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不動産透明度、日本19位から14位へ躍進も課題は残る

JLLとラサール インベストメント マネジメントの調査による「2018年版グローバル不動産透明度調査」(日本語版)が7月25日に発表された。1998年の開始以来、2年に1回調査を行ってきた同レポートは今回で10版。日本は前回19位から14位へ躍進したものの、解決しなくてはならない課題が浮き彫りになった。

2018年 08月 22日

日本、実質ランクダウンの衝撃

「世界各地の不動産市場に対する投資のしやすさ」を測る資料として各国政府関係者や業界団体等に利用されている同レポート。やはり気になるのは自国(日本)のランキングだ。前々回調査(2014年版)は26位、前回調査(2016年版)では19位と着実にランクを上げてきていた日本だが、2018年版では過去最高の14位に躍進。シンガポール、香港に次いで透明度「中高」グループ上位に名を連ね、「高」グループ入りが視界を捉えている。

一方、このランクアップを額面通りに受け止めるのは早計だ。透明度調査に携わったJLL日本 リサーチ事業部 大東雄人は日本の透明度は改善しているものの他国は大幅な改善を遂げている。日本は改善スピードを上げないと世界的な潮流に取り残される」と警鐘を鳴らしている。

ランキング躍進の要因は今回の調査から新たにサブインデックスに加わった「サステナビリティ」によるところが大きい。建物省エネ性能表示制度といった環境不動産に積極的に取り組む日本は3位の高評価を得ており、総合順位を下支えした。しかし従来通り5つのサブインデックスで評価すると21位。前回より実質順位を2つ下げたことになる。

諸外国の透明度改善は日本を大きく上回る- 投資しやすさの指標・透明度

今回の調査対象国100カ国のうち85%で透明度が向上しており、透明度を高めるための取り組みは今や世界的な潮流となりつつある。特に政策として透明度向上に血道をあげている国の躍進が際立つ。UAE・ドバイでは全建物の区分・区別計画を実施する他、仲介業者や不動産管理会社登録用の政府アプリを強化。インドは2016年に不動産規制法の強化、REIT市場の拡大を支援するSEBI(不動産投資信託)規制改革を実行している。また、世界で最も透明度を改善した国の1つとして今回6位になったオランダは「不動産テック」を積極的に活用した。テクノロジーによってオープンデータ化が進み、取引価格や登記情報等が容易に確認できるようになり、透明度向上に寄与した。

依然として進まない日本の「情報開示」- 投資しやすさの指標・透明度

「劇的」な改善を見せる他国に比べて、日本の課題はどうか。同レポートの調査によって6つの原因があることが判明している。日本は3つのサブインデックス―「サステナビリティ」3位、「パフォーマンス測定」5位、「法律・規制」17位と好成績を記録。しかし、残り3つのサブインデックスは軒並み順位が低迷している。「上場法人のガバナンス」31位、「取引プロセス」35位、「市場ファンダメンタルズ」36位となり、30位台に低迷した3項目は取引に関する情報やデータの開示が圧倒的に欠けているのが主な要因だ。例えば、「上場法人のガバナンス」では一般事業会社(コーポレート)が保有する物件に関するデータがマーケットで開示されていないのが下位低迷の一端となった。「取引プロセス」では日本の土地登記システムはその正確性、物件の網羅性は世界的に高い評価を受けているが、「取引価格」情報が一切記載されていない。加えてテナントサービスとして共益費の情報開示が全く行われていないことも足を引っ張っている。「市場ファンダメンタルズ」の低迷は非上場ファンドのインデックスが未整備であるなど、データ量が圧倒的に少ないためだ。

短所より長所を伸ばすべき- 投資しやすさの指標・透明度

透明度に関する日本の課題は「情報開示の脆弱さ」に帰結する。前述したUAE・ドバイやインドは政府主導で透明度改善に取り組んでいるが、成熟社会・日本ではこれまでのシステムを一新し、情報開示を義務付けるのは現実的とはいえない。行政関係者には課題は十分に認識していながら抜本的な解決には至っていない。

では、透明度を上げるにはどうするべきか。大東は「短所の改善に着目するよりも長所を伸ばすべき」と提言する。例えば「サステナビリティ」に関して今回日本は3位と環境性能評価等に関して高い評価を受けているが、日本を上回る国ではグリーンリース条項の適用が進み、環境不動産に入居した場合のパフォーマンス測定インデックスを策定するケースもみられる。こうした先進的な取り組みを日本流にアレンジして取り入れていくことで透明度の改善は図れるではないか。

不動産透明度と直接不動産投資額の多寡は密接に関係している。世界の投資総額の75%が透明度上位国に集中しているのが、その証拠といえるだろう。そして世界各国が透明度を高めており、投資マネーのみならず企業・人材を誘致するための強力な武器となりつつある。一方で不動産投資家は透明度最上位国にあっても更なる透明度改善を要求されているのが現状だ。大東は「透明度を向上させるには行政主導でマーケットのメカニズムを変えるか、民間の市場参加者が透明度を意識して事業活動を行う2つの要素が重要。他国が劇的に透明度を向上させている中、日本が『埋没』していく可能性は否定できない」と危機感を募らせる。

次回の透明度調査は奇しくも東京五輪が開催される2020年となる。国際社会に向けて日本の魅力を発信するための「見本市」と位置付けられる五輪イヤーで、不動産透明度がどのような進化を遂げているのか、注目したい。

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