東京都心5区におけるフレキシブルオフィス市場の進化続く
ハイブリッドワークの普及により東京都心5区におけるフレキシブルオフィス市場の需要が増加する。
コロナ禍の2年半で倍以上に拡大
東京都心5区におけるフレキシブルオフィス市場はハイブリッドワーク(複数のワークスペースで勤務する働き方)によって進化している。もはや、週5日間、本社に出勤する企業は一部であり、サービスオフィスやコワーキングオフィスといったサードプレイスの需要が高まっている。
2022年第1四半期末時点で、東京都心5区におけるフレキシブルオフィスの総貸床面積は417,490m2(図1)であり、新型コロナウイルス感染症が発生した2020年第1四半期末と比較して2倍以上に拡大している。コミュニティ指向のコワーキングオフィスが牽引しており、現在では東京都心5区のフレキシブルオフィス市場の65%を占めるまでに拡大している。
図1:東京都心5区におけるフレキシブルオフィスの現況(2022年3月末現在)
サービスオフィス | コワーキングオフィス | |
市場参入年 | 2000年以前 | 2007年 |
東京都心5区における総面積(総貸床面積(m2)) | 144,578 | 272,912 |
拠点数 | 152 | 171 |
特徴 | コンシェルジュや翻訳等の充実したサービスを提供。大半が個室型オフィスで構成、一部で共有スペースも見られる。 | コミュニティ指向型で、特にミレニアル世代やスタートアップ企業に人気が高い。働き方改革関連法を機に急成長 |
1拠点当たりの面積(m2) | 951 | 1,596 |
コロナ禍の影響 | 継続的な需要により着実に供給拡大 | 大企業でのハイブリッドワーク普及により企業からの需要拡大。本社移転を行う企業も |
1席当たりの月額利用料(円) | 100,000~150,000円/個室席 | 50,000円/フリーアドレス席 100,000~200,000円/個室席 |
出所:JLL日本 リサーチ事業部
不確実な時代に対応
長期的なオフィス戦略については多くの企業が現在も検討段階にあるため、適切な規模へ柔軟に調整できるフレキシブルオフィスが人気を集めている
新型コロナの感染拡大以来、一部の大手企業では従業員にハイブリッドワークを推奨し、本社への出社率は30%未満に低下した。その後、緊急事態宣言が解除されても、従業員全員がオフィスへ出勤できるかどうかは依然として不透明なままだ。
その結果、この不確実な時代を乗り越えるため、より多くの企業がフレキシブルオフィスを選択し、なかには本社機能をコワーキングオフィスやサービスオフィスに移転する事例が見られる。
優秀な人材の獲得とモチベーション維持、企業文化の浸透、偶発的なコミュニケーションからの生じるイノベーション等といった新型コロナウイルス感染症の発生以前から重要視されてきた要因もフレキシブルオフィスの普及拡大の追い風となっている。他方、テレワークの浸透によって既存オフィスに生じた余剰スペースの最適化、設備投資費の節約も求められている。
特に大手企業では賃貸借契約条件について柔軟性を求めている。いまだ感染者数が大きく増減するコロナ禍において今後も大きな変化が生じる可能性が高く、それゆえ環境変化に合わせて柔軟に対応できるフレキシブルオフィスの利用者増加が期待されている。
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ハイブリッドワークの普及で2022年もフレキシブルオフィス市場の拡大は続く
ハイブリッドワークで本社以外のワークプレイスでの作業が注目されており、東京都心5区におけるフレキシブルオフィスがさらに拡大することが予想される
フレキシブルオフィスのオペレーターや国内不動産デベロッパーは、さらなる需要を見越して新しい拠点開設をしている。
JustCoはシンガポールに拠点を置く大企業向けのコワーキングスペースを展開するオペレーターであるが、2022年第1四半期に「渋谷ヒカリエ」の31階に国内第1号店を開設し、年内に東京都心5区に複数の大規模拠点を出店する予定である。一方、WeWorkは日本橋兜町に新規拠点を開設し、Regusは「六本木ヒルズ」に新たな高級ブランド「Signature」を開設した。そして2022年秋には新規拠点の開設を既に発表している国内オペレーターも少なくない。
2022年第1四半期末時点で、東京Aグレードオフィスに占めるフレキシブルオフィスは約2.3%(床面積ベース)。ハイブリッドワークで本社以外のワークプレイスでの作業が注目されており、フレキシブルオフィスを利用する大手企業が増えるにつれて、東京都心5区におけるフレキシブルオフィスはさらに拡大することが予想される。
ハイブリッドワークの普及により東京都心5区におけるフレキシブルオフィス市場が激動している。この上昇トレンドは長期的に継続することが予想されており、企業の成長をこれまで以上に促進することが期待される。
執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 アナリスト 中丸 友世