九州大学箱崎キャンパス跡地の再開発が福岡不動産市場に与える影響
天神ビッグバンや博多コネクティッドなど、再開発に沸く福岡市において最大級の開発ポテンシャルを有するのが九州大学箱崎キャンパス跡地だ。2024年4月、土地利用の入札が行われ、優先交渉権者が決定。スマートシティ計画を掲げ、福岡市をさらに魅力的な国際都市へと成長させる次なるエンジンとして期待されている。
九州大学箱崎キャンパス跡地利用の優先交渉権者が決定
福岡市では九州大学箱崎キャンパス跡地の入札が行われ、住友商事を代表企業とする8社(西日本鉄道、九州旅客鉄道、西部ガスなど)がコンソーシアムを組んだグループが優先交渉権を獲得した。
住友商事グループは、次世代通信基盤「IOWN」を活用した「スマートシティ」計画を掲げており、商業施設での顔認証決済やデマンド交通などを導入し、高速大容量の通信が可能な環境を実現するほか、居住面では2,000戸の分譲住宅などを整備する方針である。
九州大学のキャンパス自体は、2018年にすでに福岡市西区に移転しており(医学部を除く)、単一キャンパスとしては日本最大の272haを誇る大規模キャンパスが田園地帯に出現している。
一方、キャンパス移転後の跡地28.5ha(福岡市東区箱崎に所在、所有者は九州大学とUR都市再生機構、譲渡エリア25ha、借地エリア3.5ha)は冒頭で言及した通り、公募による売却が決定され、コロナ禍で2度ほど延長されたのち、2024年1月に入札が実施された。そして審査期間を経て、2024年4月に落札金額約372億円で優先交渉権者が決定したのである。
福岡経済界が注目する一大プロジェクト
福岡経済界を賑わした“世紀”の大規模入札について一旦は区切りがついた。21世紀の福岡市を担うまちづくりが行われることに期待したい
当初、九州大学箱崎キャンパスの入札については、福岡経済界を牽引する「七社会(九州電力、西日本鉄道、九州旅客鉄道、西部ガス、九電工、福岡銀行、西日本シティ銀行)」が一丸となって落札を目指していたが、アリーナを核としたまちづくりを標榜する九州電力グループと、スマートシティ計画を掲げる住友商事(西日本鉄道、九州旅客鉄道、西部ガスなど)グループとに別れることになった。
そして、売主側は2024年5月16日、九大箱崎キャンパス跡地(福岡市東区)の再開発事業について、4月に優先交渉権者を選定した審査の評価結果を公表した。
公表された審査結果を見ると、IT産業の研究拠点やデマンド交通などを取り入れた住友商事グループが1,000点満点中900.3点で最高評価を得た。今後1年半かけて九州大学などと住友商事グループ、さらに福岡市が協議して都市計画の変更などを行うことになる。
福岡経済界を賑わした“世紀”の大規模入札について一旦は区切りがついた。21世紀の福岡市を担うまちづくりが行われることに期待したい。
福岡市の魅力向上のため再開発に求められる機能とは?
ほぼ更地となった九州大学箱崎キャンパス跡地 画像提供:PIXTA
グローバルに見て、住みやすい都市として評価されるためには、①文化的多様性、②美食とカフェ、③アートや音楽、④治安の良さ、⑤都市と自然の融合、⑥教育環境、⑦公共交通機関の充実が必須条件と考えている。
これらを前提に、箱崎キャンパス跡地の再開発に期待したいのは、外国人向けのインターナショナルスクール(ボーディングスクール)、エキスパッド向けの高級賃貸マンション、英語対応可能な病院などである。
さらに、福岡市は芸術的な魅力に乏しいので、アートや音楽に視点をあわせた取り組みが必須だろう。具体的にはフェスティバルやパブリックアート、美術館、パフォーマンスアート、シンフォニーや観劇などである。
再開発によってベルリンやバンクーバーのように音楽やアート愛好家にとって魅力的な場所であり、訪れる価値のある都市を目指してほしい。
東区が福岡市のさらなる発展に向けた次のエンジンに
投資対象エリアとしても二の足を踏む投資家が多かったイメージがあったが、九州大学箱崎キャンパス跡地の入札を契機に俄然注目を浴びている
再開発に伴いJR鹿児島本線千早駅-箱崎駅間に新駅設置を計画(画像は箱崎駅) 画像提供:PIXTA
最後に、九州大学箱崎キャンパス跡地が位置する福岡市東区は“九州の大動脈”であるJR鹿児島本線はあるものの、地下鉄空港線(都心の天神駅や新幹線を持つ博多駅、空の玄関福岡空港駅を擁する)の沿線から離れている。転勤族が転入しにくく、地価やマンション価格の上昇率も中央区や早良区には及ばなかったという経緯がある。
そのため、投資対象エリアとしても二の足を踏む投資家が多かったイメージがあったが、ここにきて九州大学箱崎キャンパス跡地の入札を契機に俄然注目を浴びている。
福岡市のさらなる発展のために、域外から東区への投資が活発に行われることを期待したい。福岡市最大の開発ポテンシャルをもつ東区が、福岡市のさらなる発展に向けた次のエンジンになる日は近い。
【執筆者:JLL日本 福岡支社 支社長 兼 キャピタルマーケット事業部 福岡代表 山崎 健二】