拡大し続ける物流不動産市場-価格高騰も魅力的な投資先
電子商取引(EC)の台頭、先進物流施設の借り換え需要などを背景に、コロナ禍でも活況を呈する物流不動産市場。一方、数多くの投資家、デベロッパーが物流不動産の開発に参入したことで、開発用地の価格高騰が顕著に。しかし多くの投資家は依然として魅力的な投資先として認識している。
コロナ禍でも成長する物流不動産
JLL日本は先般実施した物流不動産に関するオンラインセミナーにおいて、東京圏や大阪圏といった都市部に賃貸用の大型物流施設、いわゆる「先進物流施設」の新規開発が急増している背景について解説した。
JLLでは2000年以降に竣工した延床面積50,000㎡以上(東京圏・大阪圏、他地域は30,000㎡以上)、賃貸用の物流不動産を「先進物流施設(以下、物流不動産)」と定義し、調査を行っている。
2021年第1四半期末時点における東京圏の物流不動産市場の賃料水準は月額坪当たり4,388円、前四半期比で0.7%増加。空室率は0.9%。一方、大阪圏では月額坪当たり4,007円で、前四半期比で0.5%増。空室率は2.9%。コロナ禍で下降局面に入ったオフィス、ホテル、リテールセクターとは異なり、物流不動産はコロナ禍でありながら成長を続ける稀有な不動産セクターとして注目を集めている。
物流不動産市場が堅調に推移する5つの要因
物流不動産市場が堅調な背景には5つの要因が考えられる。社会的環境の変化にうまく適応したことが大きい。
1. 小売業の業態変化
コロナ以前から続く、コンビニやドラッグストアの販売増加。小売業全体の売上は横ばいだが、これら好調な業態は売上増が続き、コロナ禍でも続伸。売上拡大・出店拡大に合わせて、多数の店舗への高頻度配送に対応可能な先進物流施設の需要が拡大した。
2. EC市場の急成長
コロナ以前から伸長していたEC市場。緊急事態宣言発出に伴う外出自粛の影響でECを利用する消費者が広がり、その利便性が広く享受されたことで、EC市場の更なる成長が予想される。また、日本のEC化率は2010年の2.8%から2019年には6.8%に拡大しているものの、米国(14.0%)や英国(27.9%)に比べて普及率は低く、成長余地が見込める。加えて、コロナ禍に直面した店舗側が実店舗以外の販売チャネルの重要性を痛感したことで、コロナ収束後もEC需要の拡大は続くと見られている。
3. 3PLの成長
企業の物流業務を受託する3PL(サード・パーティ・ロジスティクス)事業者の売上規模は2005年の1兆円から2019年には3.1兆円と3.1倍に拡大。製造業等が物流機能をアウトソースし業務効率化を進めている。3PLは賃貸用の物流不動産を利用することが多く、3PL市場の成長は物流不動産の賃貸需要の拡大の大きな要因となっている。
4. 用途の多様化
保管以外の業務を物流施設内に集約することで、コスト削減や出荷までのリードタイム短縮といったメリットから物流不動産における用途の多様化が進んだ。用途多様化の事例としては、仕分け作業、ピッキング、タグ付け梱包作業をはじめ、商品を撮影してから出荷するため写真スタジオや、PCの組み立て・セットアップ・修理等の作業場もみられる。従前のように商品等を単純に保管するだけでなく、多様な用途に対応すべく旧態然として「倉庫」から、より使い勝手の良い物流施設に需要が移った。より多くの働き手を収容することから空調やカフェ、保育スペースといったアメニティを拡充する他、将来的な自動化システムや自動運搬ロボットを導入するために1拠点あたりの施設規模も拡大している。
5. 高速道路網の変化
東京圏における圏央道、外環道。大阪圏における新名神、第二京阪といった高速道路網が整備されたことで、新しいIC周辺に物流不動産が開発されるだけでなく、企業が物流戦略を再考する機会となり、拠点統合や大型物流不動産への移転を促している。また、圏央道の開通によって神奈川方面から埼玉方面へのアクセス性が格段に向上したことで、東京圏全体をカバーできる物流拠点として厚木市や海老名市で大規模物流不動産の開発が進むなど、新たな物流不動産市場が開拓されている。
旺盛な賃貸需要から物流不動産の新規開発が急増
