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物流倉庫の自動化を阻む壁

電子商取引への対応、人手不足と労働環境の改善などの課題を解決するべく、物流倉庫に自動化技術を導入する機運が高まっている。いわゆる「物流DX」と呼ばれるトレンドについて、アジア太平洋地域で物流倉庫を賃借するテナントに調査を実施。しかし初期導入コストの高さなどから、自動化技術の導入は限定的のようだ。

2023年 06月 09日
物流倉庫で活躍する自動化技術

ある物流倉庫の一角。SFを予感させる未来的な“外骨格(パワードスーツ)”を身に纏い、自分の体重を超えるであろう大きな荷物を持ち上げている作業員がいる一方、在庫検査のためにドローンが頭上を飛び回り、足元には自律走行型搬送ロボットが理路整然と規則正しく動いている……。物流倉庫でこうした自動化技術が活躍する姿はいまや日常風景となりつつある。そして安全性の確立、運用効率と改善など、物流倉庫の業務効率化に多大な恩恵をもたらしている。

物流倉庫の主な自動化技術
自律走行型搬送ロボット(AMR) パワーアシストスーツ(エクソスケルトン)
無人搬送車(AGV) 光誘導ピッキング
自動倉庫システム(AS/RS) レイヤーピッキング
自動ストレッチ包装機 仕分けシステム
オートストア(自動倉庫型ピッキングシステム) 伸縮コンベヤー
自動アンローディング ビジョンピッキング
回転棚 音声ピッキング
物流倉庫の自動化が求められる理由

世界的に普及拡大する電子商取引(EC)によって小口多頻度納品が激増し、その流通経路で重要な役割を担う物流倉庫での作業効率が悪化した他、倉庫スタッフの慢性的な人手不足や過酷な労働環境などが問題視されており、物流倉庫の業務改善が喫緊の課題となっている。そのため、自動化技術を導入し、これらの課題解決を図ることが世界的に求められるようになってきた。日本においてはトラックドライバーの労働環境を改善する目的で、時間外労働時間を年間960時間まで上限規制される「2024年問題」があり、自動化技術の導入を促進する「物流DX」の機運が高まっている。

アジア太平洋地域では物流倉庫の自動化技術の導入状況は62%
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無人搬送車 (AGV) や伸縮式コンベアなどの「自動化技術を活用していない」と回答したのは38%

とはいえ、パワードスーツやドローン、作業ロボットといった自動化技術の導入は増えつつあるが、その進展はまだまだ途上といえそうだ。

アジア太平洋地域の物流・産業用施設を賃借するテナント企業55社を対象に、自動化技術の活用状況を紐解いたJLLの調査レポートによると、無人搬送車 (AGV) や伸縮式コンベアなどの「自動化技術を活用していない」と回答したのは38%にのぼった。一方、「活用している」と回答した62%の企業においても、その導入状況は限定的となった。

JLL調査レポート「過熱する物流・産業用不動産の自動化競争」

ボトルネックは初期導入コストの高さ

自動化技術の導入に向けた阻害要因として、回答者の85%が「初期導入コストが高いこと」を挙げており、投資回収期間が長いことも明らかなハードルとなっている。JLLアジア太平洋地域 リサーチディレクター ピーター・ゲバラは「アジア太平洋地域の物流施設の標準的な賃借期間は3-5年とされ、最新鋭の自動化技術を導入しても投資回収するには短すぎる」と指摘する。

例えば、物流施設のテナントとして近年その存在感を高めている3PL事業者の事情がわかりやすい。JLLアジア太平洋地域 サプライチェーン&ロジスティクス ソリューション ヘッド マイケル・イグナティアディスは「荷主企業が共同で投資する。もしくは長期の賃貸借契約を締結しない場合、3PL事業者は物流施設内のテクノロジーに投資するインセンティブがほぼない」と説明する。

自動化技術の導入事例

英国では、オンライン小売業者のRangePlusが自律走行ロボットを活用した倉庫ピッキングシステムをフルフィルメントセンターに導入し、ピッキング率と注文ピッキング時間を 300%短縮した

ある程度長期の賃貸借契約であっても、すべてのテナントが自動化技術の導入に適しているわけではない。導入に向けて事業内容と規模、テナントの属性も考慮する必要がある。イグナシティアディスによると「大型荷物を少量ずつ保管する倉庫よりも、EC事業者やスペアパーツの配送センターのほうが自動化技術のメリットを享受できる」という。例えば、英国では、オンライン小売業者のRangePlusが自律走行ロボットを活用した倉庫ピッキングシステムをフルフィルメントセンターに導入し、ピッキング率と注文ピッキング時間を 300%短縮したという。

しかし、それでもなお一部のテナントは、既存施設が自動化技術に適しているかどうか懸念を持っており、依然として導入に躊躇している。JLLの調査レポートの回答者の33%は、既存施設の設計が自動化の導入に対して大きな障壁になっていると強調している。ゲバラは「多くのテナントに対応するために一般的な設計を採用する傾向がある投資用の賃貸型物流施設でより問題になりえる。これらの施設に高度な自動化技術を導入するには、大幅な追加投資が必要になる可能性がある」と指摘する。

一方、一部の自動化技術は多くのテナントが導入を進めたことで低価格化が進んでおり、自動化技術の導入コストは今後数年間で低下する可能性がある。ゲバラは「人件費が低い新興市場に比べ、オーストラリアなどの人件費や運用コストが高い市場では、自動化技術への投資を回収できる可能性が高まっている」との見解だ。

2030年までに人手と自動化技術のバランス型戦略へ移行

JLLの調査レポートでは、回答者の90%超が依然として人手作業に依存していることが判明している。しかし、テナント各社は長期的な視点で技術導入に関して意欲的なゴールを設定している。2030年までに人手と自動化技術のバランス型戦略(人手の割合が40-60%、自動化技術の割合が40-60%)へ移行する見通しとの回答が過半数に上るなど、今後労働負荷が均等に分割されることが予想される。

イグニティアディスは「現在、テナントが導入している一般的な自動化技術には、ベルトコンベアや AGV など、導入が比較的容易なソリューションが多い。しかし、自動化の取り組みをさらに進めるには、施設の種類や製品の性質から、施設に自動化を導入することで得られる付加価値に至るまで、多角的な観点から慎重に検討する必要がある」と締めくくった。

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連絡先 マイケル・イグニティアディス

JLLアジア太平洋地域 サプライチェーン&ロジスティクス ソリューション ヘッド

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