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高賃料・早期リースアップを実現するリーシングマネジメントとは?

不動産オーナーの専属コンサルタントとしてリーシング戦略の立案から実際のテナント誘致まで担う「リーシングマネジメント」。ファンドや一般事業会社など、オーナー属性が多様化したことでその存在感が高まりつつある。従前、空室の埋め戻しが難しい場面などで、オーナーや管理会社に代わってリーシング活動を委託されることが多かったが、オフィスマーケット活況時でもリーシングマネジメントに対するオーナーの期待は大きい。

2020年 05月 28日

リーシング活動を外注するオーナーが増加

不動産オーナーとテナントの間に立って賃貸借契約の成立に向けて尽力するオフィス仲介とは異なり、不動産オーナーから委託され、テナント誘致や賃貸借契約の管理等を専門的に行うのが「リーシングマネジメント」だ。

テナント側の専門コンサルタントとしてオフィス戦略を包括的にサポートしてきた「テナントコンサルタント」とは対極に位置する。日本ではその歴史はまだ浅いが、賃貸オフィス市場においてその存在感は徐々に高まっているのだ。

実務的ノウハウを持たないオーナーがリーシングマネジメントを起用

背景にあるのは、不動産市場におけるオーナー属性の多様化だ。リーシングマネジメントに詳しいJLL日本 関西支社 リーシングマネジメント 塩見 沙織によると「従前、オフィスビルのオーナーといえば不動産会社やデベロッパー、専業の個人オーナーが中心。自社物件へのテナント誘致活動や契約時の交渉、物件管理などを自ら手掛けていたが、近年はファンドや一般事業会社など、不動産に関わる実務的なノウハウを持たないオーナーが増えており、リーシング活動をアウトソースする動きが強まっている」という。

 

リーシングの専門家が長期空室を埋め戻す

リーシングマネジメントを活用することで、より戦略的なリーシング活動を展開することが可能になる。活躍の場面は多岐にわたるが、「長期空室の埋め戻し」が顕著な例といえるだろう。

例えば、オフィス市況が悪化している状況下で、1棟借りの大口テナントが退去することになったとする。この場合、オフィスビルの賃料収入は0になり、オーナーはできるだけ早く空室を埋め戻したいところだ。しかし、オーナー側の人材不足やリーシングに関するノウハウ不足、オフィス仲介会社とのリレーションが脆弱などの諸事情から、なかなか空室が埋まらない。こうした状況になって初めてリーシングマネジメントが起用されることが多いのだ。

ただし、オーナー(投資家)が起用しているアセットマネジメント会社(AM)やプロパティマネジメント会社(PM)がリーシング活動を主導するケースもあり、見方を変えればこれらも「リーシングマネジメント」といえる。だが、AMやPMは資産管理や物件管理などの主業務に忙殺され、リーシング活動に人員を割くことができない場合もある。本稿ではオーナーのみならず、AMやPMからの要請を受けてリーシング活動に特化したサービスを提供する事業者を「リーシングマネジメント」と定義した。

 

活況時もリーシングマネジメントの需要はある

大区画で空室が発生し、オーナーが苦慮する場面。どちらかといえばオフィス市況が低迷している状況下だ。そのため、リーシングマネジメントの需要が高まるのも市況悪化時期と考えられ、塩見によると「事実、オーナーからの相談も増える」という。半面、市況が良ければ特段手当をせずとも空室は埋めやすく、賃料のアップサイドも狙いやすいので、リーシングマネジメントを起用する必要がない。

では、好調なオフィス市況下においてはリーシングマネジメントの出番はないのかといえば、そうではない。好況下でリーシングマネジメントを起用する目的が2つある。

1つはテナントの入れ替えによる賃料のアップサイドを狙うケースだ。昨今の賃貸借契約は普通借ではなく定借がスタンダード。契約期間が満了すれば普通借のように自動的に契約更新がなされるわけではなく、同じテナントでも新たに契約交渉が行われる。入居時の賃料水準と現状の相場を比較して賃料のアップサイドが見込める場合、リーシングマネジメントを起用してより高額な賃料を負担してくれるテナントに入れ替えようとオーナーは考えているのだ。

もう1つは、オフィス市況が好調であるにもかかわらず、空室が長期化しているケースだ。築古・駅遠・高賃料な物件は言うに及ばず、不整形、柱や耐震壁が室内に悪目立ちする床などは不人気だ。

また、天井高が「ありすぎる」物件も簡単にテナントが決まらない。天井が高いと開放感があるが、快適な室内環境を維持するためにはより多くの空調設備が必要になり、照明や空調のメンテナンスにも労力がかかる。かといって建築基準法に定められた床面積の関係から中二階を設けるなどのバリューアップも難しい。

このようにAグレードオフィスの空室率が1%を下回る現在のようなオフィス市況でも大きなマイナス材料があるオフィスビルは空室が長期化しやすいのだ。

東京オフィスマーケットレポート2020年1月を見る

 

ニッチな需要を開拓したリーシングマネジメント事例

塩見のもとにオーナーからリーシングマネジメントについて相談が寄せられた空室物件は特殊な設備かつ用途の制限がある物件だった。立地は事務所のニーズが少ないエリアで、一般的な事務所貸しとしてだけではテナントが見つかりにくい。これまでと同様のリーシングでは手を尽くした感があり、単独で埋め戻すことに不安を抱えていた。

塩見は「集客効果があるテナントを誘致したい」というオーナーの意向も汲み取り、特殊な設備を最大限生かせるスポーツ系やエンタメ系のテナントにターゲットを絞ったリーシング戦略を提案。当該テナントから見れば「特殊な設備」はマイナス材料ではなく、むしろ事業活動に最適な条件となり、彼らのお眼鏡にかなう数少ない優良物件だ。このリーシング戦略が奏功し、見事テナント誘致に成功した。

このようにニッチな需要を開拓し、空室の埋め戻しのみならず、オーナーの意向に沿ったテナントをダイレクトリーシングできたのはリーシングマネジメントならではの手腕といえるだろう。

 

専属専任、PMとの違いは「リーシングのスキル」

 

「オーナー側に立つ」という意味では、オーナーと専属専任媒介契約を結んだ仲介会社や、オーナー保有物件を管理運営するPM会社とリーシングマネジメントは同じ立場であるように見受けられるが、その違いは何か。塩見は「専属専任の仲介会社やPMとの違いは柔軟な対応力とリーシングのスキルの差」と断言する。

専属専任媒介契約を結んだ仲介会社が当該物件のリーシング活動を独占的に実行する。オーナーがテナント候補を見つけてきても仲介会社を通して交渉することになり、他の仲介会社を起用することができないオーナーは臨機応変に対応することができない。一方、PMは物件管理が本業であり、必ずしも効果的なリーシング活動を展開しているとはいえない。

これに対してリーシングマネジメントは文字通り「リーシング」に特化した様々なノウハウを駆使してオーナーの要望に沿った形でテナント誘致を進めるのが最大の特長となる。塩見は「例えば内覧会開催時に物件の魅力を際立たせる案内の手順、訴求力のある物件資料の制作、物件パネルの効果的な使い方、さらに目的や内容を明確にしてオーナーが異なる複数の物件で内覧ツアーを企画するなど、一般的なオフィス仲介とは一線を画す高度なリーシング戦略を駆使できる」と自信を覗かせる。

今や競合となるオフィスビルが多数存在し、働き方が多様化する中、テナントのオフィス戦略は移転先の選定のみならず、外部共用オフィスやリモートワークの活用など、多数の選択肢がある。そうした状況において、従前のようにオーナーが独力でリーシング活動を展開していくには人的・時間的に限界がある。オーナー専属のコンサルタントとしてリーシングマネジメントへの期待はこれまで以上に高まっていくはずだ。

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