2021年はコロナ後のオフィス戦略を実現する絶好のタイミング
新型コロナ感染拡大を機に、東京・大阪のオフィス賃貸マーケットに変化が表れてきた。これまでは優良なオフィスビルに空室がなく「移転したくてもできない」状態が続いていたが、2020年6月以降、空室面積・件数ともに増加。オフィスを見直す企業にとっては選択肢が広がるチャンスが訪れている。
理想とするオフィスを見つけやすい状況になりつつある(画像はイメージ)
オフィス戦略のメガトレンドが変化
コロナ以前のオフィスは執務機能を1カ所に集約させることで、「業務効率の向上」、「コミュニケーションの活性化」「イノベーション創発」の場として機能していた。JLL日本が調査した移転事例ではオフィス移転の理由は「業務効率化」「拡張」「集約・統合」が上位を占め、「床面積の拡大」こそオフィス戦略の主流であった。
2018年1月-2020年3月においてJLLが独自に収集した移転事例を集計(出所:JLL)
リモートワーク導入で生じたオフィスの余剰スペース
一方、新型コロナ感染拡大を機に、多くの企業は「新しいオフィス戦略」の再検討を始めた。感染防止のために半ば「強制的」に実施したリモートワークが思いのほか機能し、通常業務を行う上では特段支障がないことに企業が気付いたためだ。現在も多くの企業が在宅勤務を併用して出社制限を行っており、オフィススペースが「余っている」ケースも少なくない。この余剰スペースをどのようにするかが喫緊の課題となっているのだ。
JLL日本が2020年5月、テナント企業を中心に実施したアンケート調査では「今後、オフィス環境は変わっていくと思う?」の問いに対して「変わる&変えていきたい」との回答が実82.9%にのぼったことからも、企業は「働き方」と「オフィスのあり方」が大きく変化していくと実感している。
また、同アンケート調査の「今後のオフィスの役割」についての質問に対して、コミュニケーションやイノベーション・コラボレーションを促進させるハブとしての役割が期待されていることが浮き彫りになった。
広いだけのオフィスの存在意義がゆらぎはじめた
コロナ後の「ニューノーマル(新常態)」ではオフィスの形は、コミュニケーション・イノベーションの起点となるコアオフィスに加えて、在宅勤務の定着、外部貸しのフレキシブルスペース(コワーキングスペースやサテライトオフィス)の活用が進み、コロナ対策として地方都市へのオフィス分散も考えられる。これらを組み合わせた、より柔軟に働けるオフィス戦略が主流になっていくと予想されている。単純に広いだけのオフィスの存在意義がゆらぎはじめている。
6月以降に空室が増加したオフィス市場
東京・大阪のオフィス賃貸マーケットのコロナ前・コロナ後を比較すると、コロナ後に「オフィススペースの調整」に乗り出している企業が多いことが窺える。JLL日本 マーケッツ事業部の独自調査では、東京・大阪のオフィス賃貸マーケットにおいて6月以降に床面積・件数ベース共に「空室」が増加し、成約面積・件数を上回っていることが判明した。
そして、2022年-2025年にかけて東京・大阪ともに大規模ビルの新規供給が増加する。東京では「大量供給」とされる2020年の250,000坪に迫る新規供給が2023年に予定され、大阪では2022-2027年の6年のうち「大量供給」の目安とされる年間30,000坪もの新規供給が4度も予定されている。既存ビルの二次空室を含めて、今後空室率が上昇することが考えられる。
東京オフィス賃貸マーケットにおける新規空室と成約(面積・件数)比較(出所:JLL)
大阪オフィス賃貸マーケットにおける新規空室と成約(面積・件数)比較(出所:JLL)
オフィス戦略の選択肢が拡大する
オフィス移転の選択肢が広がる今こそ、コロナ後を見据えたオフィス戦略を検討する絶好のタイミング(画像はイメージ)
コロナ以前は需給が逼迫し、「働き方改革」の一環でオフィス環境を整備することができない企業も少なくなかった。一方、コロナ禍を受けて軟化し始めたオフィス賃貸マーケットはオフィスを借りるテナント企業にとっては待ち焦がれた状況ともいえる。「移転先の選択肢が広がる」状況が訪れることを意味するからだ。
足元のオフィス賃貸マーケットでは長らく募集情報が出てこなかった優良オフィスビルでテナント募集がなされ「選択肢が増えている」機運が高まっている。ひとたび空室が発生しても館内増床で瞬く間に埋め戻されていた都心部のAグレードビルから50-100坪ほどの募集情報がマーケットに少しずつ出るようになっている。
長期間活況だったオフィスマーケットのダウントレンドを考慮し、オーナーサイドのテナント誘致に対する考え方も非常に柔軟になってきている。
一方、このタイミングを見逃さない企業も一部で存在する。コロナ禍でも業績好調なeコマース関連企業やIT企業の一部は移転先の選択肢が広がったこのタイミングで、より交通利便性が高く、ハイスペックなオフィスビルへ拡張移転するケースが出てきている。従前からの課題であったBCPの観点から大規模非常用発電設備を備えたAグレードビルへの移転を検討する企業も存在する。
オフィスを解約し、全面テレワークに切り替える企業も出始めているが、半面、上記のようにオフィスの価値を再認識する企業も少なくない。JLL日本 マーケッツ事業部 柴田 才は「そうした企業にとっては需給バランスが緩む現在の状況は、オフィス戦略再考の絶好のタイミングが訪れたといえるだろう」と指摘する。
若手人材はオフィス回帰を望む
JLLがアジア太平洋地域の企業で働く3,000名に対して実施したアンケート調査 では「在宅勤務を経験したもののオフィスへ戻りたい」と回答したのは61%に上り、特に35歳以下のミレニアル世代・Z世代ではその傾向が顕著に現れている。一部報道では、4月の入社以来、オフィスへの出社を制限され、早々に退職している新卒も少なくないと聞く。企業の未来を担う若手人材こそ「オフィス回帰」を求めており、人が集い、交流し、新たなアイディアを生み出すというオフィスの価値はコロナ後も変わらないだろう。選択肢が広がる今こそオフィスを見直す絶好のタイミングといえるのではないだろうか。