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ワークプレイス戦略に注力するIT企業が多い理由-アカツキの移転事例より

爆発的な成長を遂げるIT企業。旺盛な床需要を誇る彼らが現在の東京オフィスマーケットを下支えしているといっても過言ではない。何より単純にオフィススペースを拡張するだけでなく、そのワークプレイス戦略はクリエイティビティに溢れ、企業が抱える課題を解決するべく様々な施策が打ち出しており「働き方改革」を実践している。IT企業の株式会社アカツキのワークプレイス戦略はその好例だ。

2019年 09月 26日

8階エントランス。「十人十色のカラフルさをもって、日本から世界を照らす太陽でありたい」という同社ロゴをかたどったオブジェと季節の生花で彩る。円形に配した十色の方向に各会議室を設けた。

メガベンチャー・アカツキのワークプレイス戦略

文化醸成、コミュニケーション活性化を目的に1拠点へ集約

マンションの1室、メンバー(従業員)わずか3名で2010年6月に創業した株式会社アカツキ。現在のグループメンバー数は1192名を数え、急成長を続ける東証一部上場のITメガベンチャーだ。モバイルゲーム事業を主業とし、数々のヒットタイトルで人気を博す。最近ではリアルエンターテイメント領域にも積極的に進出し、ライブエクスペリエンス事業を展開。アウトドアレジャーの予約サイト「SOTOASOBI」の運営の他、2019年3月には横浜駅直結の複合型体験エンターテイメントビル「アソビル」の企画・運営に乗り出した。

同社が現在入居するのはJR目黒駅から徒歩3分に位置する「oak meguro」だ。建物規模は地上10階地下2階塔屋2階、延床面積23,100.04㎡、基準階貸室面積1725.52㎡(521.96坪)のAグレードオフィスだ。2016年9月に8階、9階の2フロアにオフィスを新設。翌年5月には7階を借り増し、3フロア・約1550坪を賃借している。


アカツキ 人事総務 高木 瞬氏

 

移転の理由について、アカツキ 人事・広報部 人事総務 マネージャー 高木 瞬氏は「拠点やフロアが別れることで損なわれてきたコミュニケーションや、文化醸成のため」と説明する。移転前は代官山と中目黒の2拠点体制で、賃借床面積は約600坪。事業拡大と共に代官山のオフィスビルで増床を繰り返し、最終的に10フロア中6フロア・約500坪を賃借。これ以上の館内増床が困難であったため、500mほど離れた中目黒のオフィスビル約100坪を借り増した。その際、複数フロア・複数拠点に分散することでメンバー同士の関係性が希薄となり、部署の垣根を越えて協力・情報共有するという「企業文化」が損なわれるという課題が浮き彫りになった。特に新たに入社したメンバーはその傾向が強く表れていた。そこで、コミュニケーションを円滑にすることを目的に、1拠点への集約移転を決定したという。


7階「Fitness」。壁一面をボルダリングウォールとした鏡張りのスリースペース。ヨガやダンス等が行われる他、Dr.ストレッチも行われる。

 

新オフィスはアクティビティスペースが充実

新しいオフィスのコンセプトは「Akatsuki Colorful Garden」。「一人ひとりがカラフルな個性を発揮できる場」かつ「都会にいながらも緑が溢れ、素の自分のまま働けるスペース」であることを目指してオフィスづくりを行った。

フロア構成は次のようになる。8階は執務室の他、同社ロゴのオブジェが鎮座するエントランスの他、来客用/社内用の会議室、バリスタ常駐の「Mag Cafe」を併設したラウンジスペース「SHINE LOUNGE」、木と緑を多く用いた図書/自習用の空間「A LIBRARY」を開設した。3フロアの中央に位置する8階は「コミュニケーションの結節点」となる様々な機能を集めた。9階は執務室が中心となる。


