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サステナビリティとウェルビーイングを兼備した木質化オフィス

企業のサステナビリティ戦略がオフィス環境にも多大な影響を及ぼしている。グリーンビルディング認証の取得などがその代表的な施策となるが、オフィスの木質化という独自手法でサステナビリティを体現する企業に注目した。

2023年 04月 20日
サステナビリティ戦略が企業の評価対象に

JLLが日本を含むアジア太平洋地域5カ国のオフィスワーカー1,200名を対象にした調査によると、回答者の7割が「今日の企業にとってサステナビリティの取り組みが必須であり、持続可能なビジネスを追求すべき」と回答した他、21-30歳の若手の7割が「サステナビリティに積極的に取り組む企業で働きたい」と回答するなど、従業員が企業にサステナビリティ施策を求める傾向が顕著になっている。

そうしたサステナビリティ重視のトレンドはオフィスのあり方にも影響を与えている。企業のオフィス戦略に詳しいJLL日本 オフィス リーシング アドバイザリー事業部 ディレクター 柴田 才は「オフィスのサステナブル化を積極的に推進する企業がグローバル企業を中心に増加傾向にある。従業員に健康的な執務環境を提供するだけでなく、環境に配慮した経営方針を行っていると対外的に発信することでESG投資に対応するためだ」と指摘する。

グリーンビルディング認証の取得再生可能エネルギーの導入などがオフィスにおける代表的なサステナビリティ施策となるが、そうした中「木質化」という手法でサステナビリティとウェルビーイングを兼備したオフィスを構築したのが株式会社エヌ・シー・エヌ(以下、NCN)だ。

品川から赤坂見附へ、50坪の増床移転

1996年の設立以来、耐震性の高い独自の木構造建築システム「SE構法」を開発、全国の工務店を通じて木造建築の耐震化促進事業を展開してきたNCNは2022年12月、東京・品川から赤坂見附に位置する「赤坂エイトワンビル」7階へ本社オフィスを移転した。賃借面積は285坪、旧オフィスから約50坪の増床となる。移転理由は業容の拡大に伴う従業員数の増加によって旧オフィスが手狭になったためだ。今後の事業拡大を見据えたワンフロア借りの拡張移転となる。

NCN 取締役 管理部門長 藤 幸平氏によると「元々、赤坂見附から品川へオフィスを移転しており、再び赤坂見附へ戻ってきたいとの想いがあった」とする。空室情報が出てくると幾度となく内覧に訪れており、賃料・床面積が希望条件に合致したことで移転を決めたという。
 

木質化により二酸化炭素を固定化

木材炭素貯蔵量は7トンになり、これはヒト23人分の年間CO2排出量に相当。オフィス内装に国産材を用いることで二酸化炭素を固定化し、社会環境に貢献できる

新本社オフィスの最大の特長は「木質化」による環境配慮と居住快適性を両立した点にある。移転プロジェクトを担当したNCN 商品開発室 室長 門馬 由佳氏は「木材を扱っている当社の事業内容を社内外に周知するべく、オフィスの木質化を進めることになった。とはいえ、内装材として木材を使用する場合は法的な制限が多く、様々な検討と重ねた結果、家具に木材を用いることにした」という。

例えば、執務室や会議室に設置したデスク天板やエントランスの建具などに「CLT(Cross Laminated Timber)※1」と呼ばれる木質系素材を採用した他、執務空間の意匠材として同社が開発・販売する木質空間創造ツール「ヤグラ」を導入している。ウッドフレームを内装材とし、意匠性の高さと設置・撤去が容易なことから大手小売店などにも導入されている。

新オフィスに導入したヤグラにはヒノキやスギなどの国産材を使用しており、その総量は11㎥。林野庁の「建築物に利用した木材に係る炭素貯蔵量の表示に関するガイドライン」の計算式で換算すると木材炭素貯蔵量は7トンになり、これはヒト23人分の年間CO2排出量に相当するという。門馬氏は「オフィス内装に国産材を用いることで二酸化炭素を固定化し、社会環境に貢献できる」と力を込める。

