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日本の不動産透明度を改善するために必要な3つの視点

世界の不動産投資市場の「投資しやすさ」を測る指標として定着した「不動産透明度」。これまで右肩上がりでランクを上げてきた日本だが、2020年版で2ランク下げ、16位となった。透明度スコア自体、改善しているものの、他国・地域の取り組みが日本を上回ったことが背景にある。透明度を改善していくためには何が必要になるのだろうか。

2020年 09月 23日

日本の不動産透明度16位、初のランク落ち

世界の壁は厚かった―。
JLLとラサール インベストメント マネージメントが共同で制作する「2020年版グローバル不動産透明度インデックス(日本版)」が9月10日に発表された。これまで着実に透明度ランキングを上げてきた日本だが、前回(2018年版)14位から16位へとランクダウンした。背景にあるのは他国・地域の透明度が日本以上に改善されたためだ。

レポートの調査・制作に携わったJLL日本 リサーチ事業部 大東 雄人によると「日本の透明度スコア自体は毎回改善されているが、透明度高グループ(世界のトップ10カ国・地域)をはじめ、世界的に透明度改善がなされたため、日本が相対的にランクを落とした」と指摘する。

不動産透明度とは?

世界99カ国・地域、163都市を対象に、不動産投資に関する210要素から算出した総合スコアを「不動産透明度」とする。今回の調査では「サステナビリティ」、「レジリエンス」、「健康とウェルネス」、「不動産テック」、「オルタナティブ不動産セクター」が新たな調査要素に追加。今や「世界の不動産投資市場に対する投資のしやすさ」を測る資料として、政府関係者や都市政策機関等に活用されている

1998年の開始以来、隔年で調査を行ってきた同レポートは今回で11版を数える。日本は2014年版で26位、2016年版で19位、そして前回2018年版で14位へと着実にランクを上げてきたが、今回は16位。シンガポール、香港に次いで透明度「中高」グループ上位に名を連ねるものの2ランクダウンとなった。

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「透明度高」目前で足踏みする日本の課題

日本が透明度高グループ入りを果たすためには何が必要になるのか。日本と透明度高グループを比較してみた。その結果、日本は「上場不動産インデックス」、「不動産ローン規制」で透明度高グループを上回っていたが、一方で「テナントサービス」、「コーポレートガバナンス」、「物件データの欠如」、「財務情報開示」の項目で遅れが目立った。取引価格やポートフォリオ、共益費などの各種情報・データが開示されていないことが主な課題となっており、これは長らく指摘され続けてきた日本の慢性的な欠点といえるだろう。

透明度改善に必要な3つの視点

では、これらの課題を解消し、日本の透明度を改善していくためには何が必要になるのだろうか。大東が注目するのは「サステナビリティ」、「不動産テック」、「オルタナティブ不動産セクター」だ。

サステナビリティ

CASBEEに代表される不動産の環境性能評価やエネルギー消費量ベンチマーク、エネルギー効率基準、二酸化炭素排出の報告義務制度など、日本はサステナビリティ項目では高い評価を受けているものの、透明度高グループの上位と比較すると見劣りする。サステナビリティ透明度の1位のフランスではグリーンリース条項を義務付け、環境不動産の財務パフォーマンス測定指標を整備。2位のオーストラリアは今回調査で新たに加えられた水利用効率基準や建築物のレジリエンスの枠組みなどの基準で高スコアを記録している。

「金融業界では『ESG投資』の機運が高まっており、環境配慮が投資パフォーマンスに直結し始めているが、日本でも投資リターンを客観的に示すような指数を整備する必要があるだろう」(大東)

また、気候変動リスクに対応する建築物のレジリエンス基準の策定、世界的に進展するネット・ゼロ・カーボンビル(ZEBビル)の実現、新型コロナを機に喫緊の課題となった建物利用者・管理者の健康や快適性を確保するためにウェルネス認証の普及などにも努めていく必要がある。

不動産テック

新型コロナの感染拡大を受けて、テクノロジーの活用が世界の不動産市場で加速している。デジタルツールやビッグデータ技術によって入手可能な市場データが急激に拡充するだけでなく、取引プロセスを改善し、建物の管理・運営面において在館者や施設利用者に快適性を提供できる。不動産テックを本格的に導入することで透明度スコアを大幅に改善する国・地域が増えている半面、日本は「不動産テック」要素において35位にとどまっているのが現状だ。

「日本発の不動産テック・スタートアップ企業も誕生してきたが、不動産業界で普及したとは言い難く、資金調達額も米国の100分の1程度に過ぎない。政府主導で不動産売買における重説のオンライン化等が整備されつつあるが、ガラパゴス化した商習慣等も見直していく必要がある」(大東)

オルタナティブ不動産セクター

世界的な金融緩和を背景に、投資家はより高い利回りを求めるようになった。そのため、より利回りの高いニッチ分野であるオルタナティブ不動産セクターに投資対象が拡大している。

「日本では少子高齢化を背景に高齢者住宅セクターの専門上場REITが組成され、当該セクターのデータ拡充が進んでいるが、ライフサイエンス施設や冷凍・冷蔵倉庫、データセンターなどは透明度高グループと比べても市場規模・データの充実度共に低い。加えて、都市ごとに偏りが見られる不動産データの情報格差をいかに埋めるかも大きな課題となっている」(大東)

透明度改善にさらなる努力が必要

不動産透明度は投資資金のみならず、企業や人材を誘致するための指標となっており、政府主導で透明度向上に向けた取り組みを進めている国・地域も存在し、大きくランクを伸ばしているのも事実だ。

本調査を主導したJLLグローバルリサーチ リードディレクター ジェレミー・ケリーは「欧州などではオルタナティブ不動産セクターや不動産テック分野で透明度改善に向けて努力し続けており、中でもサステナビリティにおいては『限界』を押し上げる先進的な取り組みを行う国・地域が多数存在する。透明度高グループ入りの基準達成を難しくしている要因だ」と指摘する。

コロナ禍や気候変動といった社会情勢の大きな変化を受けて、投資家や企業、社会全体から透明度に対する期待・要求が年々高まっていく中、日本が「世界から選ばれる不動産投資市場」であり続けるためには、透明度改善に向けて更なる努力が必要となる。

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連絡先 大東 雄人

JLL日本 リサーチ事業部 シニアディレクター

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