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不動産の「待機資金」は引き続き過去最高も、資金と投資機会との「ミスマッチ」解消が課題

全世界の不動産投資額は2022年に前年比マイナスを記録した。インフレ抑制を目的とした金利上昇が、結果として不動産投資市場に大きな逆風となった。一方で不動産投資の「待機資金(ドライパウダー)」は過去最高レベルで積みあがっている。背景には金利上昇の他、資金と投資機会とのミスマッチも浮かび上がってくる。

2023年 03月 28日
金利上昇による不動産投資へのインパクト

2022年の不動産投資額は1兆290億米ドル(およそ137兆4,000億円余)であった。これは新型コロナウイルス感染拡大局面の真っ只中にあった2020年に比べると28%ほど上昇しているものの、前年比でおよそ19%の減少という結果となった。

世界の不動産投資額推移 出所:JLL

借入コストの増大による利回り低下が不動産投資額の低下を招いた最大の要因であると考えられる

2022年は地政学リスクを起因としたインフレが発生。それを抑え込む目的で各国の中央銀行は軒並み政策金利の利上げを敢行した。インフレ抑制効果があったかどうかについては評価がわかれるが、こと不動産投資市場においては借入コストの増大という極めて重いインパクトを与えることとなった。

断続的に行われた金利上昇で、本来借入をすることによって得られるレバレッジ効果が日本を除くほとんどの市場でほぼ消滅、市場によっては借入ることでキャッシュオンキャッシュ利回りがマイナスになるという逆ザヤ状態に陥る状況になっている。こうした借入コストの増大による利回り低下が不動産投資額の低下を招いた最大の要因であると考えられる。

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不動産投資市場への資金流入は過去最高レベルで継続中

ドライパウダーは2022年12月現在、全世界で3,860億米ドル(およそ51兆6,000億円)。引き続き過去最高レベルで積みあがっている

その一方で不動産投資への資金流入は続いている。不動産投資を待つドライパウダーは2022年12月現在、全世界で3,860億米ドル(およそ51兆6,000億円)にのぼっている。2022年はファンドレイズが若干スローダウンしたこともあり、これでも前年比で5%ほど減少してはいるが、引き続き過去最高レベルで積みあがっているといえる。

このドライパウダーを詳しく分析すると、10億米ドル(約1,336億円)以上のファンドが全体に占める割合は、ファンドの本数でみるとおよそ4分の1であるものの、ドライパウダー総額に対しては61%を占めている。本数が少ないにもかかわらず待機資金全体の6割以上を占めているということは、大型のファンドが数多く存在しているといえよう。

サイズ別ファンド本数推移 出所:Prequin、JLL

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また、そうした大型のファンドのほとんどが「バリューアッド」あるいは「オポチュニスティック」といった、一定のリスクを容認する性質の資金であることも注目に値する。

通常、こうしたリスク許容資金は、例えば稼働率が上がっていなかったり、マーケットレベルから極端に賃料が低いオフィスビルや、主に物流施設の開発などを中心に投資することで知られている。一方でこうした投資機会というものは極めて限定的で、特に日本においてはその傾向が顕著であるといえよう。

Name Strategy Final close size US$B
Brookfield Strategic Real Estate Partners IV Opportunistic $17.0
TPG Real Estate Partners IV Opportunistic $6.8
GLP China Income Partners V Core $5.0
Aermont Capital Real Estate Fund V Value Add $3.9
GLP Japan Development Partners IV Opportunistic $3.6

2022年にクローズした主な「大型ファンド」一覧 出所:Prequin、JLL

コロナ禍でオフィスの需要が一時的に悪化したものの、東京都心5区のAグレードビルの空室率は5%を下回っており、これはほとんどのビルがほぼ満床で稼働していることを意味する。こうした状況下ではリスク許容資金の出番はほとんどないといえる。また物流施設や賃貸住宅など昨今投資人気が高まっているセクターも基本的には安定稼働を重視した、いわゆる「コア系」の投資先であり、リスク許容資金のストラテジーとは相容れない。
 

投資資金の性質と投資機会がミスマッチ

資金の性質と投資案件とのミスマッチの解消は、今後再び投資市場を活発化させるうえで重要となってくる

こうした投資資金の性質と市場で実際に目にする投資機会とのミスマッチが、金利上昇とともに顕在化することによって、投資額の減少という結果につながったものと考えられよう。

また、大型のファンドである以上それなりに物件数を取得することが必要となるが、昨今の投資先の枯渇化の状況で思うように投資案件を確保することもままならず、結果として「物件を買えない」状況が投資額減少に拍車をかけているとも考えられる。

金利に関しては各国の政策によって決められるため投資家サイドでコントロールできるものではないが、こうした資金の性質と投資案件とのミスマッチの解消は、今後再び投資市場を活発化させるうえで重要となってくると考えられる。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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