オフィスDXとは?導入メリットと具体的な施策
テクノロジーを活用し、オフィス環境をより快適かつ効率的に運営するDX(デジタルトランスフォーメーション)が求められている。「オフィスDX」と呼ばれるこのトレンドの本質について考察した。
オフィスDXとは?
経済産業省の定義によると、DXとは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに製品やサービス、ビジネスモデルを変革すると共に、業務そのものや組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」としている。オフィスDXはこの考え方に基づき「データとデジタル技術を活用して、オフィスにおける環境改善、業務効率化などを推進すること」といえるだろう。事業活動の中核的な存在であるオフィスは「企業が稼ぐ場」でもあり、オフィスDXによって様々な効果が得られる。DX化のアプローチは以下の3点が考えらえる
- オフィス環境のDX
- オフィス業務のDX
- オフィス外のDX
1. オフィス環境のDX
「オフィス環境のDX」とはオフィスにセンサーやカメラなどのデジタルデバイスを設置し、オフィス機能のデジタル化によりDXを推進することだ。具体的な例を挙げれば、以下のような施策が考えられる。
- 受付の無人化
- 入退管理システムのクラウド化
- 社内食堂や自販機などのキャッシュレス化
- 空調や照明の自動制御
- IoTによる人の動き・空気環境の分析
- AIカメラによる社内コミュニケーションの分析
- 会議室予約システムの導入
オフィス環境のDXはオフィスの使い心地やオフィス環境の快適性の向上を視野に、AIカメラなどでデータを収集・分析、改善点を導き出すことが主な目的といえるだろう。データが蓄積されればされるほどオフィスは従業員たちに最適な環境へとアップデートするための施策立案などに役立ち、働きやすいオフィスへと改善しやすくなる。その結果、生産性の向上や従業員のモチベーションアップなどの効果が得られる。
JLLでは、データをもとにオフィススペースの効率化やコロナ禍での換気状況やソーシャルディスタンスを確保するためにIoTセンサーで座席の利用率や空気環境の変化をデータ収集・分析するソリューション「IoT アナリティクス」を提供している他、建物やオフィススペース、設備機器、訪問者の管理、会議室やデスクの予約など、スマートフォンで管理・操作できる「IWMS」と呼ばれるアプリケーションも提供しており、オフィス環境のDX化を支援している。
2. オフィス業務のDX
「オフィス業務のDX」は「バックオフィスのDX」とも呼ばれる。ITツールを導入し、オフィス内で行う業務の自動化や効率化を実現し、生産性向上を目的としている。具体的には以下のような施策が挙げられる。
- グループウェア導入によるコミュニケーション活性化
- 備品管理システムの導入
- 顧客管理システムの導入
- ペーパーレス化
- RPAによる定型業務の自動化
- 製造現場のデジタル化
- 業務のデータ分析と可視化
これらの施策の中でも、肝心なのは蓄積されたデータをいかに有効活用するかに他ならない。業務推進時の課題点や非効率な点を洗い出し、改善するためには業務に関するさまざまなデータを収集・分析し、課題の見える化を進める必要がある。
3. オフィス外のDX
「オフィス外のDX」とは、オフィス内外におけるコミュニケーションをITツールによって円滑化することが主目的となる。以下のような施策が考えられる。
- ビデオ会議システムの導入
- 仮想オフィス・ツールの導入
- グループウェア導入による社内外のコミュニケーション活性化
- AIやOCRによる請求書自動処理システム
- AIによる電話対応業務の自動化
- 社外への電話転送システム
コロナ禍を受けてリモートワークの爆発的な普及に伴い「オフィス外のDX」も大きく需要が拡大した。今や在宅勤務やサテライトオフィスなど、オフィス外で業務を行うハイブリッドワークが定着するようになり、これらの施策をすでに実施済みの企業も少なくない。しかし、リモートワークが普及したからといってオフィス内のDX化も引き続き重要だ。オフィスへ回帰する企業も増加傾向にあり、仮想オフィス・ツールなど、オフィス内外のコミュニケーションを円滑化するDX施策はこれまで以上に求められるだろう。
オフィスDXのメリット
蓄積したデータを用いて現状の改革や中長期的視野でのビジネスモデルの変革を行い、市場環境の変化に耐えうる企業に変革することこそオフィスDXの本来の目的
オフィスDXにはさまざまなメリットが存在するが、その中でも大きなメリットは以下の3点が考えらえる。
1. 生産性の向上
オフィスDXのメリットの1つは生産性の向上である。単純にRPAを導入するなど、業務を自動化するだけでも多大なメリットが得られる他、人の手が必要な業務でもITツールを活用することで更なる効率化は可能だ。オフィスDXのメリットは多岐にわたるが、人手不足に悩む日本企業において生産性向上は、最もわかりやすいメリットのひとつといえるだろう。
2. コスト削減
コスト削減も大きなメリットといえる。業務効率化と生産性向上によって人件費を抑制するというだけではない。例えば、ペーパーレス化を行えば、そのぶん紙の書類を保管するスペースをなくすことができる他、オフィス内の各設備の利用頻度を可視化できれば使われていない設備を削減するなど、オフィス床を最適化することができ、賃料コスト削減にも寄与する。
3. データドリブンへの転換
DXの最終的な目的はデータドリブンな経営への転換にある。データドリブンとはデータを元に客観的な経営判断をしていく手法を指す。DXを推進するとITツールを使ったデータの蓄積が可能になる。蓄積したデータを用いて現状の改革や中長期的視野でのビジネスモデルの変革を行い、市場環境の変化に耐えうる企業に変革することこそオフィスDXの本来の目的といえる。
オフィスDXの注意点
オフィスDXは多大なメリットを享受できる半面、その効果を最大限引き出すためには様々な工夫が必要だ。中でも以下2つのポイントは注意が必要だ。
DX自体を目的にしてはいけない
DXはあくまでも手段であり、手段が目的化してしまうケースも少なくない。目的を見失わないためには、企業理念を従業員全体にしっかりと浸透させ、現場との意識統一を行うことが重要だ。
ツールやデバイスを導入するだけでは意味がない
DXの最終的な目的はデータドリブン経営への転換である。ITツールやデバイスを導入すると短期的に効率性やコスト削減効果が得られるが、それはオフィスDXの第一段階にすぎない。長期的な目標を見失わないようにすべきだろう。