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ハイブリッドワークに寄与する仮想オフィス・ツールとは?

JLLのグローバル調査によると、リモートワークによる従業員の心理的負担が増しているという。コミュニケーション低下に伴うメンタルヘルスの悪化が危惧される中、仮想オフィス・ツールはハイブリッドワークを実現する上でも効果がありそうだ。

2022年 03月 08日
リモートワークでコミュニケーション低下が課題に

コロナ禍を背景に、リモートワークを本格的に採用する企業が拡大傾向にある。業務内容に合わせてオフィスや自宅、サテライトオフィスなど、働く環境を選択できる。従業員のコロナ感染対策を前提にしながらもワークライフバランスにも寄与する取り組みだ。

一方、リモートワークで懸念されるのがコミュニケーション不足やメンタルヘルスの悪化、そして、それらに伴う生産性の低下だ。JLLが日本を含むグローバルで活躍するオフィスワーカー3,000人超を対象に実施したオフィスワーカーに対する調査において、在宅勤務時の心理状態について質問したところ「多大な心理的負担と個人的な責任感を背負っていると感じている」との回答は実に49%にのぼった。

オフィスで働く場合、日常的に上司や同僚と接する機会があり、業務で困り事があっても気軽に相談できる。しかし、リモートワークは1人で業務を進めることになり、何か問題が発生しても気軽に相談できる環境にはない。また、コミュニケーションが阻害されることで、業務の進捗が遅れる他、新たなイノベーションが生まれなくなる等、生産性低下や事業成長の鈍化が危惧される。

コロナ禍で拡大傾向にあるリモートワーク最大の欠点ともいうべき「コミュニケーション不足」をいかに解消するか。多くの企業が悩みを抱える中、注目を集めているのが仮想オフィス・ツールといえるだろう。

コロナ以降、問合せが急増した仮想オフィス・ツール「RISA」

「新型コロナ感染拡大以降、問合せや取材依頼が殺到している」。こう話すのは、仮想オフィス・ツール「RISA」を開発した株式会社OPSION 代表取締役 深野 崇氏だ。

「RISA」はオンライン上に開設した仮想オフィスで、利用者はアバター(自分が操作する分身キャラクター)を介してコミュニケーションが取れるオンラインツールだ。矢印キーで自身のアバターを操作し、他のアバターに直接話しかけることができる。アバターにはダンスや拍手といったモーションが十数種類搭載されており、ゲーム感覚で操作する。他のアバターが近づいてくると足音がBGMのように聞こえてくるなど、オフィスにいるような感覚を味わえる。深野氏によると「やらされるのではなく、楽しんで仕事ができるようにゲーム性を重視して開発した」という。

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元々「RISA」を開発したのはコロナ以前の2019年に遡る。東京五輪開催時の交通機関の混雑予想を受けて、政府が企業に対して五輪期間中のテレワークを要請したことが背景にある。深野氏は「ロンドン五輪の開催期間中にテレワークが実施され、その後普及率が向上、日本でも同様のことが起こると考えた。リモートワークでも楽しく働くためには何が必要かを考えた結果、仮想オフィスという発想に至った」と説明する。

とはいえ、コロナ以前は「RISA」の需要は思いのほか伸びず、一時はサービスを休止することになる。しかし、コロナ禍で状況が一変。オフィス出社が制限される中、社員同士のコミュニケーション低下に危機感を覚えた企業からの問い合わせが殺到した。2021年12月時点の利用登録者数は1,000名、導入企業は60社ほどに拡大。大手企業の中でも製造業や食品メーカーが主なユーザーだ。深野氏によると「通信手段が電話やメール主体のレガシー企業が部署単位で導入するケースが多い」という。

ユーザーからは「出社時と変わらない気軽な相談・雑談が生まれるようになった」、「場所を問わない働き方を実現できた」、「共通の居場所が生まれ、コミュニケーションの機会が増加した」などの感想が寄せられる他、チャットベースのコミュニケーションよりも声掛けしてすぐに相談できるという好意的な意見が多い。

従前の3D版の「PC負荷が重い」という課題を解消し、より利便性を高めるため、2022年1月より2D版のサービス提供を開始した。今後も新たな機能を追加していく予定だという。

「メタバース」ブームで注目集まる仮想オフィス・ツール

仮想オフィス・ツールとは「バーチャルオフィス・ツール」、「クラウトオフィス・ツール」とも呼ばれ、オンライン上に開設した仮想空間(仮想オフィス)上でコミュニケーションを取り、情報伝達や情報共有、意思疎通を円滑にするデジタルツールを指す。「メタバース」というキーワードと共に仮想オフィス・ツールにも注目が集まり、様々な製品が登場している。例えば、音声主体のコミュニケーション機能に秀でた一次元型ツールをはじめ、オフィスを模した平面図とアイコン等で構成された二次元型ツール、仮想空間でアバターを動かす三次元型ツールなど、多種多様だ。オンラインを活用したコミュニケーションツールとしては「ビデオ会議システム」や「チャット」が知られているが、それらには文字入力の煩わしさ、ビデオ会議の仰々しさといった心理的ハードルがあるが、仮想オフィス・ツールは「対象者に声掛けできる状況が視認でき、気軽に会話できる」ことに秀でている点が特長といえるだろう。また、チャット・ビデオ会議機能や資料共有機能を備えていることも多い。

オフィスと仮想オフィス双方でコミュニケーションする時代へ

企業のワークプレイス戦略に詳しいJLL日本 オフィス・リーシング・アドバイザリー事業部 柴田 才は「オフィスワークとリモートワークを組み合わせたハイブリッドワークを実践する上でオフィスでのコミュニケーション活性化だけでなく、リモートワーク時でも気軽にコミュニケーションが取れる施策は不可欠になっている」との見解を示す。また、深野氏は「ハイブリッドワークが定着する中、社内コミュニケーションはこれまで以上に重要になる。オフィスと仮想オフィス・ツールの双方を活用することが今後の働き方の定番になるのでは」と予想する。

ビデオ会議システムやビジネスチャット等、オンライン上のコミュニケーションツールが続々と登場する中、ゲーム性を感じさせ『楽しみながら仕事ができる』ことを標榜する仮想オフィス・ツールは、介護や育児との両立を従業員に促すことができる。健康やウェルネス、心理的安心感を守る意味でもアフターコロナのワークプレイス戦略に不可欠となりそうだ。

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