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オンラインブームで活況呈すデータセンター開発

アジア地域でネット利用が拡大する中、データセンター不足が顕在化。投資家やデベロッパー各社が先を競ってデータセンター開発に動いている。

2022年 02月 08日

リモートワークとネット通販の普及を追い風に、データ利用が拡大しているのを受け、アジア太平洋地域でデータセンター開発が活況を呈している。

例えばインド。JLLの調査によれば、2021年上半期にデータセンター容量が92%増を記録している。2023年には、インドのデータセンター向け総電力容量が499メガワットから1,007メガワットに倍増する見通しだ。

地域内で最も急成長を遂げているオーストラリアのデータセンター市場の場合、英コンサルティング会社のデータセンタープライシングによれば、開発中のデータセンター総面積が今後3年で41万7,000㎡とほぼ倍増する見込みで、ちなみに、欧州全体では85万㎡だ。

このデータセンター需要の高まりを招いた一因として、コロナ禍でネット通販やリモートワーク、クラウドコンピューティングの普及に拍車がかかったことが挙げられる。いずれもデータセンターを介した大量のデータ伝送を伴うからだ。だが、こうした需要増に対応できるだけの十分な数のデータセンターがすべての市場を満たしているわけではない。

JLLアジア太平洋地域 チーフ・リサーチ・オフィサー ロディ・アランは「データセンターの需給不均衡が続く中、投資家や運営事業者にとってはデータセンターを開発するチャンスが到来している。特に同地域市場は供給が十分ではなく、不足状態にある。これからデータセンター投資は主流になっていくだろう」と予想する。

むろん、データセンター開発の動きはすでに見られており、特に新興国では顕著だ。フィリピンでは、データセンター運営会社のデジタルエッジが先般、地元不動産会社と手を組み、1億米ドルの合弁事業を設立、マニラに10メガワットのデータセンターを建設し、テクノロジー業界で増加するサーバーホスティング需要に対応する。

独立系データセンター運営会社のマントラデータセンターズは、インド国内でデジタル化が加速しているムンバイ、チェンナイ、ベンガルール、ハイデラバード、コルカタなどでデータセンターを開発するため、10億米ドルの投資を表明した。2021年初め、不動産デベロッパーのキャピタルランドも中国・上海にあるハイパースケールのデータセンターを36億6000万人民元(5億6000万米ドル)で買収し、初のデータセンター投資を果たした。

「中国、インド、インドネシアは人口で世界の上位4カ国に含まれる。そのとてつもない規模からいえば、この3カ国が地域の『成長物語』の最前線に立つことになるだろう」(アラン)

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データセンター開発の追い風となる要因

各国政府も、今後必要となる施設の規模を踏まえ、データセンターセクターにおける拡張事業の支援に乗り出している。

インドでは、政府が企業のデータセンター建設に1200億インドルピー(15億8000万米ドル)の助成金を拠出する制度を導入している。また、政府が設備投資の最大4%を助成するほか、不動産の補助や許認可手続きの迅速化など企業誘致策も計画している。

同様に、インドネシア政府もバタム島のノングサ・デジタルパークで150-400メガワットのデータセンター開発を目指している。同施設はインドネシアのデジタル化計画を支える経済特区に指定されている。

アランによれば、民間企業のパートナーシップも拡張事業の追い風になっているという。例えば、ロゴス(LOGOS)とピュアデータセンターズ(Pure Data Centres)は、アジア太平洋地域の新規データセンターの設計・建設・運用に共同で取り組んでいる。一方、2021年6月にはシンガポールの政府系ファンドであるGIC(シンガポール政府投資公社)は、グローバルなデータセンター運営会社であるエクイニクスと合弁事業を設立し、地域内にとどまらず世界規模でデータセンターポートフォリオの拡充に乗り出した。このパートナーシップを通じて、日本でのデータセンター6カ所を含め、エクイニクスによるグローバルなデータセンター投資に39億米ドルが新たに投じられる。

各国の規制がデータセンター進展の足かせに

急拡大するデジタル経済の支援につながるデータセンターのニーズは明らかであるものの、電力負荷に伴う環境対策がデータセンターに求められている他、データローカライゼーション法などの規制を始めとする個々の市場に存在する特有の課題進展の足かせになりかねない。

例えば、中国の場合、新たに制定されたデータセキュリティ法(中華人民共和国数据安全法)は、企業によるデータの管理・保存方法を定めており、データの越境移転には規制当局の承認が必要になる。中国でデータセンターを運用する場合、中国政府によるデータ監視が強化される。法律・規制上の要件に準拠するには業務の煩雑化は免れない。テクノロジー大手の米ヤフーやリンクトインが中国撤退を余儀なくされたのもこうした事情からだ。

投資家がデータセンター市場を後押し

だからといって、アジア太平洋地域のデータセンターブームに陰りは見られない。ブームの背景には、不動産ポートフォリオの分散化を進める投資家の幅広い後押しがあるからだ。

JLLのレポート「Asia Pacific Outlook 2022(英語版のみ)」によれば、アジア太平洋地域では2022年も投資家やテナントの間でデータセンター需要の拡大が続き、大きな伸び代のあるアセットクラスとして投資機会が増加するものと見られる。また、JLL日本 リサーチ事業部が発表したレポート「注目を浴びる日本のデータ市場」によれば、2021年第1-3四半期末までの日本におけるデータセンター投資総額は517億円にのぼり、第4四半期分を含めていないにもかかわらず、過去10年におけるデータセンター平均年間投資総額の約1.8倍に達しており、投資拡大の流れは今後も継続するだろう。

一方、企業各社がリモートワークやハイブリッドワーク(リモートワークとオフィス勤務の組み合わせ)に舵を切る中、データ消費量は今後も増加が見込まれる。JLL の調査では、オンライン会議が今後のワークプレイスで重要な機能になることから、2022年にオーディオ・ビジュアル関連のオフィス機器に重点的に投資する企業は最大91%に達する見通しだ。

スマートフォンやネット通販の普及、ソーシャルメディア、オンラインゲーム、ストリーミング、ビッグデータのアプリケーションなどもデータ消費を拡大させるだけでなく、こうしたサービスに用いられるデータの構成・処理・保存・配信を担うデータセンターへの負荷を高める要因となる。

「今後、データ需要は増加の一途をたどるだろう。アジア太平洋地域だけでなく、世界的にデジタル化の動きを止めないためには、データセンターの拡充が喫緊の課題であることは明白だ」(アラン)

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