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コロナ禍で繰り返される緊急事態宣言と商業テナントへの影響

新型コロナ感染拡大によって大きな打撃を受けているのが商業テナントだ。緊急事態宣言が繰り返し発出される中、商業施設を多数運用する上場REITの決算資料から商業テナントの現況を紐解いた。

2021年 08月 17日

東京都では4回目の緊急事態宣言

新型コロナウイルス感染拡大が始まっておよそ1年半が経過した。足元ではワクチン接種が加速度的に進んでいることから一時の病床ひっ迫状態からは脱したものの、感染者数の増加は続いている。東京都などでは実に4回目となる緊急事態宣言がなされている最中ではあるが、街の人出は多いままで宣言の実効性がどこまであるのか、議論が残っているといえよう。こうした2回目以降の緊急事態宣言は不動産、特に商業テナントにとってどのような影響があるのだろうか。

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J-REIT物件の商業テナントへの影響は限定的に

商業テナントが集積する、いわゆる「リテールビル」を多く抱えるJ-REITの1つである日本都市ファンド投資法人(JMF)の決算発表資料によると、所有物件の全テナントの前年比売上が2020年4月、5月はそれぞれ45%、55%と、コロナ前の半分に落ち込んでいるものの、2回目の緊急事態宣言がなされた2021年1月の対前年比の売上は80%、2月は83%と、1回目の緊急事態宣言に比べると影響は極めて限定的であり、大きな減収の要因とはなっていない。

また、ある意味で「堅調」なこの売上推移はオーナーであるJMFに寄せられる賃料減額要請の数にも表れている。1回目の緊急事態宣言時には全テナントの実に7割から賃料減額要請が寄せられたが、2回目はわずか7%に激減している。一時的な賃料減額の実額合計も1回目は10億円を超えたものの、2回目は1億7,000万円弱へとおよそ10分の1へと減少している。

JMFの所有物件は銀座や表参道、御堂筋などに展開される、いわゆる「ハイストリート」と呼ばれる物件群であり、そうした繁華街での売上がそれほど下がっておらず、賃料の減額要請もほとんどなかったことは、街に人出が戻り始めているという証左であるといえる。言い換えれば緊急事態宣言がなされているなかでも、店舗も買い物客も感染対策を万全にした形で買い物を楽しめる状況であるともいえる。

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同じ商業施設をポートフォリオに抱えるケネディクス商業リート投資法人(KRF)でも同様の傾向がみられる。2021年3月期の賃料減額要請は、前期の95件から1件へと大幅に減少している。KRFにおいてはそのほとんどが地域密着型のいわゆる「ネイバーフット型商業施設」であり、スーパーマーケットやドラッグストアがメインの、地域の買い物需要を支える商業施設が多い。そうした商業施設は1回目の緊急事態宣言下においても売上はそれほど下がっておらず、むしろ日常生活圏へ消費がシフトしたことで売上が増加している店舗もみられるほどである。2回目以降はハイストリートにおける買い物行動と同様、店側と利用客側の双方が感染対策を万全にしていることから、少なくとも数字上は日常が取り戻されつつあると考えられる。

緊急事態宣言によって最も影響を受けた業種が飲食業であることは各種報道にあるとおり周知の事実であろう。ただ、こちらも制限はあるものの感染対策を万全にした形で昼の営業を強化したり、テイクアウトの需要を取り込むなど、創意工夫のもと徐々に状況は改善されているとされる。ワクチン接種の進行に伴い重症化が抑えられるケースが増加すれば一歩正常化に近づくと思われる。いまは一刻も早い収束を願うばかりである。それによって商業テナントも元通りの姿を取り戻し、ひいては不動産市場の正常化に寄与するものと考えられる。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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