日本企業が海外進出する6つのメリット・デメリット
経済成長が著しい新興国など、事業成長を目的に海外進出を目指す日本企業が増えている。本稿では、日本企業の海外進出時におけるメリットとデメリット、海外進出を成功するためのポイントについて紹介する。
海外進出を目指す日本企業が増えている。少子高齢化による市場の縮小、低空飛行する賃金上昇率、将来的な国内消費の低迷等が予想される日本とは異なり、人口増加や賃金上昇が著しい新興市場へ参入することで、さらなる事業成長を見込んでいるためだ。
特に若年人口の急激な増加や経済発展による消費購買力が向上しているアジア新興国は今後の経済発展が期待され、日本企業の海外進出地として大いに注目を集めている。
日本企業が海外進出する6つのメリット
日本企業が海外進出するにあたり6つのメリットが挙げられる。
1. 販路拡大
日本企業が海外進出する最大のメリットが販路の拡大だろう。少子高齢化で生産人口が減少している日本とは異なり、東南アジアやアフリカ諸国では人口が増加し、経済発展も著しく、購買力の高い中間層も増加傾向にある。特に東南アジアは地理的に日本からも進出しやすく、ビジネスチャンスと捉える企業は多い。2000年代初頭あたりから経産省等で当該エリアの新中間層獲得戦略に関する議論がなされ、現在に至る。
2. グローバル競争に向けての先行者利益
海外に注目する企業が多い中で、文化や商習慣の違いから海外進出に二の足を踏んでいる企業はまだまだ少なくない。そのような状況下、いち早く海外進出を果たすことによって、これからのグローバル競争において先手を打つことができる。また、海外で事業活動する経験・ノウハウは、今後の新規事業の開発等においても大きな財産となりえる。
海外で事業活動する経験・ノウハウは、今後の新規事業の開発等においても大きな財産となりえる
3. 原材料費の削減
日本よりも原材料費が安価な国があり、製造コストを大幅に削減できる可能性がある。生産拠点として海外進出を検討しているケースではより多くの購買層を有する進出地を選択することで原材料費の削減のみならず、収益向上が図れる。
4. 人材確保
日本企業の中で人件費に頭を悩ませる経営者が多い中で、人件費の削減が見込まれる新興国への進出はコスト削減が大きなメリットとなる。特に日本では少子高齢化によって人材獲得競争が激化。特にIT業界ではエンジニアを確保するのが難しくなっており、ベトナムやインドなど、IT人材が豊富な新興国へオフィスを開設する日本企業も存在する。
5. 新規事業の開発
海外進出によって、新しい文化や商習慣の中で事業に取り組むことになり、その経験やスキルを積み重ねる中で新規事業の開発につながる可能性がある。現地スタッフの意見には日本国内から出てこない発想やアイデアも多い。進出先で新しいアイデアを活かしていくことはもちろん、日本国内でも新しい市場を開拓するきっかけにもなりえる。
6. インセンティブ
経済発展を目指すインド、タイ、マレーシア、インドネシア等では、経済特区が設けられ、海外企業の進出に対して法人税の減税、優遇措置等のインセンティブが付与されるケースもある。
日本企業が海外進出する6つのデメリット
インセンティブを活用する等で海外進出時のコストを大幅に削減できるケースもある
海外進出にはメリットだけではない。6つのデメリットを紹介する。
1. 言語や文化、商習慣の違い
日本企業において大きな障害となるのが言語といわれている。特に東南アジア諸国をはじめ、非英語圏への海外進出を検討している場合には現地スタッフとのコミュニケーションが課題となることが多い。
また、日本とは文化や商習慣の違いが大きく、日本式の事業活動にこだわると現地市場で大きな反感を生む原因になりかねない。
2. 人材確保や雇用維持の難しさ
経済成長に伴い賃金水準も急激に上昇している国もあり、転職先も豊富にある中、現地での人材確保が難しくなってきている。魅力的な賃金を提示するのみならず、職場における快適性の確保やコミュニケーションを深めるなど、現地の文化を十分に理解しておくことが、雇用を維持するためには必要になる。
3. 現地の情報が不足している
海外進出の検討を始めるために、まずはインターネットによって現地情報を収集することが第一歩になる。しかし、不正確な情報や古い情報がネット上に現存しており、十分に精査することが重要だ。最終的には現地での情報収集が必要になるが、現地ネットワークが不足していると情報がつかみにくい。
4. 海外進出のための初期コスト
海外進出するためには、国内での事業展開にはみられない初期コストが発生する場合がある。進出計画を策定する段階においては綿密な調査が必要となり、進出地が決定してからも法人設立や設備費用、拠点の建設費用、オフィスの賃料、人材採用、コンサルタントの利用など、多くの費用が必要になる。
初期費用はできるだけ削減させたいものではあるが、海外進出を成功させるためにはある程度の投資は必要になる。ただ、インセンティブを活用する等でコストを大幅に削減できるケースもある。
5. 政治・自然災害リスク
時に日本では信じられないような政治的な混乱が生じることがある。例えば、クーデター等によって政権が一変してしまうケースや、新たな法律が施行され突然規制が強化されるようなケースが考えられ、外国企業に対して逆風になることも考えられる。そのため、政治や法律等の観点も検討材料になる。
また、日本においても地震や台風など自然災害の影響は少なくないが、海外においても自然災害リスクがある。日本のように建物の耐震性強化などBCP対策が十分でないケースも多い。新型コロナウイルスのような新たな感染症が蔓延するリスクもありえる。
こうしたリスクは予測するのが難しいが、何らかの事態に直面しても従業員の安全を確保するためのリスク対策を念頭に置いておくことが重要だ。
6. 為替の急激な変動
為替レートの変動によって、それまで利益が出ていたとしても赤字に転落してしまう可能性も考えられる。取引銀行を通じて契約時点での為替レートでの為替予約によって、ある程度のリスクを回避することは可能ではあるものの、為替リスクは常に念頭に置いておくべきだろう。
海外進出した日系ヘルスケアメーカーの成功事例
多角的な視点から調査・分析を実施し、同社事業に最も適した不動産戦略を導き出すことに成功
上記のように、未知なる国への進出は多くのリスクが伴うが、そのデメリットを大きく超えるメリットを享受できる可能性がある。海外進出を成功させるための第一歩は現地調査に他ならない。JLL日本はインド進出を検討する日系ヘルスケアメーカーから製造拠点の開設にむけて、物流・労務・仕入先・不動産を含めた包括的なマーケット調査及び候補地選定のプロジェクト業務を受託し、JLLインド法人と連携し、多角的な視点から調査・分析を実施し、同社事業に最も適した不動産戦略を導き出すことに成功した。
まとめ
海外進出には、市場拡大やコスト削減など様々なメリットがある半面、言語・文化・商習慣の違い、政治や地理的なリスクなどデメリットも存在する。
そのような中で、海外進出を成功させるには、現地での市場をしっかりと把握するようにし、文化や商習慣にあった戦略が必要だ。だからこそ、メリットとデメリットのバランスに着目しながら、じっくりと検討を重ねていかなければならないだろう。
JLLは世界80カ国で事業展開するグローバルネットワークを駆使し、現地の情報を熟知したJLL地域法人と協働し、海外進出先の検討から不動産の探索、拠点構築までの現地展開を一貫してサポートする日本企業の海外進出支援サービスを提供している。海外進出という一大事業を成功に導くためには現地の内情に精通した専門家を起用することも重要だ。