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地方の商業施設をいかに開発・再生すべきか

地方経済の象徴的存在ともいえるショッピングセンター(SC)が苦戦するケースが現れ始めている。。このような現状を打破する地方商業施設の開発・再生手法を例に再生の道筋を導き出してみたい。

2018年 02月 08日

社会環境の変化が著しい地方都市

地方都市に存在するSCが苦戦する理由は社会的な環境変化が大きな要因だ。少子高齢化による若年層の減少、Eコマース市場の拡大による実店舗のニーズ低下、そして郊外で開発される超大型商業施設との競争…。既存SCの不振を招いた要因は多岐にわたるが、特に少子化による若者世代の減少はSCビジネスの在り方そのものに疑問を投げかける。JLLモールマネジメント代表取締役社長 飯尾太一は「既存SCのテナント構成はアパレルが中心。女性の購買力を頼りにしたMDを主流としていたが、こうしたテナント構成は通用しなくなっている」と指摘する。かつては物販店舗と女性用衣料販売店がテナントの8割強を占めていたが、現在は5割以下に低下するなど、その勢いには陰りが見える。これまで主要なテナントとしてSCを支えてきたが、売上が伸びずに撤退し、別の店舗を誘致することも難しくなっているのだ。

飯尾は「実店舗の需要はバブル崩壊前の1997年頃がピーク。以降の長期的な景気低迷によって商業施設の運営は全般的に『冬の時代』を迎えた。加えて、不動産マーケットの観点から見ると、かつては小売業自ら施設を開発し自店運営をしていたが、ユニクロやIKEAなどのカテゴリーキラーが台頭し自店運営区画を部分的に専門店への賃貸借として切り替える事を余儀なくされた。その結果、館の集客力低下が不採算店舗の閉鎖・撤退に直接の影響を及ぼすようになり、また自ら集客力のあるテナントは賃料の安価なロードサイドへ単独進出するケースも多々見受けられる。商業施設の魅力付けはより難しい時代となった。安定しているのは都市部の一等地に存在する商業施設だけ」と昨今のリテールマーケットの厳しさに言及する。

現状を打破する地方商業施設の開発・再生手法とは?

来客数の減少はおのずとテナントの収益低下に帰結する。その結果、テナントの退去が続き、埋め戻しも困難になる。まさに「負の連鎖」だ。こうした苦境に陥った商業施設をいかに開発・再生させるか。JLLグループのリテール開発・再生手法を例に再生の道筋を導き出してみたい。

課題や潜在的なニーズを把握するためのマーケット調査

第一に実施するのはマーケット調査だが、単純に商圏内の情報を集めるだけでなく、戦略の立案に至らなければ意味がない。立地、交通、人口、競合、エリア特性を把握し、次に来店客へのアンケート調査やウェブアンケートによる定量的なニーズを調査する。対象施設の現状を分析し、商環境や動線計画等のハード面からの施設が抱える課題を抽出していく。現時点で何が欠けていて何が優れているのかを見極めることが重要だ。そしてグループインタビューを実施し定性調査による利用者心理分析から消費行動の潜在的なニーズを把握していく。これらの数値データや消費者心理を把握したうえで戦略を立案し、テナント構成やリニューアル等の再生プランを検討していかなくてはならない

地方商業施設の来店客の変化を理解し、ニーズに沿うテナントを誘致

具体的な再生手法として、まずは来店客の変化を考えるべきだろう。前述した通り、若者世代は減少している一方、高齢者層は増えている。高齢者向けのサービス業を誘致するのは効果的だ。飯尾は「高齢者層は購買力が高い。自己研鑽や健康への関心が高く、コミュニティへの参画意欲も旺盛」と分析する。生涯学習としてのピアノ教室やダンス教室等の教育サービス、医療クリニックへの需要が見込める。また食料品は必須だが、独居高齢者に対応して少量多品種な品揃え、配送サービスを充実させる必要もある。一方、老若男女を問わず体験型エンターテイメント施設のニーズが高い。SEGAやキッザニアに代表されるような室内型アミューズメント、共用部の有効利用として芸術鑑賞や体を動かす健康促進機能を持たせてもよい。長時間施設に滞留していただくことで施設全体の賑わいや活気を演出することも可能になる。また、地方に留まる若者も一定数存在する。そうした若者世代に人気を博すゲームやコスプレ、サブカルチャー関連のテナントを誘致することも効果的だ。秋葉原など都心部でもごく一部のエリアしか存在せず、地方では存在自体が貴重だ。より広域で集客効果を図れるのだ。

I行政、地域を巻き込んだ取り組みを- 地方商業施設の再生

ここまでは建物単体での再生手法となるが、大規模なリニューアル工事が必要になるケースが多々あり、事業主にはコスト負担が求められる。そもそも苦戦していながら多額のリニューアル費用を捻出できる商業施設は限られる。仮にリニューアル工事が難しい場合はどのように開発・再生するべきだろうか。飯尾は「足元の商圏からより広範に視野を広げるべき」との認識だ。インバウンドの誘致、行政と連携し、施設自らが集客を図ることも重要だ。JLLリテールグループは昨年インバウンド・アウトバウンドを対象とした戦略として海外顧客戦略チームを組織したが、これは国内外のランドオペレーターとタイアップし、特定の商業施設をツアーの一部に組み込み送客する取り組みだ。また、行政に働きかけて商業施設の周辺に存在する観光資源を活用して地域一体で集客力を高める取り組みも行っている。具体的な事例として、開業から数年が経過し空き区画が目立ち始めた地方都市の商業施設が挙げられる。JLLリテールグループが実施したマーケット調査の結果、建物単独での再生は困難と判断されたケースだが、飯尾によると「施設の目の前に存在した観光バスの停留所に着目し、インバウンド専用の飲食店や免税店などを誘致した他、アニメ・ゲーム関連ショップやコスプレショップ等、サブカルチャーの発信拠点とし、国内外の観光客をターゲットにしたテナントを誘致した」ことで見事再生に成功した。また、大手GMSが施設全体の50%の面積にあたる部分を解約した際に、行政の助言や交渉を経て空区画に地域住民が利用できる大型の人間ドック兼クリニックの誘致に成功、ドラッグストアやクリニック関連テナントの誘致も促進され入居率100%を実現できたケースもある。

大規模商業施設「SAKURA MACHI Kumamoto」の開発事例を見る

 

IT化でハイブリッド施設誕生- 地方商業施設の再生

これまでJLLリテールグループが手掛けた再生事例を振り返ったが、飯尾は「再生が必要な商業施設は全国に多数存在しているが、従前通り女性向けのアパレルを中心としたビジネスモデルに固執している施設はまだまだ多い」との見解を持つ。地域や社会環境によって商業施設に求められるニーズは多様化する。トレンドをうまく掴み、施設づくりに生かすことが肝要になる。例えば、Eコマース全盛の今、実店舗とインターネットショップの融合が進められている。インターネットショップの欠点は実際に商品に触れられないことだが、例えば実店舗に商品の見本を一斉に展示し、気に入った商品があればスマホ等でQRコードを読み取り、インターネット経由で商品が直接配送されるという「IT化」を活用した店舗運営がすでに実施されているが、今後ますます実店舗の役割というのは変化していくと考えられる。

苦戦が続く商業施設の多くは従来のビジネスモデルに捉われ「ガラパゴス化」し、いずれ淘汰される。時代のニーズに対応しなければ厳しい競争は勝ち残れない。

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