日本の不動産市場:コロナ禍からの回復とその先にあるもの
コロナ禍によって社会的、経済的に大打撃を受けた日本。社会経済状況の回復度を調査する中で、浮き彫りになったのは政府施策が不動産市場に多大な影響を及ぼしている点だ。これからの不動産市場はどこへ向かうのだろうか。
コロナからの回復途上にある日本の不動産の行方
新型コロナウイルス感染拡大第3波の真っただ中に明けた2021年1月、日経平均株価は30年ぶりの高値を記録したが、実体経済は低迷が続いている。JLL日本 リサーチ事業部では、新型コロナウイルス感染症の影響により悪化した社会経済状況がどの程度回復しているかを可視化する総合指標として「JLLリカバリーインデックス」を月次で発表している1。いまだ回復途上にある日本の社会経済活動は不動産市場の好不調に繋がるが、その動向は政府の施策によるところが大きいことをインデックスは示している。
図1は、JLLリカバリーインデックスの6つのサブインデックス(①ヘルス、②金融、③雇用、④生産、⑤需要、⑥モビリティ)と、2020年1月からの月次変化を示している。
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JLLリカバリーインデックスとは?
ヘルス、金融、雇用、生産、需要、モビリティ、不動産の7つの領域の動向について、2020年1月を基準(100)とした時の各月の指標をサブインデックスとして算出。その総合指数をトータルインデックスとして、コロナ禍における日本の社会経済全体の回復度合いを可視化した。サブインデックスの指標は以下の通り。
① ヘルス:新型コロナウイルス感染症の新規感染者数および死者数等
② 金融:日経平均株価、東証REIT指数等
③ 雇用:完全失業率、有効求人倍率、休業者数等
④ 生産:貿易輸出額、鉱工業生産指数、自動車国内生産台数等
⑤ 需要:貿易輸入額、百貨店売上高、コンビニエンスストア販売額、外食産業売上高等
⑥ モビリティ:国内線旅客輸送、鉄道利用状況、宿泊施設稼働率等
⑦ 不動産:JLLで観測している不動産売買および不動産賃貸借の取引動向
※本稿では不動産インデックスを除いた6領域の動向を見ている。
投資機会
政府のコロナ施策が不動産市場にも影響を及ぼす
新型コロナウイルス感染拡大第1波に伴い、2020年4月に全国を対象とした「緊急事態宣言」が発出されると、社会経済活動は一時的に停滞した。水際対策の強化等によりすでに悪化していたモビリティインデックスは4月に底を打ち、5月には雇用、生産、需要インデックスが最悪期を迎え、トータルインデックスも最低値を記録した。
5月下旬に「緊急事態宣言」が解除されると、6月には社会経済活動に回復の兆しが見えてきた。7月、8月は新型コロナウイルス感染拡大第2波のなかにあったものの社会経済活動が大きく制限されることはなく、10月には政府の観光業支援策「Go To トラベル」キャンペーンによりモビリティも大幅に改善し、トータルインデックスは新型コロナウイルスの影響が出始めたばかりの3月の水準を上回った。しかし、新型コロナウイルス感染拡大第3波により新規感染者数および死者数が急増し、12月下旬に「Go To トラベル」キャンペーンが一時停止され、2021年1月に東京や大阪を含む11都府県に主として飲食業を対象とした「緊急事態宣言」が発出されると、モビリティ、需要インデックスが再び悪化し、トータルインデックスも低下した。
「緊急事態宣言」や「Go To キャンペーン」のみならず、新型コロナウイルスに係る政府の施策は、私たちの暮らし方や働き方、ひいては不動産市場にも変化をもたらしている2。移動制限や外出自粛、店舗の時間短縮営業等により売上が激減したホテルやリテール市場は低迷した。一方、巣ごもり生活により電子商取引(Eコマース)の需要が一層拡大し、物流市場は活況を呈した。在宅勤務で重要性が見直されたレジデンシャル市場も投資家の注目を集めた。
コロナを機に変わり目を迎えるオフィス戦略
テレワークの推進やソーシャルディスタンスの確保等により配置戦略が検討され始めたオフィス市場は変わり目を迎えている。新型コロナウイルスを契機に、メインオフィス、在宅勤務、サテライトオフィス、コワーキングスペースを併用したハイブリッドな働き方の創出が進んでいる。また、ウェブ会議、オフィスのモニタリングやパフォーマンスの最適化、コンタクトレスサービス等を可能にするテクノロジーの導入が加速している。さらに、働く人のウェルビーイングの追求、働く場所のネットゼロカーボンの達成を通じたサステナビリティの向上に焦点が当てられている。
² JLL「ジャパン キャピタル フロー 2020年第4四半期」(Japanese), 「Japan Capital Flow Q4 2020」(English)
連絡先 剣持 智美
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