海外進出を目指す日本企業が知っておくべき手順と注意点
低成長が続く日本経済。販路拡大や人材確保など、様々な理由によって海外に活路を見出そうと考える日本企業が増えている。海外進出を成功させるために何が必要か、その手順と注意点を解説する。
海外に目を向ける日本企業
低成長が続く日本経済。販路拡大や人材確保など、様々な理由によって海外に活路を見出そうと考える日本企業が増えている。とはいえ、国内とは異なり、縁もゆかりもない海外へいきなり進出するのは様々なリスクがある。当該企業にとって海外進出は本当に有益なのか、まずは十分に検討を重ねることが肝要だ。海外進出のために必要な検討事項や、意思決定などのプロセスを十分に把握しておく必要がある。
海外進出の意思を明確にする
海外進出を成功させる最善の方法は「周到な準備」であるといわれている。準備に取り掛かるためには、海外進出が本当に必要なのか意思を明確にし、海外進出でのリスクを克服できるかどうかが大きなポイントとなる。では、どのような点を留意すべきなのだろうか。
海外進出する必要性を明確にする
- 自社商品やサービスの販路拡大
- 新しい市場の開拓
- 生産拠点の移動によるコスト削減
- 資材や原材料の安定供給
- 優秀な人材の獲得
そもそも国内での事業展開ではなく、海外進出を選択する必要性がどこにあるのだろうか。海外進出を志したきっかけは企業によって様々だろうが、自社にとっての必要性を明確にすることが成功への重要な鍵となる。
一方、上記にまとめた海外進出の必要性が明確化されたとしても、海外進出に伴うメリットとリスクの双方を天秤にかけて深く検討する必要がある。本当に海外進出しなければならないのか、国内展開では駄目な理由があるのか、コストパフォーマンスが見合っているのかなど、必ず確認しておきたい。
海外進出のリスクを克服できるのか
- 言葉・コミュニケーションの問題
- 習慣や文化の違い
- 現地の情報不足
- 人材確保が困難
上記に挙げた項目は、海外進出した多くの日本企業にとって避けては通れない課題といえるだろう。海外進出は国内での事業展開と同じようには進まない。活路を見いだせると期待していた新天地でも思うような結果に結び付かないケースも多い。だからこそ、このような課題を織り込みながらも海外進出するメリットがあるのかを明確にしておくことが重要だ。
海外進出への目標を定め、計画を立案する
海外進出への意思が明確になったのであれば、目標を定め、計画を立案して取り組むことが重要になる。海外進出する目標として、売上やシェアの拡大などが挙げられる。
ただ、海外進出するためには、多くの資金を投入する必要があり、また多くの人材を現地に派遣、もしくは雇用しなくてはならない。
海外進出への目標
海外進出への大きな目標は、海外市場へ参入することによる売上や純利益の獲得、シェアの拡大であることが一般的だ。さらには、進出後数年以内に投資コストを回収することも考えられる。
日本の商品やサービスは品質が高いとされ、海外においても注目される可能性は十分にある。しかし、文化や習慣の違いによって海外市場で受け入れられない可能性もありえるし、市場が飽和し、すでにレッドオーシャン化している可能性も考えられる。そのため、マーケティング戦略から新たな目標を再定義することも重要になる。
海外進出計画の立案
計画を立案するにあたって、売上目標と達成時期を明確に定めたうえで、下記項目を検討する。
- スケジュール
- 進出国の検討
- 進出形態の検討
- リスクやトラブルへの対策
- 人材確保
- 資金調達方法
まず「スケジュール」を明確にすることによって、緊張感やスピードを持って検討を進めていくことが可能になる。同時に事前調査によって進出先の候補をいくつか掲げ、自社事業の進出が可能なのか確認し、法規制のみならず、政治や経済の安定性、人件費に対する労働者の質なども調査しておく。
また、進出先の現地法人として進出するのか、国内本社の支店とするのか、あるいは駐在員事務所として機能させるのか、進出形態についてもメリット・デメリットを踏まえたうえで検討することが重要だ。
さらには、リスクやトラブルについては十分に事前調査しておく必要があり、またそれらを踏まえて人材確保の具体的な方法や資金調達の方法についても検討しておかねばならない。
海外進出を漠然と考えている状態では、何をどのように進めていけばいいのか分からないため、どのような選択肢が考えられるのか、そうした場面で考えられる最適解や課題についても十分に検討する必要がある。つまり、計画を立案することによって、明確化された海外進出の目標を達成できるよう、戦略的な施策を立案していかねばならない。
海外進出のための調査
進出先の国や地域において、商品やサービスを提供するにあたって、市場規模や顧客のニーズ、競合企業を知ることはもちろん、現地の法律や商習慣、政治、社会情勢などもクリアにしておかねばならない
海外進出するためには、さまざまな調査を経て進めていく必要がある。進出先の国や地域において、商品やサービスを提供するにあたって、市場規模や顧客のニーズ、競合企業を知ることはもちろん、現地の法律や商習慣、政治、社会情勢などもクリアにしておかなければならない。
調査方法は大きく自社分析をはじめとする国内での「予備調査」と、実際に現地で行う「現地調査」に分けられる。
国内での予備調査
まずは、立案した計画を実行に移せるのか、自社による調査を含め、国内でできる予備調査を進めておく。調査しておく項目は下記が想定される。
- 現地の市場規模や市場環境の特性、経済の成長率、流通など
- 原材料や部品調達、インフラの整備状況など
- 規制・法律・税制・商習慣など
- 資金調達方法・現地の金融制度
- 社会情勢・政治など
- パートナー企業、日系進出企業などに関すること
- 現地の住環境に関すること
自社での調査には限界があるため、現地の状況に精通した専門家を活用するべきだろう。
現地調査
国内での調査結果が完了した後、現地調査を実施する。国内で調べられないことについて細かく調査が必要になることはもちろん、国内調査での内容が正しいのかを精査する必要がある。国内調査では現地のリアルな状況が掴みにくいこともあり、誤った情報や古い情報が広がっている可能性もある。特に、治安や社会情勢は現地にスタッフを派遣するうえで、安全に暮らして働くためにはとても重要になる。
また、現地の労働者の質においても現地調査で把握することができる。さらには、パートナー企業や取引先を獲得するためにも、現地調査は重要だ。
JLL日本がマーケット調査によって日本企業の海外進出を支援した事例
JLL日本 サプライチェーン&ロジスティクス コンサルティング事業部は、インド進出を検討する日系ヘルスケアメーカーから製造拠点の開設にむけて、物流・労務・仕入れ先・不動産を含めた包括的なマーケット調査及び候補地選定のプロジェクト業務を受託。JLLインドと連携し、多角的な視点から調査・分析を実施し、同社事業が最も適した不動産戦略を導き出し、海外進出を成功に導いた。
海外拠点設立手続きへ
計画の策定や調査を経て、海外進出が決定すれば、計画に沿って海外拠点設立手続きへと進んでいくことになる。拠点設立については、進出する国によって手続きの方法は異なり、米国のように州ごとに異なるケースも存在する。また、拠点設立に伴う費用や手続きの煩雑さ、必要な日数も様々。同時に銀行口座や税務に関することなど、各国での状況や形態などについて調査しておかなければならない。
まとめ
国外には新たな販路を拡大できる可能性があり、また少子高齢化に伴う人手不足を背景に人材確保を目的として海外進出を目指す企業が増えている。しかし、リスクやトラブルも多いことから、海外進出しなければならない理由を明確にしなければならないだろう。そのうえで計画を策定し、十分な調査を経て、進めていかねばならない。