従業員のパフォーマンス向上にオフィスは必要不可欠
リモートワークによって孤独や断絶を感じる従業員が増加し、心理的な活力を失っている。そうした中、従業員が気軽にコミュニケーションを取れるオフィス環境の存在価値が再評価されている。
リモートワークで心身が疲弊する従業員
JLLが実施したグローバル調査(英語版)によると、コロナ禍を受けて従業員の36%が「仕事中にエネルギーが不足している」と感じており、回答者の約4分の1が「仕事や家庭生活に疲れ、ウェルビーイングを管理できていない」と感じていることがわかった。
在宅勤務を筆頭に、最寄りのサテライトオフィス、旅行先で働くワーケーションなど、多くの人々が勤務場所や時間を分散化しており、今やオフィスだけが働く場にあらず。一方、リモートワーク主体の働き方の利便性から抜け出せず生産性の低下を危惧する企業も存在する。企業は孤立や断絶を感じている可能性がある従業員をサポートするために、オフィス出社の意義を明確にし、オフィスに出社することにやりがいを感じさせる新しい方法を見出していく必要がありそうだ。
メンタルヘルス対策が喫緊の課題に
在宅勤務は多くの従業員が仕事と生活のバランスをとるために有用だったが、仕事と生活の境界線が合間になることで長時間労働に陥る従業員も現れた。そして間断なく続くオンライン会議、同僚と気軽にコミュニケーションが取れない環境下で心身の疲弊が問題視されるようになった。
コロナ禍において、仕事に関するマッキンゼー・アンド・カンパニーの調査レポートによると、多くの従業員が仕事と生活のバランスが損なわれることを恐れているという。メンタルヘルスを最優先課題とし、企業が従業員のウェルビーイングをサポートすることに対して期待が高まっている。JLL リサーチディレクター フロール・プラデーレは「人々の優先順位と仕事に対する認識が変化し、企業は従業員との関係性において新たな課題に直面している。企業は労働力を従前とは異なる方法で管理する必要があり、従業員のためのウェルネスプログラムが不可欠。働く活力がなければ、生産性が低下し、人材の維持にも影響を与える可能性がある」と指摘する。
一般的な対策としては、従業員がリモートワークで得た「柔軟な労働時間」をより持続的な制度にするとともに、ストレス、不安、うつ病など、視認しにくいメンタルヘルスの問題に対するサポートを強化する必要がある。
例えば、グローバル展開するコンサルティング会社のEYは、スタッフとその家族に無料のセラピーセッションを提供しており、日本法人のEY Japanは従業員のウェルビーイング向上に向けたサポート施策として睡眠に関するセミナーを実施した。
また、米国のヘルス・ウェルネスアプリ開発大手のCalmは、ジムのメンバーシップ、セラピー、栄養などに費やすための手当を従業員に提供している。プラデーレは「メンタルヘルスの問題に対処するための研修は、企業と従業員の信頼関係を構築することにも役立つ。 上司の役割は、セルフケアに必要な時間を確保できると従業員が安心感を得られる環境づくりに配慮することだ」との見解を示す。
従業員に活力を与えるオフィス設計
オフィスはコミュニティを活性化し、活力レベルを高める上で重要な役割を果たしている。固定されたワークスペースよりもコラボレーションスペースを重視するオフィス設計は、ハイブリッドワーク導入でオフィスへ出社する従業員数が減っても「組織」のエネルギーを育むことができる。
高品質のディスプレイとオーディオテクノロジーを備えた会議スペースを整備することで、離れた場所にいる同僚とのコラボレーションが楽しくなる。また、テラスや屋上庭園などの屋外エリアを開放することで、従業員のウェルビーイングを大幅に向上させると同時に、壁面緑化や観葉植物を追加することでストレスを軽減することができる。
サイレントルーム、フィットネスゾーン、休憩エリアなど、従業員の活力向上にも寄与する。プラデーレは「従業員がさまざまなタスクを切り替えて、連続した会議を回避できるスペースはリフレッシュするためにも重要だ。部門の垣根を超えた従業員同士のコラボレーションを育む機会を提供する」とする。先般リニューアルが完了した資生堂グローバル本社に開設された大規模なコラボレーションスペース「イレブン」等が、その好例といえるだろう。
企業がハイブリッドワークの時代に新しいタイプのオフィスを模索する必要があるのは、企業文化の浸透、帰属意識の醸成、人材獲得の優位性といった、企業と従業員との繋がりの強化に他ならない。アフターコロナ時代において業務のデジタル化はこれまで以上に進み、物理的なオフィスはクライアントや従業員をはじめ、より多くのステークホルダーを結びつける場所としてこれまで以上に重要視されるだろう。