インバウンド新時代に向けて外資系ホテルの整備が進む福岡市
2022年10月にコロナ禍における水際対策が大幅に緩和され、訪日外国人客(インバウンド)が復活し、福岡市のホテルマーケットも活況を呈している。世界のVIPを受け入れるためのラグジュアリーな外資系ホテルの整備も進み、国際都市としての魅力が向上している。
福岡市ではインバウンドが復活
福岡市にクルーズ船が1年間に立寄る回数は下表のとおり。福岡市港湾局の資料によると、2024年(12月末まで)は215回の寄港が予定されており、概ね2019年の水準(229回)に迫る勢いだ。
クルーズ船(外国航路)の大きさは、最小規模で4万トン台(定員1,500人)、大規模になると17万トン(定員5,600人)に及ぶ。大型バスの乗車定員は約50人なので、5,000人の観光客を運ぶためには約100台が必要になる。中央ふ頭で下船した観光客は、順次大型バスに分乗して福岡市内や大宰府天満宮を観光することになるが、一度に100台の大型バスが停車できる駐車場はないので、100台の大型バスは福岡市内をぐるぐると回遊することになる。
2019年頃の街なかは大型バス観光によって毎日のように交通渋滞が発生していたが、現時点ではクルーズ船に起因する交通渋滞は確認できていない。最盛期の状態に至っていないと見受けられるが、いずれにせよ豪華クルーズ船の運航状況は5年ぶりに本格的な回復を示している。
福岡市のクルーズ船寄港回数
年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
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寄港回数 | 279回 | 229回 | 14回 | 0回 | 2回 | 75回 |
出所:福岡市の資料に基づきJLL作成
ホテルの賃料負担力と地価負担力
グレードが高いビジネスホテルになると、平日のADRが2万円、週末が5万円というケースもみられ、OCC(客室稼働率)も軒並み90%超
コロナが明けて行動制限が解除されて以降、福岡市のビジネスホテルは宿泊客が急増したため、経営状態が軒並みV字回復している。
ビジネスホテルの多くは繁閑に応じて宿泊単価を変動させるダイナミックプライシングを採用しており、平日でも1万-1万5,000円のADR(客室平均単価)が取れている。グレードが高いビジネスホテルになると、平日のADRが2万円、週末が5万円というケースもみられ、OCC(客室稼働率)も軒並み90%超となっている。ただし、人員不足からOCCよりもADR改善にフォーカスしRevPAR(1日当り販売可能客室数当り宿泊売上)を高める傾向が一般的である。
宿泊客の内訳をみるとインバウンド比率が50-70%という状況である。ADRが高騰しているため、国内ビジネスマンの予算では宿泊ができない。したがってインバウンドが宿泊需要の中心を担っている状況が見て取れる。
また、賃貸借契約で運営されるビジネスホテルの場合、賃料水準は博多駅周辺で坪2万円にまで達しており、コロナ前の水準を超えてきた。ホテルの賃料は延床面積当りの賃料であるため、レンタブル比は100%である。レンタブル比が70%程度のオフィスビルに当てはめれば坪28,500円(2万円÷70%)の賃料収益に相当する。博多駅周辺といえども坪28,500円の賃料が取れ、稼働率が100%のオフィスビルは見当たらないため、ホテルを開発した方が採算が取れる状態になっている。
現在、博多駅周辺でオフィスビルを開発する際の地価負担力は1種あたり(容積100%当り)300万円が限度といわれており、300万円超を提示できるのはホテル開発のみの状況である(下表参照)。
即ち、容積率が500%のエリアであれば、オフィスの場合は土地に対して投下資本できるのは坪1,500万円まで。一方、ホテルの場合は坪1,500万円以上の金額が提示可能で、地価負担力が高い。
1種300万円で土地を購入してオフィスビル開発を行った場合のNOI利回り
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外資系ホテルが増加
最大5つの外資系ホテルが福岡市内に新規オープンする可能性があり、福岡市の国際競争力を高める牽引力になることが期待されている
福岡市内ではヒルトンホテルやグランドハイアットホテルが早くから稼働しているが、2023年6月に念願だった「ザ・リッツ・カールトン福岡」が開業した。また、天神のイムズ跡地にはシアトル発の①「エースホテル」が2027年に開業を予定している。加えて中央区大手門の家庭裁判所跡地に②「インターコンチネンタルホテル」、天神1丁目の③「水鏡天満宮跡地の法定再開発事業」や④「パルコ建替え事業」、さらにJR九州の⑤「博多駅空中都市プロジェクト」でもラグジュアリーな外資系ホテルが出店する可能性が高い。
このため天神に3つ(①③④)、博多駅に1つ(⑤)、大手門に1つ(②)、最大5つの外資系ホテルが福岡市内に新規オープンする可能性があり、福岡市の国際競争力を高める牽引力になることが期待されている。
福岡市ではラグジュアリーなインターナショナルホテルが乏しいことが原因で2019年の20カ国・地域(G20)首脳会合の誘致に敗れたという苦い経験があり、髙島宗一郎市長は要人の宿泊先として大型クルーズ船を活用する案まで提案したものの実現しなかったため、「MICEを開催するにはファイブスターホテルが圧倒的に足りない」と語っている。
その意味で、大名小学校跡地に「ザ・リッツ・カールトン福岡」を誘致できたことは福岡市としては万感の思いだったに違いない。
画像提供:PIXTA
まとめ
現在の福岡市では外資系ラグジュアリーホテルの整備が進み、世界のVIPの宿泊需要を満たす器が整った。
空の玄関「福岡空港」についても高さ94mを誇る新管制塔が完成し、2本目の滑走路(2,500m)が2025年3月頃に完成を迎え、増加する航空需要に対応する。
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一方、陸の玄関「博多駅」では空中都市プロジェクトが進捗中である。次世代を担う新市街地「九州大学箱崎キャンパス跡地地区土地利用事業」は優先交渉権者が住友商事グループに決定した。
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さらに、福岡市の中心市街地にはランドマークとなる西日本鉄道の巨大ビル「ワンビル」が2024年12月に竣工する。残るは海の玄関「博多港」の再開発だけだろう。
福岡市は次の飛躍のための助走段階に入った。インバウンド新時代の新しい扉を開くのは自分たちだと言わんばかりに。
【執筆者:JLL日本 福岡支社 支社長 兼 キャピタルマーケット事業部 福岡代表 山崎 健二】