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リモートワークの生産性は?コロナ禍で気づかされたオフィスの価値

在宅勤務をはじめとするリモートワークを導入する企業がコロナ禍で急増している。オフィス出社を再開したものの、オフィス出社率が上がらないケースも少なくない。果たしてリモートワークで企業が期待する成果を実現できるのだろうか。

2021年 01月 05日

緊急事態宣言解除後もオフィスに従業員が戻ってこない

800坪はある広大なオフィスに働いているのは数えるほど。コロナ前は活気に満ち溢れていた空間が今や見る影もない。都心一等地の高層ビルに開設した某大手企業のオフィスの現状だ。

働き方改革を念頭に生産性向上やイノベーション創発に寄与する様々な仕掛けが施された最先端のオフィスだが、緊急事態宣言解除から数カ月が経過した今も出社率は2割程度で推移しているという。オフィスの管理担当者は「どこで働いても業務に支障がないというコロナ対策に成功したということだろうが、この状況で生産性向上やイノベーション創発など、会社が期待している成果をあげられるのだろうか?」と首をかしげる。

リモートワーク経験者もオフィス回帰を希望

緊急事態宣言が解除されたものの依然としてコロナ収束の見通しが立たない中、リモートワーク主体の働き方を継続する企業は多いが、その一方でコロナ禍にもかかわらず拡張移転するなど、オフィスを重視する企業も存在する。背景にあるのは、在宅勤務をはじめとするリモートワークではコロナ以前の労働生産性を維持することが難しいためだ。

JLLがコロナ禍で実施した、日本を含めたアジア太平洋地域の企業で働く1,500名に対して実施したアンケート調査によると、アジア太平洋地域全体では46%が「在宅勤務のほうが生産性の高い働き方ができた」と回答したが、日本に限定するとわずか21%という結果となった。

加えて、同調査ではアジア太平洋地域全体で実に61%が「在宅勤務を経験したもののオフィスへ戻りたい」と回答。中でも35歳以下のミレニアム世代の66%が「オフィス回帰」を願望していることが明らかになった。

企業のオフィス戦略立案等を支援しているJLL日本 プロジェクト・開発マネジメント事業部 シニアディレクター 溝上 裕二は「在宅勤務からオフィスに戻りたいとする理由について、アジア太平洋地域では『人との交流や付き合い』が1位だったが、日本では『業務に集中できる環境』だった。住宅が狭小かつ通信インフラ等が整っていないことが要因だ」と説明する。リモートワークで生産性をいかに向上・維持させるのか、課題が浮き彫りになった形だ。

従業員の健康・安全に配慮することは優先事項だが、コロナ禍といえども業績を軽視するわけにはいかない。経営者だけでなく、雇用される側もオフィスへの出社を希望している点は見逃せない。溝上は「コロナ禍では出社率20-30%に抑えた企業が多かったが、今後のオフィス出社率をどの程度にすべきか、見極めないといけない」と指摘する。

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リモートワークのメリット・デメリット

リモートワークのメリットは働く場所を選択でき、ワークライフバランスを実現しやすく、介護や育児と仕事を両立させられる柔軟な働き方を可能にする点だろう。中でも過度なストレスがかかるラッシュ時の通勤を回避できることから、一度経験すると止められない中毒的な魅力がある。

半面、リモートワークの問題点として頻繁に耳にするのが「コミュニケーション不足」だ。SNSやチャットツール等のオンラインで気軽に連絡が取れる環境とはいえ、対面でのコミュニケーションほど意思疎通が図れない。オンラインミーティングを行っても相手の反応がわからず、不安を抱きながら業務を進めることになり、通常以上にストレスがかかる。同僚と顔を合わせることがなく、ストレスや寂しさを抱えたまま働くことでメンタルヘルスの問題を引き起こすケースもあるという。

また、自宅で働くことで仕事のOn/Offの切り替えが難しく、業務時間が長くなりがちだ。そしてチーム間で連携・確認を取りながら進めるべき業務については意思疎通の低下等で生産性が低くなるという意見も多く聞かれる。

オフィスならではの魅力

これらのリモートワークの欠点は、裏返すとオフィス出社のメリットとなる。例えばオフィスの代表的な魅力として「働きやすい高機能化した執務環境」、「クライアントとのコミュニケーション強化」、「イノベーション創発」、「経験の浅い従業員の教育」、「企業ブランドや帰属心の醸成」などが挙げられる。リモートワークならではの課題である「コミュニケーション不足」や「生産性低下」は起こりにくい。

従前、大手企業を中心に働き方改革の一環でオフィス機能の高度化が進められてきた。コロナ禍でいったんは途切れたものの、出社しなくなったことで、オフィスの価値に対して改めて多くの人が気付かされたともいえる。前述した通り、業務効率の向上、心理的安心感、所属意識の啓蒙、それらを包括したイノベーション創発など、様々なメリットを享受できる唯一無二の場所がオフィスであり、リモートワークでは補えない要素だ。

リモートワークとオフィスを組み合わせたハイブリッド戦略

とはいえ、オフィスとリモートワークはそれぞれ異なる魅力を有しており、双方をうまく組み合わせたハイブリッドなオフィス戦略を再考すべきだろう。コロナ禍で生じた新たな業務上の課題を解決するために、より広い視点でのオフィス改革が望まれる。

そうした中で、Withコロナ・Postコロナ時代のオフィスはコロナ禍で低下した従業員の結束や帰属心を繋ぎとめる共通の価値観やビジョンを体現するための象徴的な場であり、人が集まることを前提とした場所となりそうだ。ハードのみならず、コミュニケーションを育むことができる仕掛けづくりがこれまで以上に求められ、オフィスの存在価値を高めていかなくてはならない。

溝上は「オフィスに人が集まることには大きな意味があり、一部で噴出していた『オフィス不要論』が主流となることは考えにくい。しかし、何のためにオフィスに集まるのかを検証し、オフィスに求める役割や意義を再定義していく必要がある」と締めくくった。

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