上昇のモメンタムに沸く東京プライムリテール市場
コロナ禍の反動によって消費活動は勢いづき、アフターコロナを迎える現在、東京プライムリテール市場は賃料上昇フェーズに突入。銀座の路面店賃料はコロナ禍以前に迫り、表参道では過去最高を記録している。富裕層の参入がキャップレートに影響を与える可能性も予想されるが、投資活動の更なる活発化が期待される。
東京プライムリテール市場(銀座、表参道)はコロナ禍による停滞から回復しつつある。特に、抑制を強いられてきた国内消費マインドの反動によって、消費の勢いは引き続き増している。高級品販売額は2023年1-5月にかけて最大の伸びを示し、コロナ前の2019年同期比では売上高が40%増加(出所:日本百貨店協会)。景況感に対するテナントの信頼が高まり、新規出店の問い合わせも増加している。
JLL日本の調査によると、東京プライムリテール市場の価格はコロナ禍を受けて下落(2019年第4四半期と比較して19%の下落)。主な要因は賃料の下落とキャップレートの上昇(JLLの調査では賃料水準は11%下落、キャップレートは20bps上昇)であった。価格は2021年第2四半期に底を打ち、上昇を再開。2022年第2四半期から上昇の勢いが加速した。
価格の急激な伸びを牽引しているのが路面店の賃料だ。サブマーケットに目を向けると、銀座の賃料単価は月額坪当たり27万5,000円(2023年第2四半期)となり、2019年の水準に近づきつつある。そして、表参道は2019年の水準を上回り、同四半期の賃料単価は月額坪当たり24万5,000円と過去最高を記録した(図1)。
図1:東京プライムリテール市場の賃料水準(2019年-2023年第2四半期) 出所:JLL日本
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視認性の高い好立地の路面店にラグジュアリーブランドの需要が集中する半面、彼らの要件を満たす選択肢は極めて限定的だ。需供バランスのひっ迫によって賃料が上昇している。そのため、テナントの入れ替わりの際には熾烈な入札競争が起きている。
JLLのプロパティクロックをみると、東京プライムリテール市場は賃料上昇フェーズに突入しており、今後は賃料の加速度的な増加が示唆されている(図2)。
図2:JLLプロパティクロック(リテール) 出所:JLL日本
投資機会
路面店のみならず、飲食店などの需要増によって上層階に賃料上昇の勢いが波及していく可能性がある
2023年2月における東京広域圏の鉄道旅客数が2019年同月比83%(出所:国土交通省)し、2023年5月の訪日外客数が2019年同月比67%(出所:JTRO)まで回復している。つまり、国内・国際双方で客足が本格的な回復に向かっており、今後は路面店のみならず、飲食店などの需要増によって上層階に賃料上昇の勢いが波及していく可能性がある。
キャップレートが低下すれば、価格は一層上昇する可能性がある
こうした状況下、東京プライムリテール市場のキャップレートは低下するか、少なくとも安定した状態を維持すると予想される。
コロナ禍を受けて様子見に転じた投資家と長期的な視点に立ってリテール不動産を保有するオーナーの見解の相違とが相まって、コロナ禍ではリテール不動産への投資活動は事実上停止していたが、足元では小口特定不動産共同事業(不動産特定共同事業:FTK)に関連した注目すべき取引が増えつつある。銀座や表参道などの一等地に位置するリテール不動産を対象にしたFTKは、富裕層やその資産管理会社にとって魅力的な投資先と映り、短期間で完売してしまうことも多い。
一般に、富裕層・資産管理会社による直接・間接の不動産投資活動は、収益よりも長期的な資産価値の維持を優先するため、最重要視するのは立地となる。必然、キャップレートは市場相場よりも低水準となる傾向が強い。そして、東京プライムリテール市場において富裕層の存在感が増していることが、機関投資家や不動産ファンド、J-REITなどの既存プレーヤーの価格設定に影響を及ぼし、キャップレートの下方圧力となる可能性がある。
東京プライムリテール市場はコロナ禍による混乱から回復しつつあり、高品質の商品・サービスで国内外の消費者を魅了している。そして、リテール不動産は小売・飲食テナントが成長する場所を提供するだけでなく、持続的な収入と資産価値の成長を求める多様な投資家を惹きつけていくだろう。
連絡先 岩永 直子
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