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【中国撤退】工場売却のために日本企業が知っておくべき注意点

世界屈指の消費市場・中国に進出する日本企業は少なくない。しかし、コロナ以降大きく環境が変わり、事業の方向転換・撤退を検討する日本を含めた外国企業が増えているという。そうした中、工場などの不動産をスムーズに処分(売却)できないことが喫緊の課題となっている。中国における工場売却のための注意点を解説する。

2024年 05月 30日

本稿は、中国に進出した日本企業が直面する大きな課題として不動産…特に工場の売却時に関する注意点について解説しています。

なお、JLLは世界80カ国で事業展開しており、グローバルネットワークを活かして日本企業の海外進出や国内外の不動産戦略などを支援しています。ご興味にある方は下記サービスページをご覧いただくか、情報収集・質問などございましたら下記からお問合せください。

中国からの撤退を検討する日本企業が増加?

中国からの撤退などを検討する日本企業を悩ませている、ある課題が浮上してきた。インダストリアル不動産…特に工場の売却に苦戦している

米中によるデカップリング(経済分断)が進み、日本を含めた多くの国々に影響を与えている。米国による半導体製造装置の輸出禁止通達などの外部環境の変化を受けて、日本企業の中国撤退や中国での事業ポートフォリオの変更がなされているとの報道も目にするようになってきた。

そうした中、中国からの撤退などを検討する日本企業を悩ませている、ある課題が浮上してきた。インダストリアル不動産…特に工場の売却に苦戦しているのだ。

その課題に言及する前に、まずは中国経済の発展経路をおさらいしておきたい。数年前までJLL中国の北京オフィスに勤務し、主に日本企業の中国進出などをサポートしてきたJLL日本 インテグレーテッド ポートフォリオ サービス事業部 トランザクションマネジメントアドバイザー 胡 肖祎が解説する。

1970-1980年代

中国高度経済成長期が始まり、人件費や地価が安価な中国へ多数の欧米企業・日本企業が進出し始めた。労働人口が集中する北京・上海などの主要都市にオフィス・工場を開設する動きが顕在化。当時、外国企業の誘致を積極的に進めていたため、現在に比べて緩やかな規制環境であったため、外国企業の進出が加速した。

1990-2000年代

土地用途、環境、防災、法務面など、事業に関する条例が厳格化され、特に主要都市で規制強化が進行。急進的な経済発展に伴う土地価格の上昇、不動産取引に関する規制強化などの動きを受けて、外国企業は自社工場を内陸部などの地方都市へ移転する傾向が強まっていった。

2010年代

北京、上海などの主要都市において工場新設が禁止され、外国企業の事業抑制につながる規制が厳格化に向かう。

現在

外国企業による中国国内の工場閉鎖や事業撤退を検討する動きが拡大。中国政府の規制強化に加え、コロナ禍によるマクロ経済の停滞による影響も外国企業の“中国離れ”の後押しになった。

「コロナ禍による経済の停滞と規制強化によって中国では外資系企業の事業展開が厳しい状況になっている。そうした中、日本企業が工場売却を検討する動きも見えてきた」(胡)

簡単に工場を売却できない中国ならではの規制とは?

工場を開設するよりも撤退・売却するほうが難しい?(画像はイメージ)

日本企業は保有する工場を簡単に売却することができないのだろうか?それは事業用不動産の売却に関する中国ならではの“厳しすぎる”規制が存在するため

では、なぜ日本企業は保有する工場を簡単に売却することができないのだろうか?それは事業用不動産の売却に関する中国ならではの“厳しすぎる”規制が存在するためだ。

胡は「中国では国内すべての土地は所有権が認められず、『土地使用権』と供与された上で工場などの建屋のみ所有することが可能。土地使用権は一般的には50年の期限があり、更新などに政府審査が求められる。売買には中国政府などの承認が必要となるため、民間企業同士の自由な売買には制限がかかる」と指摘する。

また、日本とは異なり、工場用地などの用途設定は中国の各自治体が行い、土地使用者による用途変更が認められる事例はほぼ皆無である半面、監督行政による一方的な用途変更が通達される事例が散見され、これも外国企業にとっては潜在的なリスクとなっている。

中国で工場を売却する3つの買主候補

中国において工場の売却を検討する際に、買主候補となるのは①工場使用者、②政府・国営企業、③投資家・開発業者(中国国内企業、外国企業)が考えられるが、現況下で主要買主となるのは②政府・国営企業となり「工場使用者や投資家・開発事業者は極めて少ない」(胡)という。

また、保有工場を売却するためには最低限下記の4つの必要書類を揃えなくてはならないという。中国では不動産売買および用途変更については政府(主に地方政府)が決定権を有するため、事前の許可・承認が必須となる。これは北京や上海、広州といった主要都市周辺マーケットでは顕著だ。

1. 土地使用権証明書(Land Ownership Certificate)

2. 不動産所有権証明書(Property Ownership Certificate)

3. 国有土地転貸・売買認定書(Land Transfer Agreement)

4. 投資協定書面(Investment Agreement)

「さらに、政府への申請に始まる売買全体のプロセスは物件規模や価格を問わず、少なくとも12カ月超かかるとされ、さらに優良な外国企業の撤退を防ぐために政府の売却認定がさらに難航する可能性があることも注意したい」(胡)

リスク対策が進む欧米企業、遅れる日本企業

グローバル企業のCRE戦略に詳しいJLL日本 インテグレーテッド ポートフォリオ サービス事業部長 高橋 貴裕は「欧米のグローバル企業はこうしたカントリーリスクに対して10年以上前からセールアンドリースバックによる所有から賃借に切り替えて工場運営を行うようになっている。日本企業はコロナ後になってようやくリスクを実感するようになり、売却の検討を開始したものの苦戦している」と指摘する。

工場売却の“方程式”は存在しない。中国の不動産市場に精通するJLLへ個別相談を

日本企業は工場売却などのリスク対策を真剣に検討する時期に直面している(画像はイメージ)

保有する工場の立地、土地使用権の残存年数、投資協定書の内容など、詳細に分析しないと売却戦略は策定できない

前述した4つの書類に不備がある他、土地を運営管理するのが地方行政によって売却時の規制や要件が大きく異なることも見逃せない。つまり、保有する工場の立地、土地使用権の残存年数、投資協定書の内容など、詳細に分析しないと売却戦略は策定できないのだ。

また、内部設備・什器ごと売却するのか、それとも躯体だけを売却するのか、使用権のみ転換するのかなど、売却シナリオによって地方行政の対応も変わってくるという。そのため、胡は「工場の売却を検討するための“方程式”は存在しない。こうした課題に直面している方はJLLに個別の相談してもらいたい」と警鐘を鳴らす。

一方、高橋は「工場を売却する予定がなくとも、この機会に書類の管理状況などをすぐに確認することが中国ならではのリスクに対する第一歩になるのでは」と締めくくった。

※本稿で使用した各種データについて、より詳細な説明をご希望の方はこちらの問合せフォームからご連絡ください。

JLLは日本企業の海外不動産戦略を支援

JLLは世界80カ国で事業展開しており、中国に進出した日本企業に対してJLL日本ならびにJLL中国が連携し、様々な支援を行っています。工場の売却をはじめとする不動産に関するお悩み、情報収集の必要性などがございましたら下記の関連情報をご覧ください。

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