8階「SHINE LOUNGE」。家具の設置を少なくし、自由度の高いスペースとした。バーカウンターや書籍販売コーナーもあり、従業員の憩いの場に。

7階「HISTORIE」。科学、建築等の普遍的な名著、国内外のボードゲーム、テレビゲームを保管・展示する。

 

一方、増床した7階にはアクティビティスペースが充実。多様な「体験」ができるように、普遍的な名著や国内外のボードゲーム、テレビゲームを保管・展示する「HISTORIE」をはじめ、撮影スタジオ、50名を収容できるカンファレンスルーム「Da Vinci」、ボルダリングやヨガ・ダンス等に利用できる鏡張りスペース「Fitness」、動画等の撮影・配信設備を完備した「STUDIO」等を整備した。福利厚生を目的に「Fitness」では「Dr.ストレッチ」と呼ばれるマッサージサービスを休憩時間に受けられ、メンバーに好評だ。

デスクワーク以外にも出社する動機が必要だった

アクティビティスペースを拡充した理由について、高木氏は「デスクワーク以外にもオフィスに出社してもらうための動機が必要だった」と説明する。同社はリモートワークに十分対応できるシステム環境は整備しているものの、緊急時以外のリモートワークは現状推奨していない。その理由は2つあり、1つは高度なチームワークを必要とするゲーム開発は100名以上が携わり、リモートワークではコミュニケーションに齟齬が出てしまう。もう1つは、新たに入社したメンバーに対して企業文化を体感してもらうことを重視しているためだ。アクティビティスペースは憩いや刺激の場として従業員を惹き付ける磁力となる一方、ゲームのリアルタイム動画を配信する「STUDIO」を開設したのは従業員のモチベーションを喚起することが狙いだという。

「視聴者数が万人単位で増えていく等、自分が作ったゲームに対する反響の大きさを実感でき、この感動を多くのメンバーに味わってもらい、モチベーションを高めてもらうために『STUDIO』を開設した」(高木氏)

ちなみに、現在、動画配信の機会は減っており、一時的に撮影スタジオの利用率は低下したが、エンジニアに当該スペースを自由に使用させたところ、独自研究を行い、現在はモーションキャプチャ技術を利用した事業の開発室として機能している。高木氏によると「元来エンターテイメント好きでクリエイティブな人材が集まっているため、自然に面白い使い方を実践してくれている」と胸を張る。同様の理由で「SHINE LOUNGE」にも会議用デスクなどをあえて設置せず、自由に使える空間とした。

一方、人材採用面でオフィスはどのように寄与しているのか。高木氏は「オフィス移転がすべての要因かわからないが」と前置きしながらも「採用活動は非常に順調」と述べている。特に7階「Fitness」のボルダリングウォールや「HISTORIE」は採用媒体や取材記事に掲載されることが多く、会社の雰囲気がより広範に伝わり、採用面で一定の効果があったという

オフィスは「稼ぐ場」

オフィスマーケットにおいてIT企業のワークプレイス戦略が何かと話題だ。アカツキのオフィスのように、単なる仕事の場ではなく、居心地の良さを追求した内装デザインに加え、アクティビティ機能を充実させることで、メンバー満足度の向上を図る。ひいては生産性を高め、優れた人材の獲得に成功している。こうした考え方はIT企業に顕著にうかがえる。JLL日本 マーケッツ事業部 柴田 才は「オフィスをコストセンターと考える企業は依然として少なくないが、オフィスで開発を行うIT企業の場合、オフィスを『稼ぐ場』として捉え、そこで働く従業員のパフォーマンスを最大限発揮してもらうためにオフィスへの投資をためらわない」と分析する。人の働き方で企業価値や企業利益が変化することを明確に意識しているようだ。


社用会議室はフロア間の移動を少なくするため8階に集約。会議室名は「ハート」「ワンダー」「エボリューション」等の感情に起因し、それぞれのテーマをモチーフにしたアートで装飾し、クリエイティビティを刺激する。

情報共有を効果的に促進する階段状のミーティングスペース

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