大型商業施設で空調の省エネ実証実験 – 工事不要で電気使用量24%削減
商業施設の電力使用量の多くを占める空調の節電対策は不可欠だが、工期・コストがネックとなる。そうした中、千葉県市原市の大型ショッピングセンター「unimoちはら台」では2024年8月、“画期的”な手法による空調の省エネ実証実験を実施。工事不要で電気使用量24%削減を達成した。
大型SC「unimoちはら台」で空調の省エネ実証実験
JLLリテールマネジメント(以下、JRM)が施設運営管理を行う大型ショッピングセンター「unimoちはら台」では2024年8月、空調の“画期的”な省エネ実証実験を行った。
一般的な商業施設やオフィスにおいて消費電力の50%程度を占めるとされる空調の省エネ対策は喫緊の課題である。
一方、多くの買物客が訪れる商業施設では空調を抑制すると館内の快適性が低下し、生鮮食品などの暑さに弱い商品も多く、客離れに繋がる可能性がある。
高効率の空調に更新するなどの省エネ施策も考えられるが、大規模改修工事が伴い、工期とコスト負担がネックとなる。
こうした課題をいかに克服しつつ、いかに高い省エネ効果が得られるか。その施策としてJRMが注目したのが静電防止シート「コンティニューム」だった。
高効率の空調に更新するなどの省エネ施策は大規模改修工事が伴い、工期とコスト負担がネック。こうした課題を克服し、高い省エネ効果を得るための施策が求められている
サステナビリティ施策に注力する「unimoちはら台」とは?
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実証実験の詳細に触れる前に、その舞台となった「unimoちはら台」について説明しておこう。
千葉県市原市・千葉市にかけて広がる広大なニュータウンエリア最大級のリージョナル型ショッピングセンターが「unimoちはら台」である。サーキット型の館内にはスーパーマーケット、家電量販店、シネマコンプレックスなどの大型テナントを中心に、衣食住のすべての買物ニーズを満たす“地域一番店”である。開業は2007年9月、敷地面積約110,000㎡、延床面積約70,000㎡。
同施設では2015年度から省エネ改修主体のサステナビリティ対策を実践。共用部の照明4,000台を調光機能付きLEDに変更した他、空調自動制御システムや太陽光発電システムを導入。電気使用量は前年比約30%削減に成功した。これらの実績が認められ、2018年度「エネルギー管理優良事業者等関東経済産業局表彰」、2019年度「省エネ大賞 省エネルギーセンター会長賞」を受賞した。
また、施設単体の省エネ対策のみならず、地域住民などの省エネ意識の啓蒙を目的に、2022年4月に施設利用客参加型のSDGsイベントウィーク「unimo for SDGs Unifes」、2023年6月から企業協働型の子供向けSDGs学習イベント「unimo SDGs Challenge School サステナシップ」を立ち上げた。こうした取り組みが評価され、市原市「いちはらSDGsアワード 優秀賞」を受賞している。
省エネ実証実験の目的
今回の実証実験は、大規模な改修工事などを必要としない短工期かつコスト負担を抑えることを視野に入れた空調の省エネ化を実現することが目的だ。飲食店舗などのコンサルティング事業を展開するMS&Consultingの協力のもと、主に個店の節電対策として導入が進んでいる静電防止シート「コンティニューム」を大規模商業施設の共用部の空調に導入した場合の効果測定を行うと共に、導入時の課題・障壁について調査した。
コンティニュームとは?
MS&Consultingによると、既存空調の空気吸い込み口の大きさにサイズ調整したコンティニュームを設置するだけで消費電力量の10%に迫る省エネ効果を発揮するという。フィルターシート状なのでハサミなどで簡単に切ることができ、様々なタイプの空調の設置可能。空調を運転させながら工事不要で設置できるのが最大の特徴とする。
野口氏は「空調はファンを高速回転させて吸気と排気を行う仕組みだが、ファンが回れば回るほど、空気が摩擦し、静電気が大量に発生することで空調内の空気の流れが乱れ、熱交換比率が悪化。結果として設定温度を維持するために室外機のコンプレッサーが稼働し続けることで消費電力に無駄が生じる」と指摘する。
一方、コンティニュームを設置することで空調内部の静電気を抑制し、空気の流れを安定化して熱交換効率が向上、高い節電効果を発揮。総消費電力に対して空調比率の高い建物ほど省エネ効果が高くなるという。MS&Consultingによると、空調比率が50%とされるオフィスにコンティニュームを導入した場合、施設全体的な省エネ効果は11%になるという。
既存空調の空気吸い込み口の大きさにサイズ調整したコンティニュームを設置するだけで消費電力量の10%に迫る省エネ効果を発揮
実証実験の結果:平均24%・15%削減
2024年8月、「unimoちはら台」内のフードコートとレストラン街の共用部にある天井カセット型空調50台に設置し、あわせて分電盤6カ所に測定器を設置し、コンティニューム設置前の約3週間、設置後の約3週間の測定データを比較した。コンティニュームの設置は野口氏が担当。工事不要で作業時間は約5時間だった。
実証実験の結果、フードコート共用部の使用電力量は平均24.2%削減、レストラン街共用部では平均15.8%削減となった。
本実証実験に参画したMS&Consulting リサーチ本部 企画推進室 野口 了氏によると「空調の電力消費に最も影響を与えるのは外気温になるが、コンティニュームの設置前後で外気温が近い測定カ所を比較したところ、設置後のほうが節電できていた」という。
フードコート共用部の使用電力量は平均24.2%削減、レストラン街共用部では平均15.5%削減
投資機会
実際の商業施設に導入する際の課題
一方、大型商業施設の共用部の空調に導入する場合、課題があることも見えてきた。
野口氏は「従前、コンティニュームは個別の飲食店と導入契約することが多かった。商業施設にテナントとして店舗を構えている飲食店はオーナーや管理会社に設置許可を取る必要があるため、横展開が難しかった」と説明するように、一般的な商業施設における空調の工事区分表をみると、空調工事はA工事とB工事のみとなり、特に店舗区画内はこの2つが混在するため、省エネ対策が進まないといった側面がある。
A工事 | B工事 | C工事 | |
工事会社の指定 | オーナー | オーナー | テナント |
工事費用の負担 | オーナー | テナント | テナント |