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コロナ禍で苦境に陥る地方商業施設の再生に何が必要?

少子化や電子商取引(eコマース)の台頭、郊外型ショッピングセンターとの顧客獲得競争など、地方の商業施設を取り巻く厳しい環境にコロナ禍が拍車をかける。地方経済の「顔」ともいうべき中心市街地の商業施設を再生するためには社会構造の変化に対応したリニューアルが必要不可欠だ。

2020年 11月 25日

JLL、地方商業施設の再生事業を受託 

JLL日本は2020年10月、北九州市の「小倉駅前アイム」と徳島市の「アミコビル(徳島駅前再開発ビル)」の再生リニューアルコンサルティング業務と開業後のプロパティマネジメント業務を受託したことを発表した。共通するのは「地方」、「駅前」、「大型商業施設」の再生事業であることだ。 

地方の商業施設を取り巻く厳しい環境 

少子高齢化による若年層の減少、電子商取引(eコマース)市場の拡大による実店舗ニーズの低下、郊外に開発される大型商業施設との顧客獲得競争、交通インフラ整備に伴い広域圏での顧客誘致競争の激化など、かつての「地域一番店」を取り巻く環境は厳しさを増している。 

また、実店舗が「買い物だけの場」ではなくなり「商品を体感する場」へとシフトしつつある点も見逃せない。消費者は実店舗に足を運び、五感で商品を確認するが、気に入ったものがあれば最安値で販売する店舗をインターネットで検索し、スマートフォンで購入するといった消費動向も商業施設の苦戦に拍車をかけている。 

その結果、コロナ禍以前から売上減に直面していたアパレル大手等が店舗戦略の見直しを図り、都心部に比べて収益性が落ちる地方の商業施設から撤退。空き床が目立つようになる。 

そして、訪日外国人観光客の増加で都市圏の商業施設は多大な恩恵を受けたものの地方までは波及せず、逆にコロナ禍によるインバウンド激減で苦境に陥った大手百貨店等が撤退するなど、まさに「受難の時代」が訪れている。 

地方の商業施設をいかに再生するか 

中心市街地や主要駅前に位置する大型商業施設は地域経済の象徴的な存在だ。その影響は雇用が失われるだけではない。閉店・撤退によって駅前立地でありながら人通りが減り、「廃墟」となった大型建物がそのまま放置されることで治安が悪化。街の「灯」が消えたようなマイナスの印象を与える。撤退が続く地方の商業施設をいかに再生するか、多くの自治体が頭を悩ませている ことだろう。 

一般論となるが、再生に向けてまずは地域を取り巻く環境の変化を考えるべきだろう。例えば、都会へ若年層が流出する一方で高齢者層が増えているが、生涯学習としての各種教育サービス業やコミュニティ参画に寄与する施設等、高齢者のニーズを取り込む施設づくりは効果的な再生手法となるだろう。また、地方に留まる若者世代に人気のサブカルチャー関連のテナントは地方では希少価値があり、広域で集客効果を図れるため、若者の流出を防ぐ要因にもつながる。 

地域が置かれた状況や社会環境の変化によって商業施設に求められるニーズは大きく変化する。こうしたトレンドをうまくつかみ、施設づくりを行うことが地方商業施設を再生するためには必要不可欠だ。 

商品を陳列していれば売れる「モノ消費」の時代から、商品やサービスを購入することで得られる「体験」に価値を見出す「コト消費」の時代へと移り変わろうとしている。 従来通り、女性向けのアパレルを中心としたテナント構成に固執する商業施設はこれまで以上に苦戦を強いられるだろう。 

デイリー性と体感・体験を追加するアミコビル 

JLL日本が再生リニューアル業務・プロパティマネジメント業務を受託した2つの施設 は主要駅前に立地し、元々は百貨店が営業していたことが共通する。ともに女性アパレルを中心としたテナント構成だが、社会的構造の変化に適応するべく、リニューアルでは施設全体のコンセプトを大きく変える方針だ。 

JLL日本 不動産運用サービス事業部 リテールグループヘッド 兼 JLLモールマネジメント 代表取締役社長 飯尾 太一は「新しい体験を通じて来館を促すべく施設コンセプトを一新する」との考えを示している。 

「アミコビル」は日常の利便性向上を促す「デイリー性」と来館者に楽しんでもらうための「体感・体験」という新しいコンセプトを加えることで、既存顧客の満足度向上と広域圏からの新規顧客の開拓を目指すという。 

「例えば、小規模店が軒を連ねる横丁をイメージしたフードコートや、シニア層向けに趣味を通じた憩いの場、広域から若者世代を誘致するサブカルチャーやアウトドア関連施設など、フロアごとにコンセプトが異なるリニューアルプランを検討している」(飯尾) 

商業専門から複合施設を目指す小倉駅前アイム 

一方、複数の専門店が出店していた「小倉駅前アイム」は「商業専門ビル」から「買う・遊ぶ・働く・集う・食べる」という複数の機能を備えた複合施設へのリニューアルを想定している。 

リニューアルプロジェクトを推進するJLL日本 不動産運用サービス事業部 リテールグループ 共同代表 坂本 誓太によると「従前は商品を買う『モノ消費』に特化していたが、JR小倉駅前に立地するシンボリックな施設であるため、買い物だけでなくワンストップで楽しめる施設を目指している」という。 

商業フロアのみならず、コワーキングスペース等のオフィスゾーンを開設する等、企業誘致やSDGs(持続可能な開発目標)に注力する行政との連携も視野に施設づくりを行っていく考えだ。坂本は「地元と一体になって『街をつくる』ことを重視してリニューアルを行っていきたい」と抱負を語っている。 

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コロナ禍で岐路に立つ商業施設 

地方商業施設の苦戦はコロナ以前から続いていたが、コロナ禍は人々の生活環境を激変させ、それに伴い商業施設の今後のあり方も大きく変えそうだ。 

中国で実施された買い物市場調査によると、新型コロナによる自粛によって馴染みの商業施設に行くことができなくなった代わりに新しい店を開拓した人が3割に及んだという。コロナ禍を機に買い物客の流動性が高まったことを意味している。 

ワクワク感を提供する商業施設のリニューアル

飯尾は「そのため、商業施設に行くための確固たる動機を作りこむ必要があり、中でも注力するべきなのが施設の魅力となるエンターテイメント性」と力を込める。魅力的な施設のコンセプト作りはもとより、施設内で実施する集客イベントにもさらに作り込みが必要になることが予想される。withコロナ・afterコロナ時代の商業施設は一大エンターテイメント施設として、テーマパークのような「ワクワク感」を提供していかなくてはならない。

例えば、共用部をより効果的に活用して買い物客の滞在時間を伸ばす他、施設全体の陳腐化をいかに防ぐかが重要だ。飯尾は「投資家は商業施設の保有期間に応じてリニューアルをどのタイミングでやっていくのか、テナントの内装工事負担金やハード面の投資コスト、テクノロジーを活用した新しい買い物体験を実現するための投資コスト等をどうするかを再検討する必要がある」と指摘する。

こうしたリニューアルを継続的かつ効果的に実施することが、今後も消費者に支持される実店舗を形作ることになりそうだ。

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