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コロナパンデミックから1年が経過した東京オフィス市場の現状

新型コロナ感染拡大を機にリモートワークが定着。一部の企業では賃借床を縮小する動きが顕在化しつつある。「オフィス不要論」が議論される中、リモートワークの課題も見えてきた。空室率は上昇傾向にあるもののオフィスニーズは失われることはない。投資セクターにおける主役の座は揺るがない。

2021年 04月 20日
コロナ感染拡大で様変わりしたオフィスエリア

新型コロナウイルス感染拡大から早くも1年が経過したが、感染の状況は一進一退が続いている状況にある。なかには在宅勤務が原則となった企業もいくつかみられるなど、行き交う人が少なく様変わりしたオフィスエリアの光景はいまや日常となった感さえある。今後の人々の働き方や生活様式の変化が一層広がっていくと考えられる中で、東京のオフィス市場はどのようになってゆくのか。最近のテナントの動きなどから探ってみたい。

東京のオフィス市場は全体的には空室も徐々に増えてきており、それにともなってゆるやかに下落傾向にあるとされる。その大きな要因は主にAグレードビルにおけるテナントの貸床の一部返却などと考えられる。

これまで複数フロアを賃借していた企業がテレワーク導入を機にオフィス床を減少させる動きがじわじわと広がってきており、結果として既存のAグレードビルストックにおいて空室が徐々に増えてきている。今後も定期借家契約の満了とともに床を減らす企業が出てくるものとみられることから、大きな流れとしての空室増加が懸念される。

一方でそうしたAグレードビルにおける空室の増加が東京のオフィス市場全体のトレンドとはいまのところなっていない。規模や基準階面積が小さいBグレードと呼ばれるオフィスビル群においてはコロナの影響が及んでいたこの1年、それほど大きな変化はみられなかったといえる。空室が増加しているような報道も見受けられるが、その多くは空室が現空となって顕在化する前に後継テナントが決まったり、一部には内部増床で決まるケースも見られている。

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コロナ下でも堅調なBグレードビル

特にいま人気の高いサイズと賃料帯は、基準階面積が100坪までで月額坪あたり10,000円台後半-20,000円台前半の物件である。こうした物件はテナントが決まるスピードが他の面積ならびに賃料帯より早く、空室が現空となって顕在化することはほとんどないという。

こうしたサイズの物件に対する需要の高まりは賃料を抑えて固定費を下げようとするいわば「後ろ向き」な移転ばかりではなく、立地の改善や一部にはこれまで借りていた床面積を拡張した「前向き」な移転も多くみられている。

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また、コロナを経験して大きく変わったマインドとしては、大きな基準階面積を持つビルに分割で入居するより、手ごろな基準階面積の床を1フロア単独で利用したいというニーズが高まっていることがあげられる。つまりはなるべく同フロアの他社との接触を減らし、感染リスクを抑えようとする意識が働いているといえる。こうしたマインドの大きな変化も100坪前後のビルに対する需要を高めている一つの要因と考えられる。

一方で種を問わずに分室を設ける動きもいまだ健在である。多くの従業員がリモートワークを余儀なくされた1年前以降、現在ではそのリモートワークを働き方の中心に据える企業もちらほら出始めている。そうした企業は都心部ならびに首都圏郊外のターミナル駅周辺を中心に分室を設け、従業員の働く環境を積極的にサポートしていくというスタンスを明確にしてきている。

オフィスは今後も不動産投資市場の主役に君臨

全体的には空室率のゆるやかな上昇は避けては通れない感がぬぐえない。一方でコロナの混乱を通じてテナントである各企業は、オフィスに対する考え方は変化しながらも、ほとんどは「いかに従業員が快適に仕事を進めていけるか」という、これまで主軸としていた考え方からブレていない。

オフィス市場は形を変えつつ、需要に関してはこれまで通りの流れが踏襲されてきつつあることから、「オフィス不要論」が取りざたされた1年前とは明らかに様相は変化し、逆に「ある程度のオフィス床は必要」という結論に達してきているとさえ考えられる。オフィス市場は引き続き「持続可能」なセクターとして、今後も不動産投資市場の主役に君臨すると考えられよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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