コロナ以前からテレワークの弊害は問われてきた。

そして、JLLがアジア太平洋地域の企業で働く3,000名に対して実施したアンケート調査では「在宅勤務を経験したもののオフィスへ戻りたい」と回答したのは61%にのぼり、コロナ後にテレワークを経験した多くの人々が、その課題について実感することになった。1回目の緊急事態宣言の発出で全面的にテレワークに切り替えたものの、オフィスの価値に気づかされ、宣言解除後にはオフィス重視の働き方に戻す企業も少なくなかった。

こうした事象に加えて、新型コロナに対するワクチン接種の見通しが立ったことから、業績が悪化した企業を中心にオフィス需要は短期的に減退するものの、中長期的に見てオフィス需要は回復すると考えられる。つまり、2021年はコロナ禍から回復したアフターコロナ時代に向けて新たなオフィス戦略を実行する時機となりそうだ。

柴田は「これまでは不景気によって企業の賃料負担能力が低下することに伴い、オフィス賃料も下落するのが常だったが、コロナ禍では賃料下落の要因は在宅勤務の普及によるオフィスニーズそのものの低下であり、業績好調・財務体質が健全な企業にとっては、オフィス移転先の選択肢が増える絶好のタイミング」と強調する。

オフィス戦略に関するサービスを見る

お問い合わせ

何かお探しものやご興味のあるものがありましたら、お知らせ下さい。担当者より折り返しご連絡いたします。