ワークプレイス戦略を再考する欧米企業:オフィスとテレワークの絶妙なバランス
新型コロナウイルスによって働き方は大きな転換期を迎えている。多くの欧米企業はテレワークを再評価し始めており、伝統的な働き方やオフィスの在り方について検討を重ねている。新型コロナウイルスは結果として、オフィスとテレワークを組み合わせたハイブリッドなワークプレイス戦略を模索するきっかけとなりそうだ。
新型コロナを機にワークプレイス戦略にも「CHANGE(変化)」が求められる(イメージ)
テレワークを本格導入するグローバル企業
過去に例がないほどの世界中の人々がテレワークを体験したが、企業は長期的なワークプレイス戦略の一環としての価値をテレワークに見出し始めている。
テクノロジー関連のあるグローバル企業はワークプレイスに対する先進的な取り組みで知られているが、より柔軟な働き方の選択肢としてテレワークへの全面的な移行を真っ先に表明した企業群に含まれる。
ツイッターとフェイスブックは新たなテレワーク制度を正式採用した企業であり、その一部は恒久的な体制となるようだ。また、グーグルはホームオフィス家具費用としてスタッフに1,000米ドルを提供している。
金融サービスなど、高度に規制された他の業界でも今やテレワークで多くの業務に対応可能であることが認識されており、テレワークをどの程度取り入れられるか検討を重ねている最中だ。
JLL EMEA コーポレート・リサーチ・アンド・ストラテジー ヘッド トム・キャロルは「パンデミック期間中のテレワークは選択肢ではなく必要に迫られて実施されたが、総じて驚くほどの成功を収めているため、ここ数年拡大傾向にあったフレキシブル・ワークというトレンドを加速させることになるだろう。テレワークが過去に前例のない高水準で全面的に導入されたことで、企業や従業員はフレキシブル・ワークがもたらす付加価値について認識することができたが、同時に課題も明らかとなった」と指摘する。
ワークプレイスに対する従業員の意識が変化
世界各国2,115名のビジネスマンを対象に実施したJLLグローバル調査によれば、できるだけ早くオフィスに復帰したいと考える人もいれば、テレワークを堪能した人もいる。そして、回答者の半数は通勤が不要となったことを歓迎しており、45%が柔軟な業務時間を楽しみ、31%がワークライフバランス改善というメリットを得た。しかし、こうした回答は恒久的にテレワークを継続することを意味するものではない。多くの回答者は最大でも週1、2日の在宅勤務を希望しているのである。
キャロルは「JLLのグローバル調査の結果は大半の人がオフィス環境に戻りたいと考えていることを示している。社会的な交流や同僚とのコラボレーションの重要性が強調されており、業務生産性を最大化できるプロフェッショナルなオフィス環境も求められていることが調査から分析できる」と説明する。
若手スタッフは狭小住宅やシェアハウスに住んでいることが多く、そもそもテレワークは困難だ。また、先輩社員と共に業務に携わることで貴重な経験を得ることも強く望んでいる。
JLL英国 コーポレートソリューションズ コンサルティング ヘッド イアン・フランクリンは「社内外との交流や経験豊富なチームメンバーと直接協働することは、キャリアが浅いスタッフにとって出勤することの重要な利点であり続ける。極論すると人々はコーヒーを飲みながらの会話やコラボレーションなど、バーチャルなツールで容易には置き換えられないものを求めているということだ」とし、オフィスに人的要素が求められていることを示唆する。
拡張現実化されたワークプレイス
より柔軟な働き方を求める企業では、当然ながらオフィスも柔軟に適応させている。
テレワークや社外勤務する従業員に必要とされる技術インフラを提供するため、業務エリアの再設計が必要となるかもしれない。そしてオフィス自体は人が交流し、協働する公的ハブの要素を強めるだろう。
キャロルは「この流れはデジタル化されたヒト中心のワークプレイス戦略を実現するための長期的なシフトの一環である」として、次のように述べている。
「オフィスは従業員が長時間過ごしたいと考えるような、より多くのアメニティを備え、コラボレーションやイノベーション、クリエイティビティを促進する場所となるだろう。新型コロナウイルスはそうしたオフィス空間を一時的に停止させたが、それらは依然として未来の働き方にとって必要不可欠だ」
足元では、企業はオフィスでのリエントリー(事業活動再開)という短期的課題に集中しているかもしれないが、コロナ禍は従来の基準を劇的に変化させ、従業員と企業の両方に利益をもたらすきっかけともなっている。
フランクリンは「テレワークは普及し、オフィスの将来的な機能に重大な影響を与えるだろう」と推測する。新型コロナウイルスは企業に対して伝統的な働き方やオフィスの在り方に対して再考を促し、結果としてオフィススペースとテレワークの新しいハイブリッドモデルを導き出す「触媒」となるだろう。