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半自動化倉庫の低価格化が進む理由

技術コストの低下により、テナント企業の間で倉庫への半自動化システムの導入が広がっている。

2022年 10月 07日

倉庫の自動化はかなりの水準まで進んできたとはいえ、工場や研究施設向けの完全自動化システムのコストの高さに多くの企業に衝撃を与えている。

「完全自動化倉庫の投資回収には最大10年かかる」。そう指摘するのは、JLLアジア太平洋地域 ロジスティクス&インダストリアル ヘッド トム・ウールハウスだ。

「投資する設備が自社の事業に最適かどうか、しっかり確認する必要がある。ここで見誤ると大きな痛手となる」(ウールハウス)

そうした中、注目を集めているのが無人搬送車(AGV)や自律走行型搬送ロボット(AMR)だ。どちらも半自動化システムとして多くの企業が導入しているため、低価格化が進み、物流業界では急ペースで普及が拡大している。

データポータルサイトのStatistaによれば、ロボットの平均価格は2010年に46,000米ドルだったのが、2017年には27,000米ドルまで下がっており、2025年には技術コストの低下を受けて10,900米ドルを割り込むと予測されている。

「業務の自動化を高めたい企業の目には、はるかに現実味のある選択肢として浮上してきた」(ウールハウス)

例えば、物流大手のDHLでは自社の物流施設にピッキング支援ロボットを導入している。時間当たりのピッキング件数が最大180%増になるため、手作業による反復が削減され、従業員は付加価値の高い業務に専念できるようになる。

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RaaS方式は、多くの中小企業が機械化・自動化の遅れを取り戻す一助になるだけでなく、自由度の高い半自動化ソリューションを必要とする3PL事業者のニーズにも応えられる

JLLが発表した物流施設の機械化・自動化レポートによれば、低価格化以外にもこうしたソリューションのスケールアップ・スケールダウン、既存システムへの統合を実現する機能も導入ペースが加速している。

JLLアジア太平洋地域 リサーチディレクター ピーター・ゲバラは「今後、機械化・自動化技術の既存ユーザーはさらに導入を加速させていく見通しであり、こうしたテクノロジーを導入したことがないテナント企業も徐々に導入していくようになる」と指摘する。

物流施設の機械化・自動化レポートをみる

万能薬はない

だが、どのようなタイプの自動化技術を導入すべきかはテナント企業によって千差万別。唯一絶対の「正解」など存在しない。

テナントごとに必要とする要件が異なるため、施設の設計、占有面積、施設規模のほか、施設内での機械化・自動化技術の全体的な統合度も違ってくる。そして、初期投資と投資リターンのバランスもテナントごとに違うため、どこまで柔軟性を求めるのかはテナント次第だ。

「初期の設計・導入段階で柔軟性や適合性を考慮していなければ、次の投資も必要以上に大きくなりかねない」(ゲバラ)

一方、テナント側のリスクを抑制しようと、テナント向けにAGVやAMRといったロボットをRaaS(ロボットのサービス化)方式でリースする投資家やデベロッパーも現れ始めた。これによって、テナントは高額のコストを負担してロボットを購入する必要がなくなる。

「この方法なら初期費用を抑えられるうえ自由度も高い。RaaS方式は、多くの中小企業が機械化・自動化の遅れを取り戻す一助になるだけでなく、自由度の高い半自動化ソリューションを必要とする3PL事業者のニーズにも応えられる」(ゲバラ)

適切なバランスを

自動化導入の効果を最大限に引き出すには、人とテクノロジーの適切なバランスを見極めることが不可欠

テナントとしては自動化技術の導入に当たって、まずシステム自体が従業員とスムーズに連携できるかどうかを検討しておく必要がある。

例えば、米国の薬局チェーン大手のウォルグリーンズは先般自動化された集中管理型マイクロフルフィルメントセンター(小規模配送センター)の第1号施設をオープンさせた。薬剤師など220人の従業員とロボットが連携しながら、1日に最大35,000件の処方薬の調剤を処理するという。同社では今後、同様の施設を22カ所まで拡大する計画を打ち出している。

ロボットとの連携により業務の大部分が自動化されるが、温度管理が必要な薬剤などは手作業で準備するほか、セキュリティや安全性を確認する目的も兼ねて、キャニスター(広口瓶)や薬瓶に入っている薬剤の確認のために薬剤師が配置されている。

このように、業界やセクターを問わず自動化導入の効果を最大限に引き出すには、人とテクノロジーの適切なバランスを見極めることが不可欠だ。

ゲバラは「運用効率化、長期的なコスト管理、サプライチェーン全体の迅速化・柔軟性向上につながる」としたうえで「テナントにとって最も大切なのは、自社にとって最適な技術を選ぶことだ」とアドバイスする。

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連絡先 トム・ウールハウス

JLLアジア太平洋地域 ロジスティクス&インダストリアル ヘッド

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