これらの社会的な変化によって、物流不動産に対する賃貸需要は拡大の一途を辿っており、旺盛な賃貸需要が見込めることから国内外の投資家、デベロッパーが多数参戦。新規開発が急増している。
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東京圏の供給予測
JLL日本 リサーチ事業部の調査によると、2020年における東京圏では200万㎡を超える新規大量供給がなされたが、2020年第4四半期末時点の空室率はわずか0.2%と、供給を十分に消化できる新規需要があった。さらに、2021年の250万㎡の新規供給が予定されているが、すでに70%でテナントが決まっており、2021年第4四半期末の空室率は1.2%と、引き続き需給がひっ迫した状況が続くと予測している。続く2022年は350万㎡、2023年は300万㎡の新規供給が予定されているが、リーシングに優位な好立地物件が多いことに加え、2000-3000坪レベルの小規模区画の需要を先進大型物流施設が拾ってこなかったため、これらの潜在需要を考慮すると、新規大量供給を消化できる床需要が見込まれる。
大阪圏の供給予測
大阪圏の物流不動産市場も安定している。100万㎡を超える新規供給があった2017年には湾岸エリアを中心に空室率が17%まで上昇したが、以降空室率の低下が続く。2020年には尼崎市で超大型の先進物流施設が開業したものの高稼働となり、2020年第4四半期末時点での空室率は3.4%に留まった。2021年には2017年を超える110万㎡もの新規供給が予定されているが、すでに90%の床でテナントが決まっており、さらに2022年、2023年は新規供給が限定され、2023年には空室率2.0%と需給がひっ迫した状況が続くと予測。その結果、投資家やデベロッパーは賃料に対して強気の姿勢を維持し、賃料水準の上振れの可能性がある。
価格高騰も実質利回りに妙味
社会的要因に裏打ちされ、物流不動産の床需要は今後も堅調に推移するものとみられている一方、投資家やデベロッパーといったオーナー側の悩みの種となっているのが開発用地の取得競争に伴う土地価格の高騰だ。
JLL日本 リサーチ事業部が東京都内の某物流開発適地の地価を調査したところ、2012年には坪当たり107万円だったが、2020年には坪当たり142万円と1.4倍に上昇。また、実際の土地の売買事例では、2006年に坪あたり40万円で取引された土地が2013年には坪あたり60万円、2017年には105万円にまで高騰していた。さらに大型物流施設の開発に適した広大な土地が坪当たり150万円で取引される一方、隣接する300坪の土地は坪あたり60万円で取引されるなど、開発規模によって土地価格が大きく左右される状況となっている。
この結果、巨大な資本力を持つグローバル投資家や大手デベロッパーが先進物流施設の開発を牽引。物流施設の自社開発を志向していた企業が土地価格の高騰により、コストメリットを重視して先進物流施設を賃借するといった潮流も生まれた。
一方、開発物件の取引価格が上昇し続けることで利回りも低下し続けている。JLLの調査では、東京圏の物流不動産市場における2009年頃の利回りは6%程度あったが、2014年には4%台、2019年には3%台に突入。2021年第1四半期末時点で3.7%まで低下している。
とはいえ、物流不動産市場をグローバルで捉えると、東京圏の優位性が見えてくる。2020年12月時点において投資利回りと長期金利差であるイールドギャップを比較すると、東京圏の実質利回りは3.8%。ニューヨーク(3.2%)、ロンドン(3.1%)よりも高い利回りが享受できる。
投資機会
物流不動産利回りのグローバル比較
出所:JLL Capital Tracker 1Q2021およびOxford Economicsを元にJLL日本作成
東京圏の物流不動産の投資価格は2020年時には坪当たり103万円、2023年には坪あたり120万円、1,2倍程度上昇すると予測する。しかし、海外投資家にとっては東京圏の物流不動産市場は投資妙味があり、引き続き有望な投資市場として認知されていくだろう。
連絡先 谷口 学
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