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ビッグデータからみる商業の実態と今後

新型コロナに翻弄された投資セクターの1つが商業だ。内閣府地方創生推進室が発表しているビッグデータをもとに、2020年における商業の変化を分析。コロナ禍によって消費マインドが大きく変化し、都心商業と郊外型商業で明暗が分かれる結果となった。

2021年 03月 10日
コロナに振り回された2020年の商業

新型コロナウイルスの感染が本格化して早くも1年となる。この間、過去に例を見なかった緊急事態宣言が地域によっては二度も発出されるなど、誰しもがこれまで経験したことのない状況に置かれることとなった。そんな、文字通りコロナに「振り回された」2020年で最も影響が大きかった業態のひとつに商業があげられるのは衆目の一致するところではなかろうか。この1年で商業はどのように変化したのか、また今後どのように適応すべきなのかについて、今回はビッグデータから紐解いていきたい。

クレジットカード決済額から見えたリアル店舗の苦戦

内閣府地方創生推進室・ビッグデータチーム(RESAS)がウェブサイトを通じて公開しているデータから、人々の動きや買い物の動向について興味深い結果が読み取れる。まずは「クレジットカードの決済データからみる消費動向」について、こちらは東京都のデータとなるが、人々がクレジットカードを通じてどの業種・業態において消費行動をしたかを表したものである。これを見ると一回目の緊急事態宣言が発令された4月上旬から小売業全般、外食ともに前年比で大幅な落ち込みがみられ、特に外食は4月の後半には前年同期比で実に58%減を記録している。その後も外食についてはGo Toイートキャンペーンなどの刺激策が導入されたにも関わらず前年割れが続き、再びの感染拡大局面となった12月には前年同期比20%以上の落ち込みとなるなど、1年を通して前年を大きく下回る結果となった。

好調なEコマース、消費意欲は減退していない

その一方で電子商取引(Eコマース)の健闘ぶりが際立つ。1回目の緊急事態宣言中の4-5月にかけては前年同期比で20%以上の増加を記録し、その後も年末にかけてほとんどの月で前年比10%以上の増加がみられている。小売全体が極めて厳しい状況にあるなか、Eコマースは順調であるこの事実は販売のチャネルが折からのコロナの影響で大幅に変化したことの証左であるといえよう。一方でEコマースにおいてこれほどまでに決済額が伸びているということは、単に買い物のする「場所」が変わっただけであり人々の消費意欲はコロナで減退はそれほどしていないことにもなる。

業種別クレジットカード決済額推移(前年同期比) 出所:JLL

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主要駅における人の流れはどう変わった?

一方で人の流れはどうだったのかについても、コロナが商業にどのような影響を与えたのかを語る上で重要であると考える。RESASが公表しているデータに、駅周辺の滞在人口の前年比をまとめたものがある。これを代表的な都心のターミナル駅(東京駅、渋谷駅)と、首都圏郊外のターミナル駅(横浜駅、大宮駅)、さらには大規模な住宅地を背後に抱え、乗降客数の多い首都圏郊外の駅(武蔵小杉駅、立川駅、柏駅)とで比較してみたい。

都心一等地と郊外で明暗

1回目の緊急事態宣言が発令された4-5月は東京駅や渋谷駅などの都心ターミナル駅では前年比で60-80%の大幅な減少がみられ、減少幅はやや縮小するものの同様の傾向が横浜駅や大宮駅などでもみられている。その一方で住宅地エリアにある駅においては、武蔵小杉駅の対前年比20%増加をはじめ、立川駅、柏駅のいずれの駅においても増加がみられている。このターミナル駅における滞留人口の減少と、郊外駅における上昇のトレンドは緊急事態宣言があけてGo Toトラベルキャンペーンが開始された以降も大きな変化はみられていない。つまりかかるコロナの状況下、人々は都心部へまだ戻り切れていないことを示しているといえよう。銀座などの都心の一等地における商業が売り上げの大幅減少などの大打撃を受けた一方、郊外立地の商業においては比較的傷が浅かったという、これまで多くの商業系J-REITが明らかにしてきたデータが、人の流れからも裏付けられるといえる。

首都圏主要駅の推計滞在人口(前年同週比) 出所:JLL

トンネルの先の光は明るさを増している

この2つのデータは、消費意欲は下がっていないものの自粛を含めた日々の行動を制限されていることで、都心部の商業がほぼ一人負けしている状況を浮き彫りにしているといえる。これを、行動が許される範囲内で買い物をしなくてはいけない状況にあるが故のこの状況であると考えるならば、コロナがこの先「普通の風邪」のように収束方向へ向かっていけば、店舗に足を運び実際に手に取って質感を確かめてから購入するという、日本人が一般に持つ買い物の習慣が徐々に戻ってくるものと考えられる。

都心部の商業は引き続き厳しい状況が短期的には続くが、ワクチンの接種もはじまり夏から秋にかけて接種が本格化してくれば徐々に消費者のマインドにも変化が起きてこよう。トンネルの先の光は次第に明るさを増してきている。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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