また、木質化したデスク天板を使用した従業員たちから「思いのほか暖かく柔らかい」との声が多く寄せられており、就労時のストレス緩和効果も見込まれる。

執務スペースにヤグラを設置しオフィスの木質化を推進

木材の使用量は11㎥に及ぶ

新オフィスの設計・施工を担当したNCN 商品開発室 島袋 亜美氏によると「会議室は旧オフィスの家具をそのまま使おうと思ったが、サイズが合わなかった。会議室の広さ、壁のライン、設備の位置が確定してから天板のサイズを調整し、デスクの足と合わせて発注した」という。

そもそも、自ら設計や施工を行うことになったのは旧オフィスのリニューアル工事に由来する。藤氏は「コロナ禍を受けて旧オフィスの大会議室を小型ブースに作り替え、デスクも手作りした。その経験から『旧オフィスの改修でうまくいったこと、課題として浮き彫りになったことを踏まえて設計や一部施工することで、よりよいオフィス空間になるのでは』と考えた」と説明する。

昨今、CLTは耐火性などが評価され、中高層の事業用建築物にも用いられることが増えているが、重量があるためCLTを家具に用いるケースは珍しいという。今回採用したCLT天板の厚さは最も薄いとされる36㎜だが、その重量は天板1枚で40㎏を超える。

打ち合わせブースは昼休みにはランチスペースとなり、従業員の憩いの場となる。また、植物を多く配置することで落ち着ける空間となることを目指した。
 

ウェルビーイングを意識したレイアウト

木質化した執務スペースの打ち合わせブース

オフィス移転を担当したNCN 藤 幸平氏(左)と門馬 由佳氏

ヤグラを導入することによって天井高に奥行きが感じられる他、「梁に植物を吊るすことでヒトの視線が変わり、空間全体が広く感じられるようになった

他方、新オフィスはフロアの中心部に柱があるため、壁や間仕切りは極力設けず、緩やかなゾーニングを意識したレイアウト。執務席は部署単位で島を構成する固定席としている。旧オフィスでは営業を対象に大型のワークデスクによるフリーアドレス制を一部導入していたが「最終的に同じ席に座るようになり、フリーアドレスよりも固定席が当社の働き方に合っている」(藤氏)との考えを踏襲している。

執務席は前述したCLTデスクを導入、各部署が集まる島を結ぶように共用スペースを配置した。「交流できるスペースがほしい」との従業員の要望に対応したものだ。門馬氏によると「立ったまま会話ができるので、気軽に立ち寄れコミュニケーションしやすくなった」と、従業員からの評判も上々だ。

また、新オフィスの天井高は2,400㎜と、昨今竣工する築浅オフィスビルに比べて若干低い。旧オフィスと比較しても400㎜ほど低く「内覧時に天井が低くて室内が暗い」(藤氏)との印象があった。しかし、ヤグラを導入することによって天井高に奥行きが感じられる他、「梁に植物を吊るすことでヒトの視線が変わり、空間全体が広く感じられるようになった」(門馬氏)という。加えて、商品開発室が選定した床材やデスク天板は白を基調としており、広い開口部からの採光が反射し、室内全体を明るくしている。窓からは緑が望め、視覚的にも心地よい快適さを醸成している。

多くのステークホルダーが訪れるライブオフィスとして機能

藤氏が「交通利便性の高い赤坂見附にオフィスを戻した理由の1つに、工務店や設計事務所など、弊社事業のステークホルダーの皆様に実際にオフィスを見てもらいたいという想いがあった」と説明する通り、オフィス開業以降、すでに多くのステークホルダーが見学に訪れており、ライブオフィスとしての役割も担っている。

「木質化」という新たなアプローチで注目を集めるNCNの新オフィスは多様な役割を担う経営戦略の根幹を担う“場”として機能しているようだ。

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※1:ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。厚みのある大きな木板を形成し、建築物の構造材や土木用材などにも使用される。木材特有の断念積生と壁面構造の特性を生かし、戸建て住宅の他、共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室をはじめ、近年ではオフィスなどの中層建築物への導入も進められている。

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