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令和時代の日本が「世界から選ばれる不動産市場」であり続けるために

30 年に及ぶ「平成」時代が2019年4月をもって終わりを告げ、新元号「令和」が始まる。平成の不動産マーケットを俯瞰すると、この間、最も大きなインパクトを残したものの一つが「リーマン・ショック」である。当時、世界的に市場から流動性資金が枯渇し、多くの海外資本は国内市場を後にした。今後日本の不動産市場が同じ扱いを受けないためには、海外投資家にとって「外せない市場」に成長する必要がある。そのためには、次の時代を見据え今我々は何をしておくべきなのだろうか?

2019年 04月 17日

「リーマン・ショック」が日本市場を揺るがす

30年に及ぶ「平成」時代、世界経済を揺るがした大事件といえば「リーマン・ショック」を思い浮かべる方は多いのではないか。2007年の米国住宅バブル崩壊によるサブプライムローン危機に端を発し、2008年9月に米大手投資銀行のリーマン・ブラザーズが経営破綻。世界中に景気後退の波が広がった。当初、日本では「対岸の火事」とされ、経済への影響は軽微と考えられていたが、その後、他国よりも長い低迷を味わった。不動産マーケットにも甚大な影響を及ぼし、取引額・件数ともに大幅に減少したのは記憶に新しいところだ。

リーマン・ショックからはや10年。時代は「平成」から「令和」へと移る中、経済のグローバル化はリーマン・ショック当時よりも緊密になっている。不動産と金融の融合もこれまで以上に進展しており、投資市場としての魅力が向上する一方、考慮すべきリスク要因も増加している。「戦後最長の好景気」とされ、一部では「バブル」とも呼ばれる国内不動産マーケットが急転直下する可能性はゼロではない。リーマン・ショック後と同じ轍を踏まないためには何が必要か、好調なマーケットが継続している今、いったん立ち止まって考えてみたい。

外資系の参入で不動産市場が沸騰

リーマン・ショック以前の「不動産ミニバブル」を支えたのは海外投資家だといわれている。バブル崩壊から回復途上にある日本は世界的に見ても「絶好の買い場」とされ、欧米の大手金融機関がこぞって国内不動産市場への進出を果たす。彼らから融資を受けた外資系ファンドが積極的に不動産に投資し、市場にデット性資金とエクイティ性資金の両方をもたらした。しかし、リーマン・ショックによって海外資金の多くが撤退。JLL日本 キャピタルマーケット事業部 事業部長 根岸 憲一によると「欧州の金融機関はより多くの損失を被ったアメリカからは撤退せず、比較的軽微な損失に終わった日本からは撤退したケースが目についた」と振り返る。その理由について、根岸は「不景気になり、より正確にリスクの判断が迫られる時、必要なデータが得られないような『不透明な市場』は敬遠され、より透明性の高い市場を世界のマネーは選んだ」と説明する。

取引額4兆円の壁を突き破れない理由

JLLの調査によると、2013年以降、日本の商業用不動産取引額は4兆円前後で堅調に推移しているが、見方を変えると4兆円台の壁を一気に突き破れない「停滞」ともいえる。東京が有する不動産規模は世界屈指でありながら、取引額が伸び悩んでいるのはなぜか。根岸は「市場の透明度が低く、海外投資家が市場参入する際の障壁になるため」と指摘する。

JLLでは2年に1度、世界の主要不動産マーケットにおける「透明度」を調査しているが、日本は欧米先進国に比べて不動産取引データの開示が遅れていること、不透明な共益費に代表される独自の商習慣が健在していること等が長らく課題とされてきた。根岸は「海外投資家の多くは有事の際には、その時点でのリスク要因を正確に判断するために情報開示が進んだ透明度の高い市場を普段以上に選ぶ。上位には、英国、米国、オーストラリア等がくる。日本の透明度ランキングは14位と『中の上』に位置し、海外投資家から見れば『選択肢の1つ』に留まっている」と指摘する。ちなみに、透明度を大きく改善している台湾は2018年の総投資額は2016年比で119.5%に増え、シンガポールでも20.4%増。半面、日本の増加率は6.2%というのが実情だ。

不動産投資における「都市間競争」を勝ち抜く

現在の日本マーケットは低金利が継続し、不動産投資に妙味のある環境が続いている。海外機関投資家などのコア資金の投資戦略に合致しているが、彼らが求める『長期安定したパフォーマンス』を維持していかなければコア資金は離れていってしまう。いかなる景気動向であっても海外マネーが逃避しない、もしくは有事の際に海外マネーが集まるようなマーケットにしていくことが、今後高成長が予想しづらく、主にコア資金、コアプラス資金と共に安定成長していくべき我が国の不動産市場が目指すべき姿であろう。

米中貿易戦争が長期化の様相を示し、BREXITも「合意なき離脱」の確率も高まりをみせており、リスクマネーが慎重になり始めている。東京の不動産投資市場は約35%が海外投資家で構成されているが、ロンドン(64%)やパリ(47%)に比べると、その割合はまだまだ低い。人口が減少し、経済も高成長は期待できない日本の不動産市場は、今後益々海外資本を呼び込んでいく必要がある。そのためには、景気の変動と共に海外資本が離れてしまい易い今の市場から、不景気になったとしても安心して海外投資家に「選ばれる市場」に成長していかなければならない。不動産投資においても「都市間競争」はこれまで以上に過熱していくと予想される。日本マーケットが「選ばれ続ける」ためには、さらなる市場の透明度改善が必要不可欠だ。

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