日本の不動産のグリーン化はパリ協定に間に合うのか?
日本の不動産のグリーン化の現状を把握するべく、資産規模上位15位内のJ-REITを対象にグリーンビルディング認証の取得状況を調査した。その結果、最高ランクの取得状況は1割強にとどまっていた。パリ協定の「1.5℃目標」達成に向けて、高ランクのビル認証取得を目指すことが脱炭素化に取り組む道標になろう。
J-REIT上位15法人が保有する国内不動産のグリーンビルディング認証取得状況を調査
日本は気候変動に関するパリ協定(The Paris Agreement on climate change)に基づくNDCにおいて、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で46%削減(50%削減努力)するという目標を掲げており、CO2排出量の約3分の1を占める不動産のグリーン化は重大な役割を担っている。
そこで、不動産のグリーン度を示す客観的な指標としてグリーンビルディング認証に着目し、J-REIT58法人のうち資産規模が上位15位以内の法人が国内に保有している物件を日本の不動産の認証取得状況を映し出す集合体のひとつと想定して、その認証取得状況を調べた*。
セクター別の取得状況
オフィスは他のセクターと比べてグリーンビルディング認証の取得が進んでおり、件数ベースで66%、面積ベースで81%、取得価格ベースで79%が何らかの認証を取得している
オフィス/リテール
オフィスは他のセクターと比べてグリーンビルディング認証の取得が進んでおり、投資法人によりCASBEEとDBJ-GBのいずれを重視するか差異はあるものの、件数ベースで66%、面積ベースで81%、取得価格ベースで79%が何らかの認証を取得している。リテールは件数ベースで43%、面積ベースで68%と、オフィスに比べて少ない。
物流施設
物流施設は件数ベースで48%、面積ベースで57%とさらに少ないが、国際認証であるLEEDを取得している物件もあるのが特徴的だ。また、物流施設については総合的な環境性能よりも省エネルギー性能の向上が急務とみられ、建築物の省エネルギー性能を評価するBELSを取得している物件が他のセクターと比べて圧倒的に多く、BELSも合わせると件数ベースで71%、面積ベースで85%となる。
レジデンシャル
レジデンシャルはCASBEE-不動産の運用開始が2021年版以降ということもあり、件数ベースで27%、面積ベースで53%。ホテルはCASBEE-不動産の適用外であり、DBJ-GB認証も2024年4月に運用開始されたばかりであることから、件数ベースで4%、面積ベースで13%にとどまっている。
図: J-REIT上位15法人の保有物件のグリーンビルディング認証取得割合 出所: JLL Japan Research, 2024年6月
最高ランクの認証取得は1割強に過ぎない
パリ協定の1.5℃目標の達成に向けて不動産の脱炭素化を加速させる必要があり、より厳格な認証制度においてより高ランクの評価を得られるような取り組みを進めることが一つの道標となろう
調査対象の15法人の多くは、保有物件の外部認証取得割合をKPIとして定めるなどグリーン化を進めつつあるが、それでも2024年6月時点でグリーンビルディング認証を取得しているのは全1,886物件の4割程度、最高ランク(LEEDのPlatinum、CASBEEのS、DBJ-GBの5★)の取得に至っては1割強に過ぎない。
また、15法人が取得しているのは主としてCASBEEやDBJ-GBといった国内認証であり、これらはLEEDほど取得難易度が高くないとされている。
パリ協定の1.5℃目標の達成に向けて温室効果ガス排出削減を実現するためには不動産の脱炭素化を加速させる必要があり、より厳格な認証制度においてより高ランクの評価を得られるような取り組みを進めることが一つの道標となろう。
【執筆者:JLL日本 リサーチ事業部 マネージャー 剣持 智美】
* 6月中旬に各法人のウェブサイトから取得した情報に基づく。上位15法人の国内保有物件総数はオフィス498件、リテール266件、ロジスティクス336件、ホテル139件、レジデンシャル647件の全1,886物件。面積は延床面積の物件と貸床面積の物件が混在しているため参考値である。
なお、JLLではグリーンビルディング認証の国内取得状況を調査している定期レポート「サステナビリティマーケットサマリー」をはじめ、事業用不動産や世界の不動産市場に関する様々なレポートを配信しています。ご興味のある方は下記よりご覧ください。