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落ち着きを見せるコロナ禍における東京都区部のオフィス投資市場

新型コロナの影響で一時的に停滞した東京都区部のオフィス投資市場が2021年に入り、劇的な復活を遂げた。オフィス賃料の将来的な回復への期待感、バリューアッド系投資家のオフィス志向の動きなどが背景にある。2022年もこうした流れは継続すると予測される。

2022年 01月 13日
不動産投資の花形「オフィス」に再脚光

新型コロナウイルス感染拡大局面にはいっておおかた2年が過ぎようとしている。この間、リモートワークが一気に一般化したり、街から人が消えたりと、かつて経験したことのないような状況を経過して、東京都の陽性者数もここ数カ月間2桁以下となっており、状況はようやく落ち着きを見せてきたといえる。不動産投資市場において2020年はオフィス需要に対する先行きに不透明感があったことなどからオフィスへの投資はなかなか進まなかったが、2021年に入って緊急事態宣言下にあっても普通にオフィスへ出勤する光景が見られるなど、徐々に今後のオフィス需要の在り方が見えてきたといえる。こうした需要の変化は投資の利回りに大きく影響を与えているといえよう。

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2021年に入ってJLLに寄せられる市場動向に関する問い合わせにオフィスが多くなってきている。特に海外投資家からの問い合わせが顕著に増えており、不動産投資の花形でもあるオフィスが再度脚光を浴びる状況になっているといえる。この背景には下記のような理由が挙げられよう。

1.コロナが落ち着いてきたことによる賃貸市場の将来的な回復

2.物件不足などから2020年に投資を集めた賃貸住宅と物流施設への投資が減少

3.一部の周辺部立地のオフィスへのバリューアッド系投資家による投資が増加

①オフィス賃貸市場の将来的な回復

まず賃貸市場の回復について、特に海外投資家においては東京都心部のオフィス空室率は引き続き低位で推移しており、諸外国に比べて心配するレベルにないという意見で一致しよう。加えて昨今、コロナの状況が収まりつつあるなか、中小企業を中心に従業員をオフィスに回帰させる動きが加速しており、特に基準階面積で200坪程度までのオフィス床に関しては一部で複数のテナントから引きが来るなど、ポストコロナを見据えた動きが加速しているといえる。こうした状況は将来需要に一抹の不安を抱いていた投資家を安心させるに十分な理由といえよう。

②賃貸住宅と物流施設への投資が減少

続いて投資を行うセクターについて、2020年は前述の通りオフィス需要への先行きに不安があったこともあり、テナントの入れ替えが少なく、より確実なキャッシュフローを確保できる賃貸住宅や物流施設などへの投資がメインとなってきた。一方で多くの投資家が集まった結果、コロナ禍にあっても利回りが低下し続け、首都圏の物流施設は3%前半、都心部の賃貸住宅に至っては2%台にはいるなど、著しい利回りの低下を招いた。日本は世界において最も借入コストが低い市場ではあるが、下がりすぎた感もある利回りをレバレッジだけで正当化することが難しくなってきており、そこに投資対象物件の枯渇が影を落とすことで一層の利回りの低下が進み、ますます「限られた」投資家しか物件取得に踏み切れない市場になりつつある。こうした状況は多くの投資家の目線を、若干ながらも高い利回りを確保できるオフィスへと向ける理由のひとつとして存在していると考えられよう。

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③バリューアッド系投資家による投資が増加

都心部のオフィスに関しては想定していたほどの空室率上昇につながっていないものの、少し立地が劣る周辺部の大規模ビルのいくつかは、今後大きな空室が出る可能性がある。特に空室を許容しないJ-REITなどは、潜在空室がある物件を売却し、高稼働のオフィスをポートフォリオに組み込むなど入れ替えを進めている。こうした将来的に空きがでることが想定される物件においても、とりわけ「バリューアッド系」と呼ばれる投資家が興味を示し、実際に取得する事例が多くみられている。これまで高稼働なオフィスビルを中心に回っていたオフィス投資市場は、いわば「コア系」投資家の独壇場といえたが、こうした空室がある程度想定されるオフィスビルは、これまでのコア系に加えバリューアッド系の投資家にも投資機会を与えるものとなり、ひいてはオフィス投資市場全体の活性化につながっていこう。

2022年はオフィス投資の盛り上がりが期待される

こうした状況を踏まえると、これまで鳴りを潜めていたともいえるオフィス投資市場は2021年に入って一気に注目度があがり、その結果利回り水準はコロナ前と同等、あるいは物件によって一層の低下がみられるようになってきている。一方でいわば下がりすぎた感が否めない賃貸住宅や物流施設などに比べると、特にBグレードと呼ばれる中規模オフィスビルの投資利回りは、前述の2つのセクターに比べると若干ながらも高めの利回りを維持している。2022年にかけてコロナの状況が大きく変わることがあったとしても、オフィス床への需要にはそれほど影響しないことが想定され、こうした下支えが投資家にとっても安心材料となることで、オフィス投資の一層の盛り上がりが期待できよう。

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連絡先 内藤 康二

JLL日本 キャピタルマーケット事業部 リサーチディレクター

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