事例紹介

インド進出サポート事例 ~日系ヘルスケアメーカー

グローバルなサプライチェーン構築において地理的優位性を有し、著しい経済発展、豊富な労働人口、整備が進むインフラ、そして手厚いインセンティブを背景にインド進出を目指す日系メーカー。JLL日本はインド進出是非や候補地の意思決定に必要となるマーケット調査や基本計画業務を受託し不動産戦略の最適解を導き出すことに成功した。

場所

インド

スポットライト

日系企業海外進出・展開

不動産タイプ

インダストリアル

グローバルなサプライチェーンを構築する上で、世界の名だたる企業が注目しているのがインドだ。著しい経済発展、豊富な労働人口、整備が進むインフラ、そして手厚いインセンティブを背景に日系企業のインド進出も相次いでいる。そうした中、JLL日本 サプライチェーン&ロジスティクス コンサルティング事業部は、インド進出を検討する日系ヘルスケアメーカーから製造拠点の開設にむけて、物流・労務・仕入先・不動産を含めた包括的なマーケット調査及び候補地選定のプロジェクト業務を受託した。JLLインドと連携し、多角的な視点から調査・分析を実施。同社事業に最も適した不動産戦略を導き出し、インド進出を支援した。

JLLが提供したサービス内容

JLLはクライアントの要望を受けて、インド進出時に関する多種多様な調査を実施。調査結果を踏まえてインド進出の是非に留まらず、進出時の工場拠点・物流施設といった立地戦略、用地の取得・自社開発と賃貸借契約の比較による不動産戦略などを分析。また各州によって異なる労働問題、税制優遇策、産業集積地との関係性等、多角的な視点から進出エリアの調査を行った。

現地で工場や物流施設を活用する際、自社所有と賃貸借の2パターンがある。賃借してから問題なければ取得可能な初期リスク軽減型の開発スキームや、既存施設の中にはBTS(Build to Suit)のようにカスタマイズ可能なケースもあり、物件選定の選択肢が非常に幅広い。また官有地を賃借する場合は定借期間が州によって異なり、進出エリア、総投資額、従業員採用規模等によって利用可能な優遇税制も異なる。こうした産業用不動産を確保するための優遇税制スキームについても綿密な調査を行った。

調査・分析期間は約4カ月にのぼり、最終的にクライアントに提出した調査レポートが経営会議で承認され、インド進出が決定。JLLによる調査レポートをもとに、クライアント自ら製造工場等の建設プロジェクトを進めている。

世界80カ国で事業展開するJLLは世界中の不動産市場に精通している。グローバルネットワークを活かして、インド進出のみならず、世界のあらゆる市場への進出を検討しているクライアントに対して一気通貫したサービスを提供することが可能だ。

JLLがインドで提供しているサービスをみる(英語)
 

サプライチェーンの最適化を踏まえて、幅広い選択肢の中から進出地を絞り込む

日系企業のグローバル展開が加速したのは1980-1990年代に遡る。急激な円高や日米貿易摩擦の影響を受けて、海外での現地生産を拡大した。以降、少子高齢化に伴う内需縮小、新興国の急成長、激化する他国との国際競争等への対応のため、さらなるグローバル展開が求められている。そうした中、海外進出を希望する日系企業のニーズも多様化しており、こうした幅広いニーズに対応するためには、オペレーション戦略上、進出拠点におけるロケーション選定が最も重要になる。

一方、これまでインド進出を検討する日系企業は、現地で事業展開している日系ゼネコンや総合商社、JETRO等が企業誘致に注力している日系工業団地を進出先とするケースが多かった。日系工業団地は日系企業にとっては確かに事業活動がしやすい環境といえるが、需要拠点や産業集積地から遠いといった、事業活動を効率的に進める上で不利な立地条件となる場合もありえる。進出先の選択肢が少ないといった課題に直面するケースもあった。

そうした中、今回の日系ヘルスケアメーカーは日系工業団地にこだわらず、インド全域から進出地としての最適解を導き出すべく、世界の不動産情報に精通したJLLを通じて調査を行う意向があった。JLLはインド国内の主要12都市に拠点を構え、国内全域の不動産情報は言うに及ばず、海外企業のインド進出地や産業集積地をはじめ、物流企業の業務対象エリア等、多種多様な情報を把握している。

日系企業のインド進出を支援しているJLL日本 サプライチェーン&ロジスティック マネジメント事業部 事業部長 森元 庵平は「インドは日系企業以外にもグローバル企業が多数進出しており、特定分野に強みを発揮する産業集積地が全国各地に形成されている。また、将来的に取扱い規模が増えていくことも視野に入れサプライチェーンの最適化を踏まえると、幅広い選択肢の中から進出地を評価した上で絞り込んでいくことが望ましい」と指摘する。

日系企業がインド進出を目指す4つの理由

クライアントはインドの国内需要の急激な成長と、アフリカ・中近東における需要拡大を受けて、インド進出について検討を開始した。

日系・外資を問わずグローバル企業がインドへ進出する主な理由は地理的な優位性が挙げられる。インド政府産業通商省のもと、2009年に設立された投資促進機関のインベスト・インディアの調査によれば、世界の海上貿易の約60%が集中する太平洋・横浜港から大西洋・カサブランカを結ぶ海上ルートの中間地点に位置するとされ、インドにはグローバルな物流戦略の中心的役割を担うだけの地理的な優位性がある。そして、日本・インド包括的経済連携協定が2011年に締結され、両国間の輸出入品の大多数に対して関税が撤廃されたことで、日系企業のインド進出に拍車がかかった。加えて、次の4つの要因も企業のインド進出を後押ししている。

1. 経済発展

世界銀行の調査によると、2019年時点のインドのGDPは約2.9兆ドル。5年間で1兆ドルを積み増し、英国、フランスを抜いて世界5位へと驚異的な飛躍を遂げた。この経済発展を支えているのが「モノづくり」だ。生産額から中間消費額を差し引いたGVA(総付加価値)は2030年には約3倍の1.2兆ドルまで拡大すると予測されており、あわせて製造業も3倍に拡大すると予測される。

2. 労働力

世界銀行によると、世界2位の人口を有するインドは2019年時点で平均年齢29歳、約5億人という豊富な労働人口を有している。IT系やエンジニアリング系の大学が充実。英語人口も米国に次いで多く、教育水準の高い人材を確保しやすい。豊富な人口は経済成長を下支えし、世界経済フォーラム報告書では2030年には世界3番目の消費大国になると予測されるなど、日本がかつて経験した高度経済成長期に似た状況にある。

3. インフラ

交通インフラと共に、都市間物流インフラの整備が著しく進展している。首都デリーの他、貿易拠点となりえる海岸線の主要都市に日系企業を含めた外国企業が多数進出している。主要都市間を高速道路で結び、効率的に事業展開できる物流網を整備することで企業誘致を優位に進めている。そして、広大な国土へ大量の人口を運ぶために交通インフラがこれまで以上に拡充していくだろう。

4. 優遇税制(インセンティブ)

インベスト・インディアによると、企業誘致に注力するアジア新興国のMITI-V(インド、マレーシア、タイ、インドネシア、ベトナム)5カ国の法人税を比較した場合、インドの法人税は最も低い17%(法人税自体は15%、別途税を含む)だという。他4カ国の法人税率は20-25%でインドの優位性が際立つ。

一方、インドには中央政府が適用しているPLI(生産連動型優遇施策)をはじめ、法人税に関する優遇税制、保税製造施設向けの優遇税制等が用意される他、州政府からの土地取得や人材採用に連動した優遇税制等も存在している。ただ、進出地域や進出時期、産業によって適用される優遇施策が異なっているため、享受できる優遇施策を事前に把握しておくことで、より正しい経営判断を行えるようにすることが重要だ。

JLLインドがある欧米企業のインド進出を支援した事例では、PLI等の優遇税制スキームを事前に 組み立てることで、初期投資の半分以上を優遇税制で賄うことが可能になる事業計画を策定した例も存在する。

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