外資系ファンドが食指を伸ばすトランクルーム投資
欧米では「セルフストレージ」。日本では「トランクルーム」と呼ばれるアセットタイプに投資家の注視しつつある。比較的長期の利用が見込め、安定した収益性が最大の魅力となるオルタナティブアセットとして注目されているのだ。
アメリカではコアアセットに成長
日本の屋内型トランクルーム市場は倉庫・物流会社が保有不動産の空きスペースを貸し出し始めた1990年代に登場。船積み用のコンテナを使用した屋外型トランクルームが多数含まれているが、使い勝手が悪く、屋内型トランクルームが台頭しているのが現状だ。国内トランクルーム運営会社大手のキュラーズが毎年実施している調査「Annual Supply Survey」によると、屋内・屋外含むトランクルーム市場は2008年と比較すると倍増となる500億円を突破。2020年には700億円を超える市場規模へ成長すると試算している。一方、オルタナティブアセットの売買マーケットに詳しいJLL日本キャピタルマーケット事業部 ペルハム ヒギンズによると「全世界で最も巨大なトランクルーム市場を持つアメリカの普及率は全人口に対して約7.5平方フィート。2番目に巨大市場を持つオーストラリアで1人当たり1.2平方フィートとなる。日本におけるトランクルーム市場は拡大傾向にあるが、その普及率は1人あたりわずか0.08平方フィートしかない」と指摘。アメリカではトランクルームはコアアセットとしての地位を確立しており、スタンスベリー・チャーチハウス・ドットコムによると米国REIT市場においてトランクルームの専門REITは1993年から2017年にかけてトータルリターンが15.8%と全ての専門REITの中でも突出して優れたパフォーマンスを発揮してきた。
日本ではまだまだマイナーな存在だが、成長が期待される数少ないアセットといえるだろう。ビギンズは「都市部で生活する単身世代が増加するが総じて居住面積は狭い。余分な荷物はトランクルームで一時保管する必要に迫られている。そして、高齢化社会で子供が独立した高齢者夫婦が身の丈にあったサイズの居住面積に住み替える可能性も高い。収まりきらない荷物はトランクルームへ預ける必要がある。こうした日本を取り巻く諸要因がトランクルームの需要を後押しするだろう」と推測する。
外資系ファンドが注目
国内のトランクルーム市場において投資マーケットを切り開いたのは、前述したキュラーズだ。2013年にアメリカの不動産投資会社大手のエバーグリーン・リアルエステート・パートナーズ・エルエルシーがキュラーズを買収し、不動産の所有を加速させているが、国内オペレーターは所有ではなく賃貸ないしは施設管理が一般的だ。地主や既存ビルオーナーに対して「空き区画の有効活用策」として提案するのが一般的で、投資商品とはいえなかった。キュラーズはオペレーターでありながら自ら不動産を所有し、事業を成長させている唯一の存在だったのだ。ヒギンズによると「このキュラーズの成長を参考にし、キャピタランドやブラックストーン、ヘイトマンなどの外資の機関投資家が日本のトランクルーム市場へ積極的に投資しようと動き出している。一部の企業はキュラーズの投資スキームを踏襲する一方、国内のオペレーターとの間で運営契約を結ぶケースも出始めているという。また、著名な機関投資家が地元の資産運用会社と連携しトランクルーム開発に50億円投資すると決定しており、最終的には国内初のトランクルームREITの組成に向けた競争も始まっている」と水面下での盛り上がりに期待を込める。
開発NOIは最低でも7%
機関投資家が好む資産規模は1物件10億円が目安になる。民間投資家が惹きつけられるのは現地オペレーターが運営する小型物件で2億円-3億円程度。アメリカやオーストラリアでは20億円程度が標準だという。投資商品としての魅力はオフィス、商業、住宅、物流施設といったコアアセットと比較して、より高い利回りが得られる点にある。そして施設利用者の契約期間は比較的長く、キャッシュフローの安定性は多くの投資家にとって大きなアドバンテージになる。屋内型トランクルームの多くは既存オフィス・倉庫を改修しトランクルームにしつらえるが、開発時のNOIは7%ほど見込める。新築の場合は利回り5%程度だ。ヒギンズは「こうした投資メリットは多くの投資家が前向きに捉えるきっかけになっている。15年前に新興セクターとして登場しコアアセットに成長した物流施設と同様の道をトランクルームも辿るのではないか」と将来性を高く評価している。