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民法改正で賃貸借契約はどう変わる?

民法改正は、2017年6月2日に公布され、2020年4月1日に施行される。民法第93条から民法第637条と広範囲に改正が及ぶが、賃貸借契約で押さえるべき主な事項について解説する。これらは、賃借人側にとっては有利になる可能性の高い項目である半面、賃貸人側が軽視すると「時限爆弾」となる可能性がある。

2020年 02月 25日

滅失等による賃料減額と契約解除

2017年6月2日に公布された民法改正の施行日が目前に迫ってきた。その多くは連帯保証人の保護や敷金返還の義務化等、主要な改正点についてはネットで検索すれば当該記事は簡単に見つけられるものの、賃貸借契約において見逃せない項目が存在することにはあまり詳細が語られていないような印象を受ける。

JLL日本 リーガル アンド コンプライアンス部 リーガルカウンセル 田中 靖崇は「今回の民法改正は、賃貸人側・賃借人側のどちら側に立つかによってメリットとデメリットが生じる項目が存在し、慎重に検討する必要がある。民法改正後に契約締結する賃貸借契約については改正民法を見据えて交渉するべきだ」と指摘。民法改正について理解を深めるべきだと警鐘を鳴らす。

特に、賃貸人(建物オーナー)にとっては放置しておけば大きなトラブルに発展しかねない項目が存在するのが今回の民法改正の特徴といえるだろう。その1つが民法第611条である。賃借物の一部が、「滅失その他の事由」によって使用・収益できなくなった場合について規定しており、賃貸人にとっては見過ごせない内容となる。以下、改正前と比較しながら説明する。

【改正前】

賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等

第611条

  1. 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。
  2. 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

【改正後】

賃借物の一部滅失等による賃料の減額等

第611条

  1. 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
  2. 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

本改正により注意が必要なのは「収益をすることができなくなった場合」の解釈だ。水害や台風などの影響で貸室の一部がその用途の使用に耐えられない状況となった場合「収益をすることができなくなった場合」に該当するのかどうかである。つまり、この「収益をすることができなくなった」ということに関して、改正民法施行時点では、判例もなく、どのような解釈がされるのか不明瞭な状態となる恐れがある。例えばではあるが、賃貸人および賃借人の双方に帰責性なく、対象の貸室は滅失していないものの水害等により貸室内にある倉庫の湿度が賃借人の商品を保管するのに適さない状態となり、カビが発生するため、賃借人が必要とする倉庫の用途で使えなくなり「在庫を保管する倉庫が使用できなくなり『収益をすることができなくなった』ため、賃料の減額ないし、賃貸借契約を解除する」と、賃借人が言い出す可能性さえある。

田中は「貸人側に立って考えた場合、この曖昧さを残さないように明確な条件を設定、または民法第611条を排除するメリットがあるものと考えて排除する特約を賃貸借契約書に追記することを検討する必要がある」との見解を示す。

半面、賃借人側からの退去交渉や賃料減額交渉の根拠となる可能性があり、民法第611条は賃借人が主張する上で有利となり得る。

修繕・保守義務

改正民法第607条第2項も注意すべきポイントとなる。今回の改正では賃貸人が賃貸区画以外の共用部分等を修繕しない場合で、且つ一定の条件を満たす場合は、賃借人にて修繕ができることが明文化された。具体的には、賃借人が賃貸人に対して修繕・保守の必要がある旨を通知したにも関わらず、賃貸人が修繕をしない場合や急迫の事情がある場合、賃借人が資産区分上、賃貸人の資産に属する物に対しても、賃貸人の意向を考慮せず、修繕等をすることができることになる。

一見当然の規定のようにも思える本条であるが、賃借人にて賃貸人の資産に対して賃貸人の意向等が反映されないまま修繕・保守が実施され、賃貸人が望まない機能や性能まで付加された結果、賃貸人は賃借人より高額な修繕費用のみを請求される可能性がある。

改正民法を見据えた交渉と提案

今回の民法改正を精査すると、賃貸人にとって場合によっては不利に働く項目が存在することがわかる。前述した2つはその一部に過ぎず、「賃貸借契約のプロ」である宅地建物取引士すべてが民法改正について精通しているとは必ずしも言い切れない。

田中は、「賃貸人側と賃借人側の両者にサービスを展開しているJLLにおいて、民法改正について様々な角度から分析し、それぞれの立場に立って賃貸借契約の内容を確認し、クライアントにとってベストな提案をすることが可能」と述べている。

賃貸人、賃借人は民法改正について仲介会社、管理会社等へ質問することで、その実力を測り、クライアントファーストを実践するパートナーを見つけるべきだろう